日本小児科学会の小児コロナワクチン推奨声明(追補版)に関する批判的吟味 2023/9
注釈:「批判的吟味」という言葉は専門用語であり、「批判」とは違います。論文や学会声明など科学的内容に対峙するときの科学者の基本的姿勢を表した言葉です。批判的吟味を行った結果、その論文の内容に賛成する、ということも多いです。論文に関わった人達や小児コロナワクチンを推奨する医師個人の価値観を批判しているわけでもありません。
2023年9月20日からXBB対応ワクチンが小児も含めて接種開始となります。
現在、少なくとも健康な小児においてSARS-CoV-2は「感染してはいけないウイルス」ではないと思います。コロナワクチンを投与するベネフィットは少ないため、これまでに判明したあるいは今後判明するかもしれないリスクを重視した方がよいと私は考えています。
日本小児科学会は2023年6月に「小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」の追補版https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=507
をホームページに掲載し、相変わらず「生後6か月~17歳のすべての小児に新型コロナワクチン接種を推奨」するという姿勢を崩していません。学会のこの声明に関して批判的吟味という科学の基本的スタンスに則って、以下に私見を述べていこうと思います。
日本小児科学会は4つの理由を元にワクチンを推奨している
同学会は新型コロナワクチン接種推奨の理由を以下のように述べ、根拠として1)〜18)までの参考文献を提示しています。
WHOの指針は、自然感染とワクチン接種によって多くの人がSARS-CoV-2に対する免疫を獲得したことを受け、医療資源の最適な分配について検討し、重症化のリスクが高い者へのワクチン接種が優先されるように提言を行ったものです。その上で、同指針では国ごとに疾病負荷、費用対効果、機会費用(opportunity cost)を照らし合わせ方針を検討すべきとしています。なお、小児や思春期小児に対するワクチン接種は有効かつ安全と記載されています1)。
5都道府県の一般住民(成人)を対象とした抗体保有率調査が2023年2月3日~3月4日にかけて行われ、自然感染を意味する抗N抗体の保有率は32.1%と報告されました4)。小児の正確な感染率は不明ですが、現時点でも多くの小児が未罹患であることが想定されます。一方、2021年11月時点で世界人口の4割が既に感染したと推計され5)、それ以降に行われた各国の血清学的調査からも、大半の方が自然感染したことが示唆されており6)~11)、国内の状況とは大きく異なることに留意が必要です。
日本人小児のSARS-CoV2感染者の中で、稀ではありますが一定数は急性脳症や心筋炎を発症しており、その多くが後遺症を残していること、死亡に至った症例もいることが確認されています12)13)。更に、感染者の一部には発症後1か月以上にわたり症状を訴える方もいます14)。
小児に対するワクチン接種には、発症予防や重症化(入院)予防の効果があることが複数の報告で確認されています15)~17)。また有害事象は国内では副反応疑い報告としてモニタリングされ、重大な事象は慎重に検討されていますが、現在までのところ接種推奨に影響を与える重篤な副反応はないと判断されています18)。
上記を要約すると以下のような感じです。
1.WHOは「健康な小児のコロナワクチンの優先度は低いが、安全性・有効性は問題ないので、国ごとの状況で必要性を検討せよ」と言っている。
2.日本は世界各国より罹患率が低い(抗N抗体データからの判断)。
3.日本人小児では稀に急性脳症・心筋炎を発症し、後遺症残存や死亡例もある。
4.ワクチンには発症予防や重症化(入院)予防効果があることが確認されており、かつ重大な副反応はない。
・・・なので、日本では小児コロナワクチンを推奨するという論調です。
それでは1つずつ、批判的吟味を加えていきます。
1.「WHOは国ごとに必要性を判断せよと言っている」
根拠として挙げた文献 1)https://www.who.int/news/item/28-03-2023-sage-updates-covid-19-vaccination-guidanceは2023年3月にWHOが発表したワクチンに関するガイダンスです。優先度を高・中・低の3つに分け、それぞれにおける推奨度を明示しています。基礎疾患のない小児は低優先度です。中優先度では1−2回は推奨するが3回目以降の追加ブースターは推奨しない、低優先度では1−2回目の接種すら推奨しないので費用対効果よく考えて各国で判断せよ、と明記されています。
また、1)には安全性・有効性に関して ”Primary and booster doses are safe and effective in children and adolescents.” と記載があるだけでした。学会として安全性・有効性に関して国内の情報を吟味せず、「WHOが安全と言っているからそれを信じましょう」という論理です。
2018−2019年のWHO事業予算への拠出額は1位アメリカ15.9%、2位ビル&メリンダ・ゲイツ財団9.4%、3位イギリス7.7%となっています。COIを踏まえると、WHOの声明は政治・経済的要素の影響を大きく受けていると考えるのが妥当です。
ネットではビル・ゲイツの陰謀など出てきますが、その真偽はさておきビル・ゲイツの「ワクチンを広めたい」という個人的信念がWHOに影響を与えていないと言い切るのは非論理的です。WHOの言動が政治・経済的要素によって左右されてしまうのは仕方のないことであり、だからこそ、純然たる学術団体である日本小児科学会が、科学的見地から批判的吟味を行うのが本来業務だと思うのですが、残念ながら全く出来ていないです。
2.「日本の感染率は世界よりもまだ低い」
文献 4)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084515.pdfは厚労省の抗体保有調査ですが、これによると、2023年2−3月の東京での抗N抗体保有率32.2% です。世界各国でのデータはもっと高いので、日本では今後も感染が広がる可能性があるのでワクチン接種すべきという論調です。
しかしながら、この厚労省の調査結果の中には、献血時の検査用検体の残余血液を用いた16-19歳でのN抗体陽性率は62.2%(2023年2月)というデータもありました。抗N抗体は無症状患者では陽転率が低いこと、獲得した抗N抗体は長期的に減衰していくことがあるので、実際の既感染率は更に高い可能性があります。小児コロナワクチンの是非を検討する際に、あえて全年齢の低い保有率(32.2%)を示し、若年者の保有率(62.2%)を示さないことに恣意性を感じます。
3.「日本では小児コロナで重症・死亡例が出ている」
文献12)https://www.igakuken.or.jp/topics/2023/0227.html は国内18歳未満を対象とした2022年5月31日までの調査です。34名がCOVID-19に伴い急性脳症を発症し、半数以上(31名中19名)は後遺症なく回復しましたが、4名が死亡、5名に重度の後遺症がみられました。一方で、2019/20シーズンでのインフルエンザ脳症は134名、届け出時死亡は0~15歳で8名です。脳症はCOVID19に特異的なものではなく、故にワクチンで予防できるか不明です。
脳症で亡くなる小児の数が感染者数に比較して圧倒的に少ないことから、死に至る機序がウイルス由来ではなく、患者由来なのでは?と推察できます。具体的には、小児インフルエンザ脳症の要因の1つと言われているCPTⅡ酵素の一塩基多型(日本など東アジアに多い)が、小児COVID19でも関与している可能性があると思います。とすれば、小児重症化の予防策はワクチン接種ではなく、十分な解熱・クーリング方法の周知、糖分・VitB1の補充なのかもしれません。
このような科学的考察をせず、1千万人以上の健康な小児に対して盲目的に長期リスク不明の新薬(mRNAワクチン)を投与し続けるのは、「ワクチンは善」というドグマにとりつかれて、リスク・ベネフィットの判断が正確に出来なくなってしまっているためと思われます。ワクチンを一括りにするのではなく、個別に科学的に判断すべきです。例えば麻疹ですが、ワクチン開発以前は「子供の命定め」と言われるほど怖い疾患であり、だからこそ、多少のリスクを負っても接種するメリットのあるワクチンなのです。
4.「重症化予防効果はあるし、重大な副作用はない」
最後の4.ですが、根拠として3つの文献が提示されています。
参考文献15)Watanabe A, Kani R, Iwagami M, et.al. Assessment of Efficacy and Safety of mRNA COVID-19 Vaccines in Children Aged 5 to 11 Years: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr. 2023 Apr 1;177(4):384-394. は日本発の Systematic Review and Meta-analysis です。この論文では査読前・査読なしなどの灰色文献を除外しており、メタアナリシスの最大の弱点である出版バイアスが更に高まってしまっています。特にコロナワクチンはパンデミックを収束させる救世主として称えられつつ登場したため、不利なデータは出てきにくい(特にワクチン登場当初)状況でした。ワクチン推奨に都合のいいデータばかり集めても結果は分かりきっているので、そのようなメタアナリシスに価値はありません。灰色文献まで加えることで初めて、メタアナリシスとしての価値が生まれると思います。
参考文献16)N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):621-634 はファイザー社小児コロナワクチンの第1〜3相試験です。安全性・有効性をみる第2〜3相試験は生後6ヶ月から4歳までの3013人が対象です。当然のことながら、このわずかな人数をもって、稀に生じる重大な副作用もしくは長期的リスクに関しては判断できません。
文献17)Ikuse T, Aizawa Y, Yamanaka T, et.al., Comparison of Clinical Characteristics of Children Infected with Coronavirus Disease 2019 between Omicron Variant BA.5 and BA.1/BA.2 in Japan. Pediatr Infect Dis J. 2023 Mar 2. は新潟大学によるワクチン効果(VE)を示したものです。BA.5優位時の入院に対するVEが75%(95%信頼区間48~88%、P<0.01)であることをもって、 ワクチン接種を強く推奨しています。しかしながらこの研究では、ワクチン未接種を重症化リスクと医師が捉えて入院閾値を下げた可能性があり、VEを過大評価している可能性があります。VEの計算式の詳細も不明でした。もしVEが過大評価でなかったとしても、ワクチンを推奨するかどうかはリスク・ベネフィットの天秤を元に決定されるべきであり、「VEが高いから推奨」は短絡的です。
15)〜17)で示されているデータは入院予防効果であり重症化予防効果ではありません。一般的に重症という表現で想像するのは人工呼吸器装着を要する肺炎、心筋炎、急性脳症などですが、これらの予防効果は示されていません。15)でMIS-C(小児多系統炎症性症候群)については言及されていましたが、アメリカのデルタ期のデータであり、現在の状況には当てはまりません。
日本小児科学会のコロナワクチン推奨声明の最大の問題点
以上が日本小児科学会のコロナワクチン推奨声明に関する個人的考察ですが、この声明はベネフィットの言及に偏っており、リスクに関する記載がほぼみられていないことが最大の問題点だと思います。リスクに関しては「WHOや厚労省が安全と言っているので問題なし」というスタンスです。
日本では副反応について因果関係を示せない?
ワクチン接種後に生じた様々な症状が報告されていますが、国は基本的に因果関係までは認めていません。この理由はほぼシステムの不備によります。日本では非接種群の登録システムがないため、RCTができずに科学的な判断ができない、というのが実情のようです。下記noteから学びました。
因果関係を証明するRCT以外の方法
ワクチン接種とその後の症状に関して因果関係を証明するRCT以外の方法として、病理学的に因果の理論を示す、というやり方があります。因果関係をRCTで証明するのは特に稀な症状の場合には困難ですが、病理は1例ずつ病態を理論立てて検討することができます。ワクチンと死の因果関係を理論的に説明でき、かつ死因として他の原因を除外できれば、科学的妥当性をもって証明できたと言えると思います。
もちろん、RCTも相反する結果が出ることがありますし、病理結果も解釈の違いがあるので、100%絶対を示すものではないです。ただ、病理所見は未知の領域に挑む場合には非常に有用なツールであり、重視すべき情報だと考えています。
徳島大学法医学教室からの報告 Leg Med (Tokyo). 2023 Jul;63:102244. は以下のような症例報告を発表しています。
•14歳女児が3回目ワクチン接種後2日目に突然死
•生来健康、ワクチン翌日に発熱あるも夕方に解熱、就寝後に一度息苦しくて目覚めて姉と話すもすぐに寝て、翌朝呼吸停止状態で発見
•剖検で肺、両心房の心膜と隣接する心筋、肝臓、腎臓、胃、十二指腸、横隔膜に好酸球を含むリンパ球の細胞浸潤あり、右心室の心膜にも軽度の細胞浸潤が認められた
•ワクチンに関連した心房性心筋炎による致死性不整脈、心不全の診断
また、海外からの報告(Arch Pathol Lab Med. 2022 Aug 1;146(8):925-929.)もあります。
•COVID-19ワクチン2回目接種後に死亡した2人の心臓剖検所見
•10代少年2名が2回目接種3日・4日後にベッドの中で死亡
•病理的に典型的な心筋炎の所見認めず
•炎症とは異なる好酸球増多などの所見あり
•重症COVID19でみられるようなサイトカインストームやカテコラミン心筋炎のような病態がワクチン接種後の心臓に見られた
リスクを過小評価すると後の不信感につながる
このように因果が明らかになっている報告を無視するのは、過度なワクチン忌避を防ぎたいというパターナリズムによるところが大きいと思いますが、今後、このような病理報告が増えてきた場合にワクチン行政に対する不信感となって跳ね返ってくることは目に見えています。麻疹ワクチンのような子供にとってメリットの大きいワクチンが、今回の偏ったコロナワクチンキャンペーンのせいで接種率が落ちてしまうのでは?と危惧しています。
リスクに関しては上記死亡症例以外にも、抗原原罪、抗体依存性感染増強(ADE)、免疫寛容IgG4増加、長期的副作用など次第に明らかになりつつある病態があります。
小児コロナワクチンのリスク・ベネフィットのまとめ
リスク
①大半の小児では一過性副反応程度
②ごくまれに死亡例
③抗原原罪、抗体依存性感染増強(ADE)、免疫寛容IgG4増加、長期的副作用など未知のリスクあり
ベネフィット
①入院予防効果がある(が、圧倒的多数は入院しないので効果はわずか)
※重症肺炎・心筋炎・急性脳症を予防できるかは不明
小児にとってコロナワクチンは、リスクは少ないですがベネフィットも少ないです。ワクチンを打っても小児重症例は防げるか不明ですが、ワクチンを打たなければ重度副作用は決して生じません。
ミスリードを生む表現「入院予防効果」
入院予防効果とは・・・
日本小児科学会の声明の根拠となっている論文(N Engl J Med. 2022;387(6):525-532.)によると、シンガポールのオミクロン流行期2.5ヶ月間にCOVID19で入院したのは、5−11歳26万人のうち2回接種群42人:1回接種群100人、未接種群146人でした。それをもって「入院予防効果83%」としています。26万人対象で、146人 vs. 42人です。言い換えると、0.0561% vs 0.016%です。シンガポール全国で2.5ヶ月間に約100人の入院を防げたということです。入院を減らすだけで、重症肺炎・心筋炎・急性脳症を予防できることは証明されていません。
予防医療の特殊性
最後にワクチン含めた予防医療の特殊性について述べます。
1.リスクの重み付け
治療:病気がある状態へ介入 →リスク覚悟で治療を受ける
予防:健康な状態へ介入 →リスクを負いにくい
2.先行者と後続者の関係
治療:先行者と後続者との間に利害関係なし
予防:先行者は利益(集団免疫)を得るために後続が必要なので、同調圧力が生じやすい
ワクチンを推奨する条件
以上から個人的にワクチンを推奨する条件は以下のように考えています。
病原体要因:重症化率・死亡率が高い
宿主要因:易感染性、重症化リスクがある
薬剤(ワクチン)要因:重大な副作用が「圧倒的に」少ない
リスク・ベネフィットは患者個人が判断するもの
重症化・死者数を1人でも減らしたいという日本小児科学会の目標には完全に同意しますが、偏った科学的事実の伝え方では逆効果です。我々医師はリスク・ベネフィットを患者個人が正確に判断できるような情報提供をすべきだと思います。
以上はあくまで感染症専門医ではない一総合診療医である私個人の考えです。論文の解釈違い、専門知識の不足による理解不足などもあると思います。ただ、総合診療医的な俯瞰的見方は感染症含めた各専門医の先生方よりは慣れていることはあると思いますので、そのような背景をもった医師の1つの考え方として、参考にして頂けますと幸いです。
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