遺品整理の仕事【12回目】
2022年6月14日(火)
9時出勤。
この日は7.5トンの遺品整理を行う結構大きめな施行の日だった。
だいたい1トンにつき1人必要なので、この日は8人で現場に向かう予定だった。
朝の時点で1人いなかった。
施行とは別に、仏壇引き取りもあったのだが、うまく予定が組めていなかったようで、仏壇引き取りに2人抜けた。
仏壇引き取りに向かったメンバーが不安だからと社長が抜けた。
さらに仏壇引き取りの現場が不安だからと社員の藤田さんも抜けた。
残りはわたしを含めた3人だった。
8人必要な7.5トンの施行に3人。
しかもそのうちの1人は力のないザコのわたし。
立花さんは7.5トンの施行現場に残ったのだが、いつも「任せとけ!すぐ終わる!」と力強い言葉をくれる立花さんが明らかに機嫌が悪かった。
今回の遺品整理の現場は、団地の一室だった。
場所が分からず困っていたところ、遺族の方と団地入口で合流できたので案内していただく。
玄関で「貴重品以外は処分してほしい」と指示を受け、遺族の方は別の場所で待機する。
立花さんは実際に遺品の量を見て、その量にさらに絶望していた。
「今日もう無理や……」と言っていた。
施行を開始する。
この部屋に入った瞬間から、異臭が気になっていた。
それは主に糞尿のにおいだった。
玄関を入って左の部屋を確認すると、カーペットに染み込んだ汚物を片付けるのに使用したのであろう、新聞紙とティッシュが散乱していた。
※苦手な方は飛ばしてください※
キッチンを見ると、いままで見たことがない姿のじゃがいもがあった。
芽は5センチほど伸び、芽同士が絡み合い、色はドスの効いた紫に変色していた。
近くにあった3つ入りのたまねぎは綺麗な状態だった。
あとは棚から出てきた梅の結晶が育っていて見応えがあった。
レトロなお皿や小物入れがかわいい。
大量の本や漫画が綺麗に揃えられていて、着物や布団も多かった。
作業を進めるも、明らかに3人で終わる量ではないためかなり進みが悪い。
立花さんは戦力外のわたしと、自分で抱える仕事量に絶望したようで、いつもより作業スピードが落ちていた。
遺品を何度か外に運び出しても、作業が進んでいる気がしない。
最近、施行を行うごとに感覚が麻痺し、ゴミや怪我が気にならなくなっていた。
釘を踏んでも平気なんじゃないかと思っていた。
だがいざ木の破片を踏んだら痛くて、少し動く度に足の裏が気になって、釘なんて踏むものじゃないと思った。
トラックのそばで作業をしていた立花さんから「休憩!」とLINEが入った。
会社で持ってきた飲み物を飲んでいると、60〜70代の男の人が近くに寄ってきた。
「最近ここの棟長になった者です」とあいさつがあった。
「棟長の仕事はあんまり分からんのやけど、いま作業してくれてるとこ、部屋の中で死んだでしょ」と言われた。
びっくりした。部屋の中で亡くなったなんて聞いていなかった。
じゃあ、おそらく異臭がしたあの左の部屋で……。
「団地の人から香典を募ってね、金一封あるから遺族の方に渡したいのよ。また遺族の方来るの?来たらうちに寄ってもらうように言うてくれる?」
パラパラと雨が降ってきた。
近くを通った住人同士が、「いま業者来てる部屋、あそこ亡くなったとこでしょ?」とウワサしていた。
作業を再開する。
改めて、亡くなった場所なのであろう、玄関入ってすぐの左の部屋を見る。
後で聞いた話だが、この部屋の見積もりに行った際、遺族の方が慌てて掃除をしていたそう。
特殊清掃代金を取られないため、ごまかされたのかもしれない。
窓を開け放つと、ほこりが視界を吹雪のように駆け抜けていく。
作業員が足りていないため、一人一人への負担量が大きい。
6月に長袖作業着での作業は、湿度も高く暑くてムシムシする。
重い荷物を運ぶ指先が痛い。
お昼も食べられていない。
頭がフリーズして動けない。
休んだらいけないのは分かっているが、作業の気力が湧かない。
心の中で「おい、わたし体育の成績2やぞ」とキレていた。
時間は15時をまわっていた。
このタイミングで、仏壇引き取りに行っていたメンバーがこちらに来た。
体力が奪われていたので、人手が増えたあとも気力はなかった。
押し入れからは熊とか鳥とかの立派な置物がたくさん出てきた。
バンドをしていると言っていた柳さんが、壁やドアを叩いて軽快なリズムを取っていた。バンドをしている人は違うなと思った。
17時ごろになり、しんどさがまわりまわって元気になってきた。
移動中のエレベーターで浜崎あゆみの『Trauma』を歌った。
引き続き遺品をまとめて運び出しをする。
いつもは「もう終わったんですか!」と言ってもらえることが多いが、今回はかなり遅れを取っていたので「まだですか?」と何度も催促の電話がきた。
立花さんや社員の藤田さんは依頼通りエアコンを外し、照明を外し、網戸も外し、洗面の棚を外し、水道栓やガス栓を抜いて風呂釜まで外していた。
風呂釜の外し方を教えてもらったが、次に自分で外せる自信はなかった。
遺品として出てきた着物や置物を、業者に査定依頼すると「2000円」との回答がきた。
そこからうちで1000円引いて、遺族の方には「1000円の買い取り金額でした」と説明していた。
遺族の方に請求書を渡してトラックへ戻った。
すると、先ほど作業していた部屋の前で遺族の方がさけんでいる。
「玄関のシートも外してください!」
立花さんが「すぐ外してくるわ」と言い、明るいエレベーターに消えていった。
すぐ戻ってこれないだろうなという予感がした。
案の定、立花さんは全然戻ってこなかった。
何十分も経ってから立花さんが降りてきて「無理や」と言った。
力自慢の立花さんでもなかなか外せないほどしっかりくっついたシートだったらしい。
そこからバイトリーダーが加わって、さらに何十分も玄関のシートと格闘した。
外しきるまでに、かなりの時間を要することが予想された。
社員の藤田さんに相談した結果「すみません外せないです」と遺族の方に謝り、現場を後にした。
事務所に戻ると、社長から社用携帯が支給された。
連絡先にはすでに「社長」の登録があった。
LINEのアカウントはすでに登録されていた。
トータルで7~8年勤めている社員の藤田さんは名字での登録。
わたしの半月ほど前に入社した柳さんは「関西営業①」
わたしは「関西営業②」だった。
21時すぎ退勤。
事務所のお風呂に入って帰った。
サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。