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映画『イエスタデイ』-今年観た映画2019

今年観た映画で一番のお気に入りは、ダニー・ボイル監督・リチャード・カーティス脚本『イエスタデイ』(2019) だ。 

かれこれ十年鳴かず飛ばずのミュージシャンだった主人公ジャック・マリク(ヒメーシュ・パデル)が「そろそろ潮時か」と覚悟を決めたその日に「世界中の誰一人ビートルズを知らない」という不可思議なパラレルワールドに迷い込む。物語はそんな風にはじまる。 

ジャックの演奏するビートルズの名曲の数々が世界中を瞬く間に熱狂の渦に巻き込んでいくプロセスと、ジャックをずっと支え続けてきた幼なじみで教師のエリー(リリー・ジェィムズ)のピュアで不器用な恋物語がパラレルに進行していく。その小気味好さはボイル節全開。めちゃめちゃ気持ち良い。 

最高にステキなお伽話だった。 

コミュ障な田舎者である僕にはちょうどいいレベルのロマンスあり成長ありで何度も泣きそうになったし、あとはなによりビートルズの楽曲の素晴らしさを再確認させられる映画だった。 

1961年から1970年までのたった十年間。"Love Me Do"に始まり、以降それまで誰も想像すらしえなかった多彩な楽曲群が変幻自在矢継ぎ早にリリースされ"Let It Be"へと至る、まさに音楽の歴史が変わった奇跡のような時間。当時の人々の興奮や熱狂をリアルタイムで体験してるような気分が味わえた。

現代の音楽業界を取り巻く風潮への風刺批評も分かりやすく随所に散りばめられてはいるけれど、個人的にはただただ気持ちよく観れたし、気持ち良く観たい作品だった。 

あと、これは蛇足だけれど、もう十年以上前、僕は初めて子宝を授かって「コイツを粋な息子に育てたい」と張り切っていた。 

音楽のセンスがいいというのは僕の中で結構重要な要素だって、どうしたらいい感じに息子の脳を編成できるか考えた末、「ビートルズ聴かせときゃ間違いなかろう」と安直に思い至り、彼が一歳の頃からビートルズのアルバムばかりをランダムに聴かせ続けた。 

思惑通り彼はビートルズが大好きになり、三歳頃にはほとんどの楽曲を鼻歌まじりに口ずさむようになり("I Am the Walrus"を口ずさみながら散歩する三歳児を眺めながら「なんとエキセントリックなことよ」と一人悦に入っていた)それは今でも変わらない。彼に優れた音楽センスが育まれたか否かは微妙なところだが、まぁそれは良しとしよう。 

最大の誤算は、彼の周りにビートルズを知ってる子がほとんどいないということだ。

生徒はもとより教師をはじめとする大人たちの中にもビートルズ好きどころか、メンバー四人の名前を言える人を見つけることすら簡単じゃない。「赤盤青盤」と彼にとっては常識以前の単語でもイミフ扱いされる。「ビートルズの楽曲はほぼ全てレノン/マッカートニーの共作とされているのはなぜか」とか「マーク・チャップマンはなぜレノンを殺害したか」なんて話題に興味を示す人など誰もいない。ナチュラルに変人扱いされている。

そう、彼はまさにジャック・マリクと同様「(ほぼ)誰もビートルズを知らない世界」を生きているわけだ。 

なんかゴメンね。

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