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変化の激しい生成AI領域で競合優位性をつくる6つの方法

GPT-4やStable Diffusionなど次々と優れたAIモデルがAPIやオープンソースの形でリリースされている中で、そうしたAIモデルを組み合わせた新規サービスや、既存のサービスにそうした生成AIを組み込む領域には大きなビジネスチャンスがあります。

下のa16zの生成AIスタックの右上のアプリケーションレイヤーの戦いです。

(a16z) Who Owns the Generative AI Platform?

しかし、この領域の戦いには固有の1つの課題が存在します。

それは、次々と新しいモデルがリリースされる生成AI領域のスタートアップにおいて、生成AIモデルはより高機能なモデルが日々リリースされるので機能それ自体は差別化要素にも長期的なMOATにもなりえないという課題です。

現時点で個人的には、生成AI領域で競合優位性を獲得するための戦略は大きく分けて6つだと思っており、このnoteではそれを紹介したいと思います。

競合優位性には短期的な差別化要素と、中長期的なMOATの2つに分けられ、以下それぞれの項目ではどちらに効く優位性なのかも併記します。


① UI/UXを洗練させる(ex. Jasper)

短期的差別化:大
中長期MOAT:小

優位性をつくる手段の1つ目はUI/UXを洗練させることです。

使用しているAIモデルは他社も利用できる一般的なものでも、その組み合わせの妙や、インターフェイスの練度によって差別化を図ることができます。

生成AIを活用してWEBコンテンツなどの作成を効率化できるSaaSを提供するJasperなどはまさにその好例です。

Jasper自体は独自の生成AIの開発はしていませんが、Deloitter、intel、airbnb、Googleなど10万以上の顧客が導入している人気生成AI SaaSとなっています。

Jasper

Yコンビネーター出身のJasperですが、去年10月に約2000億円の評価額で資金調達するほどの急成長スタートアップになっています。

TechCrunch


② 独自データを活用しつつチューニングの精度を上げまくる (ex. DoNotPay)

短期的差別化:大
中長期MOAT:中

2つ目の競合優位性のつくり方は、独自データの活用とそれによりチューニングの精度を上げまくることです。

生成AIを活用して弁護士の代替と訴訟の自動化を実現するDoNotPayなどがその好例です。

DoNotPay


③ ネットワーク効果が活きる領域でスピード勝負する (ex. Character.ai)

短期的差別化:小
中長期MOAT:大

競合優位性を構築するための3つ目のアイデアは、ネットワーク効果が活きる領域でスピード勝負に持ち込むことです。

好きな人格のAIキャラクターをユーザーが作成できて、他ユーザーが作成したAIキャラクターと交流できるCharacter.aiなどはその最初の例の1つだと思います。

Character.ai

つい先日、Character.aiはAndreessen Horowitzのリードで評価額約1300億円での資金調達に成功しています。
(個人的にはCharacter.aiは独自技術やプロダクトが卓越している訳ではないのでこの評価額はだいぶOverValuedだとは思います。)

NewYorkTimes


④ キャラクターIPなどの希少資源をBizDevで抑える

短期的差別化:大
中長期MOAT:大

ミッキーマウスや、ジャニーズのアイドルなど自分が偏愛するキャラクターや人物の人格を再現したAIと24時間いつでも会話できるサービスがあったら人々が飛びつくのは想像に難しくないと思います。

まだ自分の観測範囲ではそうした強いIPと生成AIを組み合わせたサービスは見つけられていないですが、間違いなくこの領域はこれから盛り上がります。

日本も強力なIPを多数有しているので、この領域でいまのうちから仕掛けていくべきだと思っています。

たとえばドラえもんやクレヨンしんちゃんなどのキャラクターの人格をGPT-4ベースで再現してそれらしいやり取りができるようにするのはそこまで難しくありません。

リアルなアイドルはBTSのBT21のように各アイドルをキャラクター化した疑似人格を作り、その疑似人格キャラクターと会話できるという1クッション挟んだ設計にすることで、まだ若干枠を外れた回答をしてしまう生成AIのリスクをうまくヘッジしたサービスが構築できるはずです。


⑤ スイッチングコストを高める (ex. Mem)

短期的差別化:小
中長期MOAT:中〜大

Notion対抗のAIノートサービス「mem」のように、ユーザーが使えば使うほどデータが蓄積して他サービスに移りづらくなるなどのスイッチングコストを高めることにより競合優位性を構築するという戦略です。

mem

いずれ機能面の差別化は効かなくなるのを見越しつつも、短期的な差別化価値を機能面でつくってユーザーを獲得しつつ、ユーザーがサービスをある程度の期間使えば離れないような構造をつくるというものです。

この戦略の注意点は、いままでの考え方であればデータのエクスポートをできないようにするなどの防衛策が取れましたが、ここまでAIが進化していきている中で競合の許可なくともデータをインポートする方法はいくらでも出てくるので完全なMOATにはなりえないという点です。


⑥ 規制領域で自社に有利になるようロビーイング

短期的差別化:大
中長期MOAT:大

シンプルに実現できれば短期的にも中長期的にも強力な競合優位性を構築できる策です。

特定領域の日本の法律や規制をGPTにつっこんで、それを考慮した上でアウトプットを生成する特定領域のバーティカルSaaSは今後多数出てくるかと思いますが、自社に有利になるように規制側と協調できれば大きな競合優位性となります。

まとめ

以上、現時点で思いつく生成AIのアプリケーション領域における競合優位性のつくり方についてまとめてみました。

細かいものも含めれば他にも項目あると思いますし、主要なものでも抜け漏れはまだあると思うので今後アップデートしていこうと思います。

生成AI領域を自社事業に活用したい企業の顧問・コンサルティングの仕事もいま少しお受けしているので、ご興味がある企業の方はお気軽にTwitterなどでご連絡頂けますと幸いです。


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梶谷健人 / 新著「生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方」
AIやXRなどの先端テック、プロダクト戦略などについてのトレンド解説や考察をTwitterで日々発信しています。 👉 https://twitter.com/kajikent