お引越し 相米慎二
この映画のなにが好きかって、なんといっても子供がみずみずしい。
特にこの主役の子役の少女。(この少女は実は女優の田畑智子で、この作品はデビュー作)
両親の別居、離婚を経るなかで葛藤する少女。そのまっすぐな言葉、叫び、衝動が少女を少女たらしめ、私を幼少期に誘う。
両親が話す、母親の妊娠中の頃の両親のすれ違いのエピソードから離婚に至るまでを少女はお風呂に立て篭もりながらじっと聞いて、「なんで産んだん?」と、連呼する。
別居中の父親の会社のそばの公衆電話から父親に電話をかけて、自分はふたりの夫婦喧嘩を我慢したのになんでふたりは我慢できないのかと問いかける。
父親はひとりで家族という縄跳びを回し続けることに疲れてしまったと言い、少女は、みんなの縄跳びを繋げればいいやんと言う。
結局、少女の葛藤は届かないし、両親の結論を変えることはない。ただし、この一夏の中で、少女は本当は全力で否定したい状況を受け入れるという、大きな変化をする。変体する。
子供の足掻きは無力だ。どんなに叫んでも泣いても、大人が決めたことを変えることなんてほとんどできないが、子供が変わることはできる。
そして少女は、前を向いて実にいい顔で進んでいく。
自分が無力だったこと、泣いても叫んでも変わらないことがあること、子供はたくましいってこと、そんなことを思い出す作品だった。
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