『五心堂』
《登場人物》
更衣(きさらぎ) 占館、五心堂の主
白(つくも) 五心堂の常連客
一(にのまえ) 白の友人
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更衣
「いやね、他人の本心やこの先の人生みたいなものが透けて見えてしまう、っていうのも、それはそれで厄介なものなのですよ」
「だってさあ、それを相手にそのまま伝えても大抵は納得してくれることなんか、まずないんですから」
「あ、申し遅れました。私はこの占館、『五心堂』の主で、更衣と云います」
「占い師を生業としています。"占い"じゃあなくて、あくまでも"占い師"ね」
「いつからかって?」
「結構前からやってますよ。その昔は占い師なんて肩書きじゃあなかったです。もっとこう、胡散臭い感じでしたよ。今は少しだけ現代風にアレンジしてます」
「店の方はぼちぼちです。特に宣伝もしていないんですが、よく当たると評判ですよ」
「実際は、当たる、当たらない、信じる、信じないとは別の次元なんですけどね」
「料金が高いんじゃないかって?お気が早いですねえ。気になりますか?」
「お金はいりません。って開店した時分に言ってたら、たいそう気味悪がられましてね。それからは"お気持ち"だけでも頂くようにしていますよ」
「小銭程度で構いません。別に私は無料でもいいんです」
「でもね、ここだけの話、実はしっかり頂戴してるんです。世の中ただほど怖いものはないというヤツですよ」
「え?って思いました?」
「ほら、あなたも今、払ってるじゃあ、ありませんか。限りある資産を私に捧げているじゃあ、ありませんか」
「生きている限り、どなたもが持っている資産」
「それは時間、寿命ですよ」
「限られた人生の一秒、一分、一時間、或いはもっとかもしれませんがね」
「大丈夫ですよ。寿命がさし迫っててでもいない限り、この場で事切れるなんてことは、まずありませんから」
「後々面倒でもありますしね」
「言っておきますけれど、これは私のためにしてることなんで、人助けをしようなんて、これっぽっちも思ってやしません」
「すべては自分のためなんです」
「私の生きる糧なんですよ」
「それはね──」
「おっと、もうこんな時間だ」
「そろそろ『五心堂』開店のお時間です」
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