肩書きとは? - 『今夜もウェブで会おう』 (第五通目)
📧将軍川→梶
梶さん
さっきはSkypeで、イラストの仕事を紹介できるかもって話をしてくれてありがとう。
でも、これからはファインアーティストとして認知されたいと思ってるから、今の案件を最後にイラストレーターの看板を下ろそうと思っている。
実際、イラストレーションと絵画って、どこが違うの?と思うかもしれない。
でも、ウチの中での違いを説明すれば、イラストは職人の仕事、絵画はアーティストの仕事なんだ。
イラストは作品自体に「好かれたい、目を引きたい、受け入れられたい、売りたい」などというシンプルな目的があって、それをわかりやすく表現している。
一方、アートはもっと哲学に近くて、世界と自分自身との接点を考察し、作品を通してその疑問や概念、物の見方を伝えるものだと思う。
いつか、波に乗ってるファインアーティストの友達が「どちらかと言うと自分のことを哲学者だと見なしている」とウチに語ったけど、その意味も今なら分かる気がする。
どっちが良い・悪いってことはないけれど、ウチがやりたいのはアートなんだ。
それにはまず、「アーティスト」って名乗ることから始まると思う。だから、今制作しているものは、自分なりの人間と社会の視点やコンセプトを伝えることを第一目標にしてる。人気とりの「イラストレーター」ではなく、アートをやっていくつもりです、って。
もちろん、金銭的な理由で、アートとイラストの仕事を並行しようと思った時期もあった。5年くらい頑張った。
でもウチの場合不器用だから、クライアントが良しとする方向に合わせているうちに、アート作品もそれに染まってしまう。その結果、作品がどっちつかずの変な方向に行ったり、自分の絵を見失ったりした。自分のアートを守るために、イラストの仕事を受けないことにしたんだ。
とあるビジネスを成功させた人が、自分が熱くなれる仕事と、日銭で稼ぐ仕事は近くない方がいいって言っていた。
最初から「自分が熱くなれること」を金に変えようとすると、世間に合わせて妥協するうちに、それ自体がダメになっていく。だから一切の妥協や安売りをせず、収入は別の仕事で得るべきなんだって。
でもウチは、頑張りさえすれば全てが手に入ると思っていたから、アートをやりながら、イラストで日銭を稼げると思ってしまった。でも、間違いだった。
自己表現や自分が良しとするものへの思いが強すぎてとても苦しかったんだ。
でも、肩書きを「ビジュアル・アーティスト」に絞って、作っている作品もそれに伴えば、人の見る目も変わる。自分が狙っている業界の人たちと繋がることができる。だから、自分の方からきちんとどちらの業界に属しているのか見せていくのが大事だと思っている。
自分が人生で進む方向を、自分で名乗って定めたい。
色々痛い目を見てきたからこそ、肩書きは最初からかっちり決める派になったって感じ。
梶さんはどう?
肩書きについて、どう思ってる?
将軍川
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📧梶→将軍川
そうだね、いろんな形がある話だと思う。
地面にはいろいろな形の石が落ちているのと同じで。
わたしの場合は「他にはない、楽しみにされるものを作る」のがやりたいことだなぁ。肩書きについては、けっこうファジーに捉えている。ライターでもOKだし、サービスでピアノを弾いている時はピアニストでもいいし。旅行写真家でもいい。あっと言わせられるなら評論家でもいいし。
そうだなぁ。
こういう方向から考えるようになったのは、昔から、若者が「ミュージシャンになりたい」とか「作家になりたい」みたいな、輝かしい夢を追いかけることに関して「それは危ないんじゃないか」と思ってたからだよ。
何かを創作するには、才能に加えて、それを磨く努力と企画力がいると思う。
例えば、ミュージシャンといっても、才能のある子が色々と勉強して、「バッハの音楽を分解して、DTMでパーティー用にして流してみたい」みたいな、マイナーでオリジナルな夢をいっぱい叶えた結果、みんなが憧れる存在になるんじゃないかな。
だから、マイナーでオリジナルな夢がある人が、なる人だと思う。
そして、そういう生き方をしてきた人は、すでに「アーティスト」だし「ミュージシャン」とも言える。そこに境界線はないと思う。
ましてや今の時代は多様なあり方がネットで発信されているから、「ミュージシャンを目指す」より、ベランダのプランターに、食べたい野菜の種をまいて、収穫して食べる、みたいな地味な自己実現の方が、オリジナルなんじゃないかとも思う。「ベランダ小松菜日記」を淡々と書いたら、意外と種苗の会社から買収の話がきてマネタイズできて、作家になれるかもしれない。
まあ、グダグダ書いてきたんだけど、将軍川君なら、なりたいものになれると思う。高校生の頃から、どう見ても「アーティスト」としか言いようのない友達だったけど……。あ、尊敬しているのは伝わってるよね?まあ、お互い、やりたいようにやったら結果が出る年齢になったよ。お疲れさまというか、乾杯だね。明日も頑張ろう。またね。
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🍬おまけ
大自然から届いた愛
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