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Photo by
racreate
初めての商売
8つ年上の姉は子どもの頃から絵や工作、手芸が上手だった。小学校3年生だったわたしはノートの裏や、文房具に当時流行りだったスヌーピーやパティアンドジミーのイラストを姉にねだって描いてもらい愛用していた。
イラストが描いてあるだけでみんなと同じはずのジャポニカ学習帳は特別なもののような感じがしたし、愛着のようなものが湧くのだった。
それを見た同級生がとても羨ましがった姿を見て、これはと閃いた。
厚紙を適当な大きさに切り、姉を騙して人気キャラクターをあれこれ描きまくってもらい、上部にパチンと穴を開けてリボンを通し「しおり」として学校に持参した。
それを当時流行っていた物々交換のタネにしたのだ。
姉の手書きのイラスト付きしおりは、
「これは特別なんだよね、どうしようかな」
とか何とか絶妙に渋って見せると、みるみるスーパーカー消しゴムや珍しいシールや香つきのちり紙に変わっていった。何しろ在庫は山ほどあるし、イラストのリクエストにも応えることができたので面白いように声がかかる。10歳にして、わたしは笑いが止まらなかった。
ある日、物々交換の現場を担任教師に見つかった。
ただのボール紙を言葉巧みに高価な文房具類と交換するのが相当可愛くなかったらしく、その日を境に「勉強道具以外のもの」「匂いだの、珍しい色がついているもの」そして「大量の手作りの品」を持ち込むことが禁止になった。
あれほど「お姉ちゃんの絵が大好き」とかなんとか言っていた妹がある日突然自分の絵に興味を示さなくなったので、姉は不思議そうな顔をしていたのを覚えている。
今思えば、あの時の成功体験がのちの職業選択に生きたのかもしれない。(それはない)