昭和の不味いラーメン屋さん
先日、友人に勧められたラーメン屋へ向かって自転車を走らせた。
ラーメンの好みは千差万別、十人十色ではあるが
友人の話を聞くところ、町中華に近いラーメン屋でそれが個人的にかなり好みだったのが自転車を走らせた理由。
家からは約10分ほどの道のり。
グーグルマップを参考に自転車を走らせ、通ったことのない道をくねくねと走り、人が一人しか通れないような道をわざと選んで道草をつまみ食い。
グーグルマップの目的地と現在地とが重なりそうになったとき、
携帯から顔を上げると店名が分かりやすく書かれた看板が見えた。
。。。。
「本日定休日」
おぅおぅ。オーマイガーだ。
口の中は完全にラーメン受け入れ体勢。
切り替えよう。違う店だ。違うラーメン屋だ。
グーグルマップをタップする。
検索タブに「ラーメン屋」とフリック。
近くにあった。
評価数35に対して☆3.9。
悪くない。
再度グーグルマップを頼りに自転車を走らせる。
再度、目的地と現在地が重なりかけた。
携帯から顔をあげ、店を直視。
本日2回目のデジタル世界と現実世界の答え合わせ(黙れ)
のれんが出ている。
店構えは一階が店舗で二階が自宅の
よく見る建造物だ。
そして、何より少し汚い。
町中華感をくすぐる。
これが素晴らしいのだ。
友人にすすめられた店よりも
外観は、さらに町中華ポイントは高い。
これはイケる。
ラーメン受け入れ体勢が異常に高まる身体が
少し痙攣を起こし
喉を鳴らしながら、のれんをくぐる。
ガラガラと音を立てて引き戸を開ける。
「いらっしゃい」
声の主は視界にはいない。
左に目をやると
厨房とカウンターが並ぶ
開店して30分経っていたが客は誰もいない。
右に目をやると
段が一つ上がり、
リビングのような構造になっている。
そこに女性の声の主は居た。
「ちょっと待っててね〜」
老女性は、老男性のオシメを替えている様だった。
老女性は慌てた様子で一つ段の上がったリビングを仕切るカーテンを閉めた。
暫く待っていると老女性が
カーテンではなく奥の方から
汗をかいて、お待たせね〜と言って
左手の厨房へ向かった。
あまりの別空間に呆気にとられ
お客であったことを忘れていた僕は
老女性が厨房に向かうのに合わせて
カウンター席の一番奥に座った。
直立するメニュー表を見る。
どのメニューも安すぎる。
とにかくラーメンを欲していたから
ラーメン(550円)と野菜炒め(550円)を頼んだ。
汗をかいた老女性が、
せわしなく調理に入った。
中華料理店特有の大きな寸胴が
茶色いスープの波を打っていた。
目線を老女性にやると
大きな火を立てて
野菜の入った中華鍋を揺らす。
野菜炒めがカウンター前の高台に出る。
味は美味しかった。
昭和の定食屋の味だ。
母親の実家の近くにある定食屋と全く同じ味だ。
なんだろう。
物凄く美味しい訳ではないのだが、
思い出補正がやけに効いて、
総合得点が高くなる。
食べ終えて
グーグルマップを再び開いてお店の詳細を開く
料理の写真があった。ん。少し違う。
恐らく写真はベッドにいる
旦那さんが作った料理だ。
本当は旦那さんが厨房で鍋を振る係なんだ。
ラーメンはスープがとてつもなく熱かった。
きっと開店前から暖められていて、
旦那さんのお世話をしていたから
もの物凄い温度のスープになったのだ。
熱々の寸胴からスープを分ける。
完成したラーメンをカウンターの高台へ上げる
老女性の手は少し震えて物凄い顔をしていた。
「熱いから気をつけてね」と言った。
本当は旦那さんが厨房に間違いなく立っていたが、
病気によって妻が料理を作らなくちゃいけなくなった。
グーグルマップのあの評価は旦那さんの作った料理の評価だ。
旦那さんの快方を祈りながら
お店を後にして
自転車のペダルを踏む。
チェーン店が立ち並ぶ大通りを帰り道にして
自転車を走らせる。
このチェーン店では
いつも同じおいしい味に作られるように
マニュアルが設定されているはずだ。
昭和から守り続けた味は
昭和から始めなければ作れない。
例えば、令和でお店を建てて
50年お店を続けたら昭和の味になるのかな?
味は確かに美味しくはなかった。
が、あのお店の歴史を少し垣間見えたし、
昭和を生きてきた旦那さんの作る料理を
いつか食べてみたいと思った。
胃が揺れて、
ゲップが出る。
うっ。
やっぱり美味しくなかったな。