和歌山旅。日本人万歳。
大学4年生。
1〜3年生の時に単位はそこそこに取り終えていた為、自分の為に時間を費やしていた。
とにかくバイトを入れてお金を貯め
渋滞を避けるため大型連休直後に止まり掛けで
よくロングツーリングをしていた。
今思えば自分探しの旅だったか?
見ず知らずの人と喋る事に抵抗がないと知ったのは
この一年間の色んな出会いだったかもとよく回想をする。
4年生の秋口。
本屋で買ったツーリングマップを開いて紀伊半島一周にペンでなぞった。
観光地は沢山行った。
獅子岩で散策した後
駐車場へ戻ると知らない中国人が勝手に僕のバイクを跨いで写真を撮りあっていた。
近づいてツタナい高校生英語を中国人に振りかざし、
何だか通じていたみたいで、
親近感を持たれてしまったのが良かったのか悪かったのか。
近くの大型バスからぞろぞろ中国人が降りてきて
当時最盛期であったFacebookに載せたいと言われて社会主義の波に少し飲まれた。
日本人は、すかさずイエスだ。
那智の滝に向かう途中、
近くの道の駅で休憩したところ
フルカウルのスポーツバイクライダー(以下フルカウル)に声を掛けられて
フルカウルは寄る予定ではなかったが
那智の滝まで行くよと
手助けしてくれてツーリングだけでなく徒歩でしか近づくことができない滝の下まで案内してくれた。
当時2.3年前くらいの大型台風の影響で
国道も観光に関係した庁舎もいたる所に損害を受けていた。
その説明をフルカウルが凄く丁寧にしてくれた。
どの土地でも道や天気の話はしたいし、頑張る若者には手助けしたいんだろうな。
那智の滝の前で撮った写真は
唯一自分が映っている。
フルカウルが僕の携帯で撮ってくれた。
シャツはよれよれ。
顔は引きつっている。
写真を撮られるの慣れていないしツーリングの疲れも見える。
那智の滝を散策した後、フルカウルに別れを告げて
その山の上にある那智神社へ徒歩で向かう。
神社の境内に入り、建造物の写真を撮る。
神社の建造物は築年数を見て当時どうやってこの木々を組み立てたのだろうと考えながら見るようにしている。
釘を使わないで嵌合させて剛性を持たせる造りというのが見ていて少し興奮を覚える。
お賽銭箱近くがとても派手な造りをしていたので
少し遠くから写真を撮る。
恐らく一人で来ていた中年男性が
こちらを見てピースをしてきた。
「ワシを写したいんとちゃうか?」
一瞬の判断でイジっていいオジさんだと思った。
「邪魔邪魔ー♪神社を見に来たんですよ」と返す。
「後悔するでー(笑)」と何処かへ消えていく
関西人はフリがあるとボケるって本当だったんだ。
フッた覚えは無いが。
大型連休の後にツーリングへ行く醍醐味として
宿を予約していなくても
自分が疲れたり、日が暮れそうな時に好きなタイミングで宿に寄って泊まる場所を決められることだ。
那智神社を後にして
紀伊半島の海岸沿い42号線をひたすら走る。
日が暮れる前、遠くに高さのある旅館を見つける。
ここなら夕暮れも見れていいだろうと直感で宿を決めた。
ロビーへ入ると有名人の写真とサインが何枚か額に入っていた。
当日のチェックインの為、
夕食のフルコースの品目が限られるが
一泊泊まることが出来た。
直ぐに部屋へ荷物を置いて、
屋上へ出た。
足を伸ばせる椅子に腰を下ろして
柵の向こうの海が赤く染まるまで旅の疲れを癒やした。
後ろで物音が聞こえてきた為、
振り返ると40代位の男性がお祭りイベントを用意していた。
赤ちょうちんや沢山のヨーヨーを浮かべるプールやヒーローのお面が掛けてあった。
ホテルの屋上で町おこしとはとてもオツで
海の景色と相まって
何だかすごく心が温かくなった。
その気持ちのままお風呂へ入り
入浴を済ませた後、また海を眺めたかったから
入浴セットを抱えたまま
もう一度屋上へ出る。
辺りは暗くなり、
海の表情は先ほどとは全く違っていたが、
飾られた赤ちょうちんや電飾に光が点いていた。
旅館の屋上と祭り飾りと暗い海。
二度と出くわす事の無いだろう組合せに
少し興奮する。
子供が小さなプールに浮かべたヨーヨーを釣っている。
初めてヨーヨー釣りを体験する様で父親が丁寧に教えていた。
掛かっているお面は今風のアニメの主人公だった。
アニメはあまり追っかけてみていないから
どんなキャラクターか分からなかったが、きっと子供には熱狂的になるのだろう。
お客さんがいなくなった頃に
もう一度しばらく海を眺めた。
「先ほども海見られてましたね」
突然声をかけられる。祭り飾りを準備していた店員だ。
「旅館の屋上で海も観られてお風呂上がりに涼めてお祭り景色が見られるなんて最高です」
正直に伝えた。
「実は。。」
地図も見ず適当に入ったのだが
数キロ先は有名な観光地である白浜だ。
観光地から少し離れているため
旅行会社からの誘致が中々得られず団体客の集客が取りづらいらしい。
地元のお客さんの集客を狙って祭りイベントを開催しているらしかった。
話の内容を咀嚼して
「もしかして。。失礼ですが、社長さんですか?」
「実は婿養子で嫁いだんです。社長の娘の旦那。だから色々と企画してこんなイベントやってるんです。」
少し遠くで起きた流行りに乗り切れなくて
自分が取り残される経験ってあるよなあと思った。
しかも嫁いでるから立場も色々と考えなきゃいけないし、相当娘さんを愛しているんだなあとも。
勝手に同情が湧き出てきて
沢山話を聞いた。
話が盛り上がって
電飾の明かりを半分くらい消して
二人で椅子に脚を投げ出して喋っていた。
海を見るとイカ釣り漁船が10槽ほど出ていた。
イカをおびき寄せる為に光を照らしていて
地味ではあるがすごく幻想的に見えた。
別れる頃に
「色んな話が出来てすごくスッキリしたよ。いい夜にしてね。おやすみ。」
そう言ってくれた。
朝を迎えて一階のロビーに向かう。
受付をしてくれたのは昨夜の婿だ。
お会計を済ませた後、受付の向かいにある喫茶店に案内してくれてコーヒーを淹れてくれた。
この人は何でもやる。吸収力が凄い。
別れ際、
「君は恋人はいるの?」
「いないです」
「そっかでもまた来てよ」
「必ず新婚旅行で来ます。いつかの花嫁と。食堂の箸袋に住所があったから大切にしまっておきます」
「本当に来てくれて忘れてたらごめん」
「許しません」
最高な旅館だった。
上記以外にも色んな人に会ったり観光地に行った。
日本人である以上、日本の色んな景色をみたいけど
色んな日本人に会うのが一番だ。
共生する力は外国人より強いと思う。
さあ!日本人万歳。