映画「アナザーラウンド」ー人生はそんなには上手くいかない
今更ながら観たこの映画。
なんと言っても、Mads Mikkelsenがカッコよかった。それに尽きる。Tシャツの上にヨレヨレのチェック柄のシャツを羽織った、いわゆるモサッとした格好、これ着てこんなにカッコいいのってこの人しかいないのでは?美人ではないんだけど、骨格がいいんだろうな。
Mads Mikkelsenの映画で映画として一番好きなのは、「アダムズ・アップル」だが、Madsが一番カッコいいのはこの「アナザーラウンド」だと思う。
容姿に思わず目がいってしまったが、話としては、高校教師仲間である4人の中年おっさん達の話。それぞれに悩みや問題を抱えている中、ある理論を基にした酒飲みの実験をしようという流れになる。平日(夜の8時まで)は血中アルコール濃度を0,05%に保つという実験は、最初はうまくいっているように見えた。お酒で気分が上がり、授業も私生活もうまくいっているように感じてきた。
でもそこはみんなが知ってる通り、お酒。飲んだら飲まれるお酒。そこから話は違う方向へ舵を切る。
ストーリー自体は、「そうだな、こういう感じで行って、こう終わるんだな」と、すんなりと受け入れられる、辛口に言ってしまえば、目新しさはない感じがした。そう書くものの、良かった、観て良かった映画。自分自身が中年っていうのもあるんだろうな。中年になったって、悩みや問題を抱えることは続く。でも、同じ年代の人たちが、どうにか前に進もうとしている姿を見るのは、たとえフィクションの映画でも励みになる。
映画の中で出てくる「ある理論」は、20年も前にノルウェー人の精神科医がイタリアのワインの本の序文に書いたもの。理論でも何でもない。「ワインを1、2杯飲んで、気づくだろう。人は、血中アルコール濃度が0,05%不足した状態で生まれてきてるんじゃないか、って。だから1、2杯の後に、ああこれで正常だ、っていう気分になってくるのに合点がいく。」というような意味の文を書いたのが、その後ネット上で誤解釈され、「人は血中アルコール濃度が0,05%不足した状態で生まれるので、常時血中アルコール濃度0,05%分を摂取することで、人はより効率的に動ける。」というような「理論」になったらしい。
この理論の話についてインタビューされたこのノルウェー人のお医者さん、冗談めいて、「この理論を証明する必要はないよね。だってみんな、気分が上がるっていうお酒の効用を知ってるんだから。」と答えていた(もちろん彼は、これは理論ではないと否定している)。確かに、お酒に効用の一面もある。一方、もし理論自体が合っているのなら、とっくの昔に誰かが始めて、今頃みんな常時飲んでるよね。そんなに簡単に人生の悩みが解決する方法なんてない。
また、これはデンマークの映画なんだけど、デンマーク社会の様子が所々映し出されてたのも興味深かった。
・デンマークには、お酒の購入年齢制限はあっても、飲酒の年齢制限はなく、中学生から親公認で飲み出すのも珍しくない。少し古いけど、2019年のヨーロッパ49カ国の15ー16歳を対象にした調査では、「直近の30日間の間に飲酒した割合」や「直近の30日間の間に飲酒した量」、どちらも男女共にダントツの一位。
・学生にとって、良い成績を取ることへのプレッシャが強い。
これは、デンマークだけに限ったことではないと思うけど、ソーシャルメディアなどの影響なのか何なのか、若者の間で、パーフェクトでいることへの自分へのプレッシャーが近年増しているよう。
・男性が陥りやすいアルコール依存症、というのは、これまたデンマークに限ったことではない。自分の抱える問題を他の人に言えない、助けを求めない、一人で抱え込んで悪化する。
人生はそんなに上手くはいかない。
でも、今日、この映画を観れて良かった。
参考文献:
https://alkohologsamfund.dk/files/media/document/ESPAD%202019.pdf
https://www.dr.dk/nyheder/indland/norsk-psykiater-om-sin-fejlfortolkede-promille-teori-bag-druk-et-forord-i-en-vinbog#!/