小説|親友の股間に爆弾が取り付けられた、爆破まで残り十分、どうする、俺。①
「狭山(さやま)、頼む。今すぐ来てくれ」
と、迫りくる便意に冷や汗でも浮かべているのか、妙に切羽詰まった声を絞り出す親友からの呼び出しで、やって来たのは埠頭に並ぶ大きな倉庫のうちの一つだ。
人気のない埠頭にあるその倉庫は、やたらに広くてがらんとしていた。さっきコンビニで買った茹でトウキビ(北海道ではトウモロコシのことをこう呼ぶ)を齧りながら、倉庫に足を踏み入れた俺は、あぁ、これはあれだな、ドラマや映画で警官とマフィアが銃撃戦(ドンパチ)したり、変身ヒーローが怪人と戦ったりする、あそこだ、あの場所だ。と、思った。そんな感じの場所だった。
昼下がりの陽光が差し込む倉庫の空気は、潮の香りに少しカビの匂いが混ざっていた。大きく開かれた入口から海風が吹き込み、コンクリートやコンテナの上に積もった土埃が舞う。そんな埃っぽい場所にいては、せっかくのトウキビの味が損なわれる気がしたので、まだ三分の二ほど実が残っていたが、俺は茹でトウキビを食うのを中断した。
食いかけの茹でトウキビを入れておけるビニール袋がないかと、一応デニムのポケットを探ってみる。中には小銭と綿埃ばかりで袋はない。トウキビを包んでいた袋は車の中に置いてきたから、当然と言えば当然だ。なのになぜ、あるはずのないビニール袋を探すためにわざわざ尻ポケットを探ったかというと、俺がそうした日常における小さな奇跡を期待するタイプのピュアな男だからである。
それはともかく、茹でトウキビを片手に、さてこの茹でトウキビをどうしたものかな、と考えていたその時、ごぅと倉庫内に音が響いたので俺は身構えた。金属製の重たいなにかがコンクリートの上を引きずられ動くような音だった。音は倉庫の右手側、塗装の剥がれが目立つ臙脂色のコンテナが二段、積み上げられた場所から聞こえたようだ。
俺は茹でトウキビを野球バットのように顔の横に構え、もしかしたらいるかもしれないマフィアや怪人に警戒しながらコンテナに近づいていく。すると、
「……狭山」
という声が聞こえてきた。北村(きたむら)の声だった。