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旅の記録と石川県の記憶⑤ 〜雲の森〜
2日目の朝だ。つまり今日が旅の最終日。
今日も色々な場所に行こう。
まずは宿を出てひがし茶屋街を散歩。
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8:00からモーニングを提供しているカフェに入り、一階窓際の席に腰を下ろす。
とても良い匂いに包まれてやってきたパンケーキはふわりとした食感。
とにかく美味しくて、数分でペロリとたいらげてしまった。
セットで付いてきたアイスコーヒーも静かにストローで吸いながら、
表の通りを眺めてぼんやりする。
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1人の男が歩いていた。恐らく自分と同じような旅行者だろう。
道の隅々、家屋の出格子一本一本を丁寧に観察しているような眼差しだった。
男は靴のかかとから爪先まで全体をつけ、
ゆうっくりとした足取りで一歩一歩道を踏みしめていく。
それは足の裏の隅々にまでこの朝の記録を残しているようだった。
その時、
生まれて初めてトランポリンに乗った時のことを思い出した。
あれは小学校の時の昭和記念公園。東京の立川にある大きな国営公園だ。
毎年春になると必ずそこへ遠足に出かける。
その中で「雲の森」(現在は”ふわふわドーム”という名前らしい)
という大きな面積のトランポリン型の遊具がある。
まあそれはとにかく楽しくて、その上で(跳ねた状態で)
鬼ごっこをしたり、ジャンプしたり。
高学年のお兄さんは頂上で見事なバク転を披露したりしていた。
「体力」という言葉が頭の辞書にない年齢。
夜が明けてもそこで跳ねていられるような気がしていた。
さんざ遊んだ挙句、家に帰っていつもより早く布団に潜ると自分の足の裏が
ふわり、ふわりと揺れているのに気がつく。
トランポリンを飛んだ感覚がいつまでも足の裏に残っているのだ。
それは本当におかしな現象で、目を閉じてもまだ自分は「雲の森」で
浮いてるんじゃないかと思ってしまう。
毛布に包まりながら1人で笑ってしまい、そのうちに朝を迎えている。
足の裏全体が、その日起こったことを記録しているようだった。
男を見た時にそんなことを思い出した。
あんな風に記録できたらいいな。
トランポリンを飛んだあの時のように。
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旅を記録する方法は様々だ。
写真に収める、動画を撮る、今は高性能のレコーダーで街の音声を録る人もいるだろう。
文章を書く、絵を描く、誰かに手紙をかく、
ただひたすらに歩く。
そこからはただひたすら歩いた。
金沢城をひたすら歩く。
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近江市場、尾山神社。歩く。歩く。
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歩いて記録する。
足で記録する。
それも旅を記録するのにきっと十分なことなのだろう。
だから写真も必要最低限しか撮らなかった。
それでもちゃんと覚えている。
記録できる。
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満足のいく、良い旅ができた。
歩きに歩いた旅。とても清々しかった。
帰りの新幹線は15時30分発。まだ14時過ぎ。
結局1時間も前に金沢駅には到着してしまった。
近くのカフェでお茶でもしようか。
土産屋を巡ろうか、と一先ず駅のデパートに入る。
その時、ふと兼六園の眺望台で見た風景を思い出した。
遠くにある日本海。ずっと先にある海。
そういえば生まれてから一度も日本海をちゃんと見ていない。触れたこともない。
せっかく石川まで来て?
これで帰るの?
それでいいのか?
誰かに問われてる気がした。
そう思った3分後に僕は踵を返し、金沢駅内のチケットカウンターに足を運び、
帰りの新幹線の時刻を17時30分に変更する。
今回の旅のルール
「金沢に着いてからは全て徒歩移動」
を最後ぐらい破ってもいいかと思い、
急いで北陸鉄道浅野川線に乗り込む。
最終目的地は内灘海岸に決定した。
帰りの新幹線までタイムリミットはあと2時間。
これから初めての「砂丘」を見に行く。
=続く=