カラーテレビの紳士服②
額縁から外された鏡は銅板の涙の瘢痕を残していた。老紳士の青緑に混濁したループタイの金具の爪は、ガラスを通した光線による白色粧しであった。枯葉色の紳士服。黒燒し、固められた線は胴体だけでも二十はある。切れ端に垂直で居ようとする黒線達は、着せられたために、肉体の彎曲によって平衡感覚を失い、乏しく大きい葉脈へと根を削ぎ取られる。隣の葉脈同士を繋ぐ、砂地の荒さの小さな葉脈達は、皆同様に列を為して、彎曲している肉体を見上げていた。周囲網が張りめぐされていた。
釦の断捨によって、活気のない息はせがんでいる。ただ、言いつけを守るように銅板の涙を凝視し、ループタイを首に吊らす。ヤスデの頭部が近付いて来る。銅板と区別のつかない釦の重さと、鈍く黒ずんだ留め具は、亀裂を許さない。落ちて行くのは虫達だ。
臍まで下げられたループタイの留め具は、末端の垂れ下がった金具の、二本のアグレットと供に、去勢された男根の玉袋の哀愁を漂わせ、肉部を振り動かせば、だらしなく着いてくる。三つの脚のある葉に囲い込まれた優しき葉が上から降って来た。ネクタイの厚みは食い散らかした。黒糸に光る数百もの脚の曲がった蟲は、囲い込んだ葉も狙う。新緑の終わりは、蟲の脚捌きなのだろうか、頭部なのだろうか。焼かれた害蟲も連帯から逃れようと踠きだす。全ての狙いは見上げたそこにあるものだった。
歳すぎた新緑の無風。
「殺虫剤も釦の中ですか」
老紳士の掌に釦。錆びた円形堂を取り外すと、内部の底は蟲の糞だらけだった。殺虫を置いて行った蟲達のものが、剥がれず潜んでいた。この中に縦線のない肉が着ている紳士服も入りそうだ。