リスクリテラシーあるいは医原病の回避
ゲルト・ギーゲレンツァー氏は現役のドイツの心理学者だ。「意思決定における限定合理性とヒューリスティックの利用」に関する研究の権威であり、リスクリテラシーの重要性を広く啓蒙している。氏曰く、
「医師にどうすればいいかを訊いてはいけません。私の立場だったらどうなさいますか?と訊くのです。あなたは返答の違いに驚くことでしょう」
対人援助職に携わる者としては、怖い質問だ。ストレートな回答はできないにしても、真摯に応じられるだけの経験と覚悟を持たねばならぬと思う。
ふと思い出したことがある。たぶん僕が中学生の頃のことだ。
幼い頃から極度の近視であった僕は、分厚いメガネが嫌で仕方なかった。誰かとケンカになりそうになる度に「メガネ壊したらオトンにどやされる」という認知が浮かび、結果極端なビビりになった。クリアな裸眼視界を手に入れればこの呪縛から解き放たれると信じていた。
追記)高校生になってソフトコンタクトに変えたのにビビりが治ることはなかった。つまり、先の信念は単なる回避反応の合理化に過ぎなかったことが証明されてしまったわけだ。
閑話休題。話は中学生の頃に戻る。
そんな折、僕は画期的な近視矯正手術が開発されたというニュースを見つけた。スヴャトスラフ・ニコラエヴィチ・フョードロフというロシア(当時のソ連)の眼科医のアイデアだったらしい。角膜に傷を入れる方法で、今でいうところの「レーシック手術」の走りだ。
開発されたのは1974年のことらしいが、1980年代後半にミハイル・ゴルバチョフによって開始されたベレストロイカの流れに乗り、近視矯正手術をビジネス化し世界に広げた。そのニュースが巡り巡って僕の住んでいた田舎町まで届いたわけだ。
僕は興奮して、看護師だった母親に相談した。母は僕の差し出した記事にほんの一瞬目をやり、きちんと読むこともせず、こう言い放った。
「眼鏡をかけた医者がいなくなったら受けさせてあげる」
今考えれば、なかなかの至言である。
そう考えると高須克弥院長はすごい。全力で自らリスクを取りにいっている。