遺品整理の仕事【18回目】
2022年6月23日(木)
8時半出勤。
立花さんが助手席で曲を流していたのだが、選曲がゴミだった。
なぜか同じEDMを延々と流している。テンションが上がるはずのEDMで精神をやられた。
わたしはその状態で1時間ほど運転する。
<1件目>
この日は立花さんと、カー坊さんと、バイトリーダーと、柳さんがいたことは覚えているが、正確な記録は残っていない。
少し上品な街での施工だったのだが、依頼主はマダムのような方で、置いてあるものも上品だった。
着物もとても多い。
持って行ける荷物をあらかじめ別の業者に持って行ってくれたり、荷物の整理やゴミのまとめをしてくれていた。
元々は7トンの見積もりだったが、5.5トンの金額に下がった。
この家ではフローリングの上にマスキングテープを貼って、カーペットを固定していた。
マスキングテープなら跡が残らないという情報を見ることがあるが、マスキングテープを剥がすとかなりベトベトして跡が残った。
あとはキッチンを念入りに清掃した。
思った以上に早く施工が終わり、終了が13時ごろだった。
施工終わり、柳さんに「仕事を辞めたい」という話しをすると、柳さんは東京支店での出張帰りで疲れていて「俺も辞めたい」と言っていた。
お昼に近くのガストに行くことになり、店に入ったのが13時10分ごろだった。
次の施工は15時予定だったのでかなり余裕がある。
すると社長から「昼食べてお客様に了承頂いたので14時からで施工大丈夫です」というLINEが来た。
次の施工現場はここから近くだったが、それにしても向かう時間があるし、なにしろ1時間の休憩が取れない。
そのことを皆に報告すると「14時15分から行ったら良くない?」となり、社長に連絡する。
すると
「は?」
「そこから15分やのに14時15分になるわけないやん」
という連絡が返ってきた。
またそれを皆に伝えると、さすがに「なんなんあいつ」「ほんまに1時間休憩取らせる気ないやん」などの不満の声が上がった。
いつもは施工が迫っているからお昼が取れなくても仕方がないと思っていたが、余裕があってもこの会社は当たり前のようにそれを強いてくるのだなと思った。
こちらの状況は一切確認せずに決定される。
結局社長の言う14時に間に合うようにガストを出て施工に向かった。
<2件目>
2件目は遺品整理と、家の中で亡くなったご遺体の跡の特殊清掃も行う。
家の中に入ると、床から、棚、置いてある物、水まわりまで全てが茶色っぽく、黒っぽく汚れていた。
それが家の中で人が亡くなったことと、どれほど関係があるのかは分からなかったが、死臭はあまりしなかった。
それにご遺体の跡もあまり目立たなかった。
カーペットを撤去して、周辺を噴霧剤で消毒処理した。
家の中に残しておくものと、処分をするものが混在していて作業に時間がかかる。
依頼主に確認をしながら施工を進める。
遺品整理も大変だったが、とにかく汚れが至るところにこびりついていて、それを落とすのが大変だった。
グローブを付けていても浸透した汚れが中に入り込んでくる。
こまめに手を洗ったり、グローブを付け替えることはもちろんできない。
なんとか汚れを落としきって施工終了。
帰りも立花さんと同じトラックだった。
今回も立花さんは寝ていた。
立花さんの仕事での運動神経の良さについてぼんやり考えていて、ふと「この人、学生時代からカースト上位なんだろうな」と思った。
この会社で働いていると、学生時代の劣等感を思い出す。
学生時代の運動に対する出来不出来はそのまま人間関係に影響を及ぼす。
運動神経が良くてスクールカースト下位の人間はいない。
そして運動神経が悪い人間は決してスクールカーストの上位にはいられない。
運動神経が良い人間が1番強い。
運動神経が良い人間が1番偉い。
運動で迷惑をかけるのは悪。
それが当たり前の風潮だった。
もちろん陰口を言われるし、直接文句を言われることもある。
わたしは肩身の狭い思いを何度もした。
運動に対する劣等感というのは、高校を卒業して体育の授業がなくなり、忘れかけていた感情だった。
だがこの職場では運動神経が評価に直結する。
運動神経が良い人間が1番強いし、運動神経が良い人間が1番偉い。
わたしの動きのノロさ、低い運動神経に、みんなうんざりしてきている気がする。
運動神経の良い立花さんは、ずっと強くて偉い人間だったのだろう。
1時間ほどかかる事務所までの道のりを、そんなことを考えながらトラックを運転した。
事務所に戻ると、事務の女の人が「退職届を書いてきた」と言う。
「辞めたい」と言う人は案外辞めなかったりするが、この人は思ったより本気なんだなと思った。
わたしは収入印紙を買いに行った。
バイトの人に給料を渡し、経費精算をしようとすると、施工に持っていったiPadと事務所のパソコンのデータが通じておらず、作業が進まなかった。
事務の女の人は別のパソコンで作業を進めていた。
社長が事務の女の人にLINEで、仕事に対して事務の女の人を詰める内容を連投していた。
すぐに事務の女の人は社長に電話をかけ「仕事辞めたいです」と言った。
急に事務スペースがピリピリとした空気になる。
事務の女の人は続けて「最近親が倒れたんです。この会社は拘束時間が長いし、あまり親の面倒が見られないので」という話しをした。
社長は親が倒れたという話しには触れず「辞めたら事務の人がいなくなるから」とか「次の人が決まるまでは続けてほしい」とかいう話をしていたようだった。
電話が終わった数分後、事務の女の人のスマホに社長から電話があり「これから2人体制にするからどうかな?」と言われたようで、事務の女の人は「前向きに考えます」と言っていた。事務の女の人はそこまでこの会社が嫌いなわけではないんだなと思った。
そのあと少しだけ社長が事務所に来てすぐに帰ったのだが、わたしが一昨日「仕事を辞めます」と話したことについてはなにも言われなかった。
社長の方から「一度、話できるかな?」と言ってきたのに、あれから電話もLINEもないし、いつ話そうとも決まっていない。
余計にこの会社と社長への気持ちが冷める。
元から社長と話すことを望んでいたわけではないし、もう話さなくていいからここを辞めさせてほしい。
データが上手く飛ばなくて、進みが悪い事務作業を続ける。
柳さんは今日の施工のあと、社長と遺品整理の見積もりに行っていたらしい。
その見積もりを依頼した女の人が、どうも死にそうな雰囲気で、自分の身辺整理のために依頼しようとしているようだったらしい。
見積もりが終わってから社長は「死にそうやから、特殊清掃も見積もりに入れといたろうかと思ったわ(笑)(笑)」。と言っていたそう。
事務作業が無事に終わって、帰ろうかというときに、グループLINEに社長が「某自動車メーカーにトラックを持って行って」と連絡してきた。
柳さんとトラックの中の荷物を移動させる。
荷物を移動させ終わったくらいで、社長から「持っていくのは別のトラックだった」と告げられた。
柳さんは怒っていて、会社や社長に対するほかの様々な不満も爆発していた。
今日のような予期せぬ残業が多いことや、自分に対する扱いの雑さ、東京出張に行かないといけないことなどが不満で「バイトに戻りたい」と言っていた。
作業をしながら、わたしも散々会社の不満を話した。
某自動車メーカーにトラックを持って行って業務終了。
21時半ごろ退勤。
サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。