夢想

あの子にもきっと予想だにしない
過去が後ろに立ちはだかっている。

僕の上手く行っていた過去なんて水の泡。全て水中に溶け出して、今やもうただの液体なのだ。流れに身を任せ、水中を舞う僕の行き着く先なんて分からない。そこにあったはずの大きな過去でさえそれはただの今を作る要素に成り下り、それ以上でもそれ以下でもない。無常。

そんな風に自分を卑下し、可愛がって生きていく僕は自分のことで精一杯だ。人の流れの中に身を置いたときに付与される不確かな革命的思考。その中にひとつ、あの子の過去を夢想して想いを馳せるきっかけがあった。知り得ないあの子の過去。自分の過去を他人に開示しないのだから、その子の過去を教えてもらえる訳もない。そんな状況を特別重要視もせず、ただただ想像の世界で過去を夢想する。そのときのあの子の心を想ってみる。その想像が当たっているかも知り得ないのに。

風の噂にあの子の過去を聞いた。辛そうで、優しそうな過去の噂であった。辛そうというのは人々との軋轢に押し潰されそうになり、苦悩を抱えた過去だ。それを想う。優しそうというのは他でもない。現在のあの子がとんでもなく優しいから、その過去からも優しさを見つけた。

分からない。辛いという感情と優しいという雰囲気。そのふたつが同じ時を分かち、両立することなどあるのだろうか。分からない。知る由もない。ただ僕はその子のことを想いたくて想いたくてたまらない。単に好意を抱いているというようなそんな柔な心からやって来たものではない。

そっと包み込むようなそんな優しい僕の心を受け止めて欲しくて、どうにか知って欲しくて、僕は人の過去を、心を夢想することをやめることができない。本当に独りよがりだし、情けないけどいつか届く日を想って僕は生きるよ。

僕の弱さが優しさとして
君の心に刺さるときを信じて。

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