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【りりのーと】『本と鍵の季節』
こんにちは!
はじめましての方ははじめまして!
半年くらいサボっていた読書ノートをリニューアルして再開しようと思います。果たして覚えている方はいらっしゃるのでしょうか。
そんな疑問は置いておいて、最近いきなり秋になってビビってます。こうも突然季節が変わると、夏に置いて行かれた気分ですね。しかしながら、過ごしやすい気温になり読書も捗りそうです!
今回の読書ノートはそんな季節の変化を感じる今にぴったりの本の紹介になるのではないでしょうか。
基本情報
タイトル:『本と鍵の季節』
著者:米澤穂信
キャッチコピー
移ろう二人の友情
あらすじ
堀川次郎、高校二年で図書委員。不人気な図書室で同じ委員会の松倉詩門と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、本には縁がなさそうだったが、話してみると快活でよく笑い、ほどよく皮肉屋のいいやつだ。彼と付き合うようになってから、なぜかおかしなことに関わることが増えた。開かずの金庫、テスト問題の窃盗、亡くなった先輩が読んだ最後の本
一青春図書室ミステリー開幕!!
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ここ好きポイント①:
似ているようで似ていない二人の探偵役
あらすじの通りこの話は、堀川次郎と松倉詩門が同じ図書委員になることから始まります。彼らはいわゆるクラスの中心となるようなタイプではなく、まさに図書委員という役職がに合うような人物であり疑問を解決せずにはいられない探偵役にぴったりな性格をしています。共通項の多い彼らですが、正解に至るアプローチは異なります。上がった手がかりから可能性を閃き正解に至ろうとする堀川と、客観的事実から可能性を潰していき一つの答えに絞るアプローチをするのが松倉です。
似たもの同士の彼らですが解答へのプロセスは全くの逆の手段を取ります。しかしながら、推理パートの息の合いようは目を張るものがあります。堀川が閃き、松倉が精査する。推理パートでのこのコンビネーションが本書の魅力と言えるのではないでしょうか。
ここ好きポイント②:
季節とともに変化する二人の友情
本書にはたびたび「まとわりつく暑さをなんとかしようと」や「寒さが不意に染みてくる。(中略)秋はもう深かった。」のような季節を表現する文章が見られます。それにより堀川と松倉の関係性の変化を察することができます。
「913」では、「吹いていく風の中にはまだ涼しさがあり、(中略)あたりは静かだった。」や「湿気った暑さの中に、一瞬、良い風が吹いた。」という描写があります。堀川が松倉の新たな一面に気がつくと、それは例のようになぞらえた表現がされます。これらは快活でよく笑いほどよく皮肉屋な松倉のいつもの余裕が表されていると考えられます。この表情を見て堀川は松倉との友情を感じるのです。
「昔話を聞かせておくれよ」では、「冬間近な風」や「冷たい風」という表現がみられます。これは松倉のアイデンティティがどのように形成されたかの背景を知る中で、彼の快活さが見えなく触れてはいけない領域に踏み込んでいるのでは無いかという松倉の恐怖の感情を表していると考えられます。
初夏から冬にかけて彼らの友情がどのように変化していくのか、そこに注目して読んでみるのも一興だと思います。
ここ好きポイント③:
やるせない推理
二人の推理に至るアプローチが異なることを紹介しました。問題点を列挙し新たな視点を見つけ矛盾なく精査していく二人の推理の過程には知的好奇心を満たしてくれるようなゾクゾク感を得ることができます。しかしながら導き出された解答は明快なのにその後のストーリーはやるせないものになってしまうのです。それが顕著なのが「ない本」の推理です。
「ない本」では二人のコンビネーションからなる推理が展開され課された問題に明確な解答を出すことに成功します。ですが、彼らの出す解答は出題者の感情には一切寄り添ったものではありませんでした。友人が自殺して亡くなった依頼主の感情を察することができず、自身の感じた疑問を明らかにせずにはいられない性癖によって、一線を超えてしまいます。正解が絶対に正しいとは限らない青春時代の難しさのようなものが表現されているのではないでしょうか。
答えを導いてもやるせない関わるべきではなかったと思わせる苦々しさが残るのが本書の魅力の一つだと思います。
この本の主題:
青春の生々しさ
私はこの本の主題は「青春の生々しさ」だと思います。何も知らない状態では良いと思えるものが深く関わるようになることで、正しいと思えなくなってしまう、堀川と松倉の解釈の違いやすれ違いによってその生々しさがより濃く表現されているように感じます。
商品ページ
終わりに
ここまで読んでいただきありがとうございました。私なりに本書の良さを伝えられたと思えるので満足しています。色々語りましたが、本書は短編集なので気軽に読んでみてはいかがでしょうか。
続編も出ているようなので、そちらも是非!!いずれ読書ノートにしようと思っているので見かけた時はよろしくお願いします!