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恋するから成長するーあるピアノとの出会い

週末は閑散とした音楽棟。せっかくなので、四台のグランドピアノを弾き比べてみる。弾き比べをしていることを忘れて、弾き入ってしまう一台に出会う。ああ、きれいな音。高音は、澄み、輝く。低音は、優しく、落ち着きを持って響く。久しぶりに、自分の指から出る音に、耳を澄ませた。こんなに力を抜いて弾けるんだ。ここは、左手の音を小さめにしよう。新しい気づきがいくつもあった。このピアノに恋をした。

今まで練習には、寮の地下にある小さなピアノを使っていた。出したい音が出ないのをピアノのせいにするので、手は一向に研ぎ澄まされない。結局、自分の出す音を聞いていられなくなって、練習を止める。

新しく出会ったピアノにも、欠点がないわけではない。100年以上前に作られたもので、ペダルは踏むたびに軋む。でも、ペダルを使わない良い練習になる。このピアノと良い音を作っていこうと決めたから、躓いても前向きでいられる。そうやって試行錯誤を繰り返す中で、成長していくのだろう。

恋をするから成長する。これは何も、ピアノに限ったことではない。今いる環境に、輝くもの、自分の可能性を引き出してくれる何かがあるから、自分を磨いていられる。忘れてしまった輝きを思い出すのも、新しい輝きを求めて彷徨うのも、研磨の大切な第一歩である。

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