#10 KJR物語 ~Origin~
暑い夏が近づいています。
私は一年ぶりくらいに夏を日本で迎えようとしています。
夏は好きです。
汗を沢山かいた後のシャワー後がたまらなく気持ちいいし、どんどん黒光っていく私の肌がなんだか保育園の時に作った泥団子を磨いた後みたいで。
そんな暑い夏に向けたノンフィクションです。
連載2つ目です。
よろしくお願いします。
第二話 継続は力なり
蛙の朝は早い。
6時に起床する。
何故こんなに早いのか。
理由は一つである。
大海で生きていくことを決めたからには一刻も早く大海でも巧みに泳ぐ術を身につけなければならない。
鍛錬を積むしかない…
早朝のランニングとトレーニングが始まった。
蛙は朝にめっぽう弱い。
当時寝坊をしてしまい、朝ごはんを食べられず、みんな大好きオルナミンCだけをぶち込んで学校へ向かうこともしばしばあった。
そこで救世主として現れたのが近所に住むチームメイトのTだ。
彼は私と同学年ながらスタメンとして試合に出ていた。実力もありながら助けてもくれた。
彼は毎日私の家に現れては私を叩き起こし、ランニングとトレーニングに付き合ってくれるのだ。
本当に素晴らしい人間に囲まれたなと今になってしみじみと思う。
だが、成長というものはそう簡単に目に見えて現れるものではない。
「神様はきっといないんだろうな」
そう蛙が思うほどに、私の立ち位置はそこから当分変わることがなかった。
だが、やり続けた。
継続は力なりと信じて。
あれほど一日中泣きわめいていたセミの声が聞こえなくなってきた頃。
所属するチームのチームメイトのほとんどは同じ学校だが、蛙を含め数人は通う学校が異なるため、チームメイトのほとんどが学校の行事でいなくなることがある。
だが、大会はやってくるので残された低学年と私を含む他校のメンバーで戦わなければならない。
蛙にここでチャンスが訪れる。
いつものようにメンバーが発表された。
するとあろうことかいつもの攻撃を引っ張るポジションのFWではなく、DF(主に守備)としてスタメンに選ばれたのだ。
理由はDFがいないからというシンプルなもの。
「どうする?やってみるか?」
という監督に即答した。
「やらせてください!」
初めてのポジションだったが、とにかく一つだけ意識した。
「目の前の相手には絶対負けない」
昔から見ていた親父の唯一の長所、高さを武器にしたヘディング。
蛙の身長は決して高くなかったが、昔から親父の試合を見続けていたせいか何となくヘディングの勝ち方が分かっていた。
試合後、監督にベタ褒めされた。
風向きが大きく変わった。
そこから蛙はトップチームではDFとして、5年生チームではFWとしてレギュラーを獲得した。
玄関で待つ母に得意気な顔をして言った。
「ほらな!言ったやろ!」
嬉しそうにしている私を見て、同じかそれ以上に微笑む母の顔がそこにあった。
そして蛙は6年生になった。
与えられた背番号は10番。
サッカーにおいて10番はエースやチームの大黒柱を意味する。
まさか自分が10番をつけるとは1年前、井戸から出た時には想像できなかった。
週6日ある練習と試合を一生懸命やった。
加えて始めた朝練。
毎日ヘトヘトだった。21時に寝てた。
だが、どんなにヘトヘトでもやった。
代わりに21時に寝た。
先は見えなくてもとにかく続けた。
だけど21時に寝た。
それが結果として現れたこの瞬間はきっと忘れることはないだろう。
21時に寝てたことも。
初めて努力が報われた瞬間だった。
最後の一年は風のように過ぎていった。
全日本少年サッカー大会は県大会ベスト16であっけなく敗れ、その他の大会も優勝することは出来なかった。
準優勝ばかりだった。
そして、広島のJリーグチーム「サンフレッチェ広島」のJrユースのセレクションにも一次で落ちた。
自分には力がない。
ひょっとしたらいけるんじゃないかと少しだけ伸びていた鼻をすぐに折られた。
努力が報われた喜びを知った以上に、自分の力のなさを知った。
大海に出たと思っていた。
しかし井戸を出ても、また外により大きな井戸が広がってるだけだった。
蛙はどこまでいっても蛙のままだった。
丁度時を同じくして、地元の広島県立広島皆実高校が冬の選手権で日本一に輝く姿をTVで眺めながら、こんなに広い全国大会という海でこのお兄さん達みたいに上手に、そして楽しそうに泳げたらどんなに幸せなのだろうか。
また大きな海に出たいと思った。
蛙はどこまでもバカだった。
また頑張り続けるだけだ。
そう強く思った。
当時の私がつけていたサッカーノートにどでかく書かれていたこの下手くそな文字。
24歳となった私には今、12歳の少年が度重なる挫折に対して自らに言い聞かせているかのように見えた。
不安で不安で仕方がない「自分」に負けないようにと。
1ページを何とも中途半端に使い切るという不器用さはここでは置いておきたい。
継続は力なり。
今も変わらずこれが私の座右の銘だ。
TO BE CONTINUED
P.S.昔の日記やサッカーノートを振り返ったりするのは実家に帰った時あるあるで、これ誰にも見せれんなっていう恥ずかしい気持ちになるけど、こうやってまた自分を奮い立たせてくれることもあるのだなと今回知りました。書いてみるもんやなぁ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?