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映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』-今年観た映画2019年 (その2)
クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)を観た。
最高すぎて、溜息が出た。
1993年、僕は大学進学を機に実家を離れ、一人暮らしを始めた。リードを外されては狂ったようにはしゃぐ子犬よろしく、やりたいことしかやらない本能任せの生活がしばらく続いた。
とりあえず、映画を浴びるほど観たかった。時間を気にせず、劇場で、ビデオで、観たい作品を延々ダラダラと気の向くままに観ていたかった。
映画がずっと大好きだった。高二までは密かに映画監督になりたいと思っていた。けど諦めた。「自分には表現したいことが何もない」と気づいてしまったからだ。というのは嘘で、自分の内側を人前に晒すのが死ぬほど怖くて無理無理となっただけです。
そんなことはどーでもよくて、とりあえず映画館やレンタルビデオショップ(旧作10本1000円!)に通い詰めた。高校までは小遣いが限られてたこともあって選びに選んで観てたけど、バカになってからはジャンルレスに新作旧作問わず観まくった。
そして『レザボア・ドッグス』(1992)に撃ち抜かれた。言わずと知れたタランティーノ監督のデビュー作だ。あまりのクールさに震えた。
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そして『パルプ・フィクション』(1994)。ただただぶっ魂消げた。「時代にトドメを刺す」というのが確か吊り文句だったと記憶しているが、ホントにトドメ刺された。「これが映画だ!」と思った。
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緻密なプロット。微塵のムダもないーいや、実はムダしかないんだけどムダが寄り集まって美しく結晶化したかのような絵面とカット割り。どいつもこいつもケダモノ臭漂うキャラ設定。ゲスさと洒脱さが同居した切れ味しかない台詞回し。意外性とセンスしかないトラックチョイス。そして、すべての動き、表情、やりとり、言葉に意味があるかのように錯覚させられてしまう魔術的手腕。実はそこには何もないのに...
何もかもが奇跡的だった。
ヒトというのは、生き延びるために必死であるがゆえに、キホン卑小で下衆で身勝手で差別的で残酷で不安まみれであらざるを得ない存在だと思う。その設定がデフォな極めて残念な生き物だと思う。
しかし、だからこそ、助け合ったり身を寄せ合ったりすることに価値を見出す。そんな残念さを取り繕って、虚勢を張ったり自らを正当化する美しい物語を捏造する。高潔でありたい、真摯でありたい、強くありたい、賢くありたい、優しくありたい、カッコよくありたいと理想の姿を想像し、そこに近づきたいと願う。システム化した無機物の塊でしかない自らの生に意味を創り出そうとする。あるいは無意味であることの虚しさを一時忘れ去るために馬鹿騒ぎしようとする。
スゴい監督、素晴らしい映画は山ほどいるしあるけれど、タランティーノ監督ほどそんなヒトという生き物の残念さゆえの悲喜交々をノイズバリバリに生々しく、馬鹿馬鹿しくもスタイリッシュにエンタメに仕立て上げる人はいないと思う。
その作品の数々は、どれも洗練された五つ星ごった煮スープの如し。
以来、新作が公開されるたびに有り難く鑑賞させていただいている。
『ジャッキー・ブラウン』
『キル・ビル』
『イングロリアス・バスター』
『デス・プルーフinグラインドハウス』
『ジャンゴ〜繋がれざる者』
『ヘイトフル・エイト』
そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。
期待を裏切られたことは一度としてない。
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デビュー当初から「10本撮ったら映画監督を引退する」と公言しているタランティーノ監督。カッコよすぎて溜息が出る...。
最後の作品の公開がいつになるのかは分からないけれど、その頃には僕も、何かしら意味なき人生に意味らしきものを見出した気になっていれたらいいなと願うばかり。
あっ、新作についてのまともな感想が一言もなかった。
まぁいっか。
いやホント最高でした。