コクワの恩返し

殺生してはならない。
殺生すればそれを自分の生命に返さなければいけない。





誰に教わった訳ではないけど
そんな事が身についている。





両親は田舎育ちだからそれがDNA的に引き継がれているかもしれない。

特に父方のおばあちゃんは

マムシを見つければ急いで家に戻って
ハエ叩きを用意して動かなくなるまで叩いて

乾かして皮を剥がして粉にして
滋養強壮の漢方として飲んだり、

乾かした後に酒に漬けて飲んだりしている。








自分には動物の命は、自由であってほしいと願う。



以前に、会社内の倉庫で鳥除けの樹脂製の紐に脚を絡めてビッコをひいて歩く鳩を見つけた。


会社の周りに木々は無く、鳩は住む拠点が無いから倉庫の軒下の狭い空間を拠点にしていた。


会社としては製品に糞を落とされては、ということから鳥除けの仕掛けをしていた訳だが、
鳩にとっては住む場所が近くには無く全くの不本意だ。



脚から血を流しビッコを引く鳩を見て急いで事務所から小さなハサミを探して紐を解いてあげた。

なんとか飛べるようになって空へ帰った。

次の日、所長からあの怪我をした鳩は君が処置をしてくれたんだね?と言った。

所長は知っていたのだ。僕より先に。



  






動物園に行けば檻に囲まれた動物が
金網の外へ鼻を出して人間にエサを要求する。




野生の動物は自分で探して餌を求める。
死にものぐるいで餌を求めて餌にありつけず
息絶えてしまうかもしれない。



そう思えば定時に人間がくれる餌を貰えれば幸せなのかもな。
苦労をして食べ物を得られる幸せが無いからそれはそれで幸せは薄れるのかな。





テレビの特番で旭山動物園の館長が言っていた2つの事が思い出される。


1つ目は、
檻の中にいる動物園の動物はかわいそうだ。
という意見があるが、
動物たちは全く不幸せではない。
そして、何より動物たちの姿を来客した方に見て貰うことで動物に対しての尊敬が増える事がもっと大事だと。


2つ目は、
野生の鳥は共生している。
ある鳥Aとある鳥Bは同じ木の実を食べられるが
鳥Aしか食べられない木の実が多い森の場合、
鳥Bに気を遣ってAしか食べられない木の実ばかりを食べるそうだ。


鳥に言語があれば成立しそうな事だが
そんな事はない。


周りにいる鳥たちの行動を見て住む森を共生しようとしている。








ある朝、目を覚まし、
イヤホンをつけてラジオや音楽を聴きながら
いつも通り朝ご飯を済ませて
昼ご飯をタッパーに詰めて
着替えを済ませる。



外は少し明るい。
階段を降りる。




すると階段の途中にコクワガタが歩いていた。
住むアパートの周りに野生のコクワガタがいるとは思えない。



じっとしばらく見てみたが少し弱っていた。



階段にいたままでは踏まれて命を終えてしまうかもしれない。




少しでも延命を、そしてひっそりと自然な形でその生命を終えて欲しいと願い、植木の多い隣の敷地へ逃がしてあげた。



じっと見てみる。
コクワガタは角を小刻みに動かす。
脚を動かしているが前には進まない。




何もしてやれないけど
冷たい階段よりはいいと思うんだ。
少しゆっくり休んでくれ。





そう心の中で伝え
立ち上がり振り返ると、
アパートの階段の真裏。

誰にも目に触れないスペースに
エロ本数冊が積み上げられていた。




コクワガタ、階段、エロ本。




グーグル検索に絶対引っかからないワードが揃って、頭の中が混乱する。





コクワガタの恩返しだとしたら
こいつの今世は相当エロかったんだな。





一応、全てのエロ本の表紙だけ見漁る。














どれも筆者のタイプじゃない。
塾女、ロリコス好きエロコクワガタ。

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