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遺品整理の仕事 【初日】

ネットで見つけた遺品整理の仕事。

夜のうちに応募すると、翌朝面接の案内が届いた。

わたしの都合でその日のうちに面接をしてもらえることになり、その場で合否が決まった。

正社員で遺品整理の仕事をすることになった。

<求人内容>
勤務時間:10時〜17時
休日:週休二日制(シフト勤務)
昼食:作業日の昼食費は会社負担

業務内容
・遺品整理の見積もり
・遺品整理現場での作業指示
・ご遺族の方に作業の開始終了報告
基本的にバイトスタッフが運び出しをするので軽いものを運ぶくらいです。
ご遺族の方にひとつひとつ確認しながら、時には遺品について思い出を聞きながら作業を進めます。

という求人内容だったので、世間知らずのわたしは「ハートフルな仕事なんだな」という印象だった。


勤務初日

そして迎えた勤務初日の5月30日。
事務所に8時半集合。

勤務初日なのにギリギリに到着してしまい、かなり焦っていたが担当の人は「寝坊したから遅れる」とのことだったので少し安心した。

到着すると、持っていく機材の準備を行っている男の人がいた。
「今日からお世話になります。山下です。よろしくお願いします」と挨拶をすると、「あーよろしくお願いします」とは返ってきたものの名前は教えてくれず、歓迎されていない雰囲気で2階の事務所まで案内してくれた。

事務所に着くとソファに座るよう促され、「コーヒーでいいっすか」と目の前に微糖の缶コーヒーが置かれた。急にもてなされたので少しびっくりした。

事務所まで案内してくれた人は、がたいが良くて、ピチピチの服を着て、身長は160cmくらい。改めて顔を見ると人の良さそうな顔をしていた。
なんか加古川のヤンキーみたいな人だなと思った。

もらった缶コーヒーに口をつける前に、続々と事務所に人が集まってきて、事務所まで案内してくれた人は「立花さん」だと分かった。

立花さんがわたしの作業着の場所について社長に連絡を取ってくれ、半袖と長袖、ズボンの作業着を渡された。
物にぶつかると危険なのと、時にはご遺体を引き上げたあとの特殊清掃も行うため「夏でも長袖」なのだそう。

1年間スーツで出勤していたこともあってか、作業着を着ると「肩肘張らなくていい」と言われているようでなんだか落ち着いた。

飲み物は事務所の冷蔵庫のものが飲み放題だそうで、ありがたくアクエリアスをもらった。

そうこうしていると寝坊していた担当の人が出勤してきた。「社員の藤田です」という挨拶があり、わたしは社員の藤田さんが運転するトラックに乗り込むことになった。

軽トラ以外のトラックに乗ったのは初めてだったので大興奮。
まず車に乗り込む時に使うステップの位置が高いし、窓からの景色がいつもより高い。ドアを閉めるときの「バンッ」という音もかなり良くてワクワクした。

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社員の藤田さんからは、どこに向かっているのか、どういう作業内容なのかは聞かされないまま、雑談が始まった。

社員の藤田さんは元々バイトでこの会社に入ってきたそう。警察の試験を受けていたが5~6回ほど落ちてしまい、そのあとバイクの事故をして警察官になる夢を諦めたところで社員に誘われたとのことだった。
いまは見た目に不自由なところはなさそうだった。

この会社にはトータルで7~8年ほど勤務しているらしい。

あとは到着するまで趣味の話をした。


車が20~30分走ったところでマンションに到着。
トラックを止めると小太りのおじさんが出てきて、遺品整理を行う部屋まで案内してくれることになった。
小太りのおじさん、社員の藤田さん、立花さん、わたしの4人で、エレベーターに乗り込む。
小太りのおじさんがエレベーターの中で「綺麗好きな人だったから荷物もそんなにないよ」と言っていた。

エレベーターを降りて遺品整理をする部屋のドアを開けると、言葉が出てこないくらいギッッシリ荷物が詰まっていた。
この荷物で少ない方?と立花さんと社員の藤田さんを見ると、2人は顔を見合わせて、目線で「えぐい」と言っていた。
小太りのおじさんが少し気まずそうに半笑いしていた。

中まで案内してもらったが、2LDKの部屋からバルコニーまでギッッシリ、どこも“物物物”で埋め尽くされていた。
物のほとんどがCDや本で、ジャンルも小説や政治、教育、旅行、グラビアまで多彩。余裕で店が開ける量だった。

通帳や、重要そうな書類以外はすべて処分するとのこと。

軍手をはめて、手始めに玄関に積んである本を袋に詰めていくことになった。
3人がかりで90Lの袋に詰めても詰めても、玄関から動けないほどの本の量。
本を延々と詰めていくグループと、詰めた本を運び出してトラックまで運ぶグループに分かれての作業。
派遣の方も合わせて9人いた。

玄関が終われば、奥のリビングルームに取り掛かる。

CDは買取に出すとのことで、綺麗にダンボールに詰めていった。

社長も合流して、4人で延々と物を詰めていく。

軍手はしているものの、歯ブラシや歯間ブラシやゴミカスが、ペン立てや床や本の間に挟まっていて堪える。

家中を茶色の分厚いほこりが覆っていて、あちこちでみんなが物を動かすので常に視界はほこりまみれ。
気にしていられない量なので黙々と物を詰めていく。


まだリビングルームの物が片付いていない段階で、和室の作業を頼まれた。

押し入れを覗くと、買った物のダンボールと袋が詰まっていて、物が捨てられない人だったんだなと分かった。
あとは裏ビデオみたいなものが大量にでてきた。

黙々物を詰め続けていたのだが、慣れない作業で力んだのか、ずっと下を向いていて血が上ったのか、頭が痛くなってきた。

気がつくと知らない男の人がいて、「すみません遅刻しちゃいました」と言っていた。
挨拶をするとバイトリーダーをしているとのことだった。

12時半ごろ、まだ作業途中だったが別の現場もあるそうで、ここの現場とグループを分けて4人で次の現場へ向かうことになった。
わたしと、社長と、バイトリーダーと、明るい茶髪の人の4人で向かう。
正直ここの現場に早くも気が参っていたので、別の現場に行けるのはありがたかった。

今度は明るい茶髪の人とトラックに乗り込み、途中セブンイレブンでお昼を買って食べた。

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食べ終わると、明るい茶髪の人が「サンドイッチ丸々いらんくなったから食べてくれへん?車に置いてても腐るし」と言っていたので食べた。


<2件目>

部屋に入ると、社長とバイトリーダーがすでに作業を行っていた。
依頼主などの立会人はいなかった。

玄関入ってすぐの、本来なら冷蔵庫や食器棚を置くであろうスペースに大量の新聞紙が散らばっていた。

部屋はトイレ、洗面、風呂が一緒になった3点ユニットバスタイプ。
5~6畳のワンルームだった。

物は少ない方で、残しておくのはシーリングライトとテレビのみ。

この家の主は亡くなったのではなく、老人ホームへ移動するのだそうだ。
遺品整理ではなく、老人ホームへ移動するための整理業も結構行っているらしい。

新聞紙は至る所に散らばっていて、新聞紙の間からはズボンなどの衣類がでてきた。

1件目に引き続き相変わらず頭が痛い。

物は少ないが、トイレ、洗面、風呂、キッチンの水周りがどう使ったらこんなに汚くなるんだというくらい汚い。黒や茶色の塊汚れが全体にこびりついている。

ビニール手袋をつけてキッチン掃除を行ったのだが、結構すぐに汚れが落ちたので気持ちがいい。

明るい茶髪の人が、元ホストやから〜と軽くいじられていた。

ここの現場はすぐに終わった。


「じゃあ次の現場いこか」と言われ、まだ行くんかいと思った。
運動経験ほぼなしなのですぐ疲労し、トラックの移動中がやたらと眠い。

移動中に社長から、「1件目の現場で、男の作業員が3人エレベーターに閉じ込められた」と連絡が入った。

おーおーえらいことになってるやんと思いながら次の現場に向かった。


<3件目>

3件目に到着した時点でかなり気分が悪く、頭が痛くて吐きそうだった。
吐く代わりに咳をしてやりすごす。

遺品整理の部屋は故人の娘さんが出迎えてくれた。部屋はかなり綺麗に整頓されていた。

1DKの部屋で、荷物は重要そうなもの以外はすべて処分するとのこと。

部屋にはかわいいお皿や変わった形のお皿、色とりどりの洋服に帽子があった。水周りも綺麗にされていた。

黙々と荷物を袋に詰める。洗剤の詰め替えを見ると、まだ生きるつもりだっただろうになと悲しくなる。

大ぶりの雨が降ってきた。

途中飲み物休憩を取りながら、荷物を詰めた。

(↓積み込み途中のトラック)

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水周りから床まですべての部屋の掃除を行って、3件目が終了した。

3件目が終わるころには、気分の悪かったテンションが回って元気になっており、逆にハイ状態だった。

3人でトラックに乗り込むことになり、わたしは運転席と助手席の間の席に座れたのでテンションが爆上がりした。

トラックの真ん中の席から街を見られてウキウキだった。

助手席のバイトリーダーはこちらを伺ってからスパスパタバコを吸っていた。

トラックは荷台に積んだ遺品を処分しに向かっていたのだが、到着したのは「不法投棄会場」という雰囲気の場所だった。
もちろん許可を取ってある施設らしいが、あらゆるゴミが無造作に土地に散らばっている暗い場所だった。

そこにバイトリーダーが、トラックに積んだ遺品を投げこんでいた。

遺品投げてまうんや!とびっくりした。

びっくりしているわたしを見て「ははは。処分の方法こんな感じやねん」と言っている。

遺品を投げ終わって、事務所に戻った。

事務所で荷物を下ろしてから、「まだ1件目が終わってない」と連絡が入った。

この時点で20時を回っていた。


1件目の現場に到着すると、ずっと1件目にいるグループは疲弊しきっていた。
白いマスクがほこりで茶色く染まっている。

さすがに派遣の方はもう帰っていた。

エレベーターに閉じ込められたのは、作業中に洗濯機のコードをドアに挟んだまま動かしてしまったことが原因だったらしい。
監視カメラを確認してうちの落ち度だったことが判明し、管理人さんにえらく怒られたそうだ。ちなみに部屋まで案内してくれた小太りのおじさんが管理人だった。

何往復もして部屋の荷物を下ろしていった。

部屋からトラックの側まで荷物を下ろすのと、荷物をトラックに積み込んでいくグループに分かれて作業した。

途中、立花さんが1つでも重いダンボールをわたしの分まで持ってくれたのだが、予想外に重かったようで顔を真っ赤にしていた。

立花さんは力自慢で頼りにされているようだった。

荷物を順に運んでようやく最後の袋になり、最後の袋をトラックに積み込んで、「終わった〜!」という歓声が上がりそうになったときだった。

小太りの管理人のおじさんが「それさ、荷台の上の方に積み込みすぎてマンションの天井通過できひんと思うよ」と言った。
誰も気にしていなかったが、たしかにそうだった。

落胆の色が広がり、上の積み込みを調整していった。

また雨が降っていた。

マンションの近くまでトラックを移動させ、立花さんがトラックの荷台に乗り、通過できるかどうか合図を出していた。

なかなかトラックは通過できない。

社員の藤田さんがバールで棚をメキィ!バギィ!と壊したり、体重をかけて棚をゆすり壊してなんとか通過させようとするも、通らない。
遺品とは言っても、もうゴミなんだなと、ここでしっかりと感じた。

普通にドライバーを持ってきて棚を解体させて、ようやく天井を通過できた。

歓喜の声があがる。

いやーよかったーと喜んでいると線の細い男の人が寄ってきて、「僕も社員なんです」と言った。

聞くと、元々は社長の運転手としてアルバイトで入社したらしい。
あの社長、いっちょ前に運転手つけとんかいな。

しかも社長が住んでいるのは高級住宅街といわれるエリアだった。
毎朝早くに家まで迎えに行っているらしい。

無事にすべてのトラックがマンションの天井を通過した。

社長が「飲み物買いにいこか」と手をピンと伸ばしてカラフルな財布を掲げた。

その社長を見たとき、うわーーこの仕事めちゃくちゃ面白いやん。しばらく続けよ〜と思った。

自販機で順番に社長に飲み物を買ってもらった。

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社長が「松屋でも買いに行こか。なあ松屋でも買いに行こか」と言っている。

この後は、遺品を処分しにいくグループと、松屋でご飯を買いに行くグループに分かれた。

わたしと社長と、運転手で入った「柳さん」の3人が松屋でご飯を買いに行くグループになった。

車内で社長に「時間遅なってごめんな〜。あれエレベーターに閉じ込められんかったらなー。うちの会社、勤務初日は遅くなるジンクスやから」と言われた。

あとは柳さんがバンド活動をしている話を聞いた。


松屋に到着して、全員分のご飯を選ぶ。

持ち帰りの品が出来上がるまで社長の隣に座って、ふと社長の財布を見ると、あのカラフルな財布はLOUIS VUITTONだった。

事務所に戻ると時間は22時15分ごろ。

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遺品を処分しに行ったグループが戻ってくると、順番にお風呂に入っていた。

立花さんから「やましー(私のこと)も明日からお風呂セット持っておいでよ」と言われた。

バラバラに松屋を食べていたのだが、1人分買い忘れたことに気づき、柳さんが食べるのを諦めたので申し訳なかった。わたしはもう食べていた。

柳さんは色白で少し長いサラサラの髪で、あまり自分から話さないけど忠誠心があって、湯婆婆に仕えるハク様みたいだった。

座っていると急に自分の足がものすごい臭いことに気づいて怖かった。怖いくらい臭くて臭かった。

談笑していると立花さんが隣を指さし、「こいつ、飲みに行った時に俺に憧れてるとか言ってきてさ。まじきもいねん。立花さんみたいに物持てるようになりたいですとか言ってきてさ」という嬉しいのが丸見えのキレ芸をしていた。
立花さんは22歳くらいだと思っていたが、31歳だった。

和気あいあいとしていい人ばかりで安心した。

気がつくと23時半になっていた。

家に帰り作業着を脱ぐと、作業着の上下はドロドロで半袖の首元は茶ばんでいた。

明日からも頑張ろう。

サポートしてもらえたらうれしすぎてヒョーー!!ダンスダンス!!!🕺🕺🏻🕺🏼 そのあとはサポートしてもらった画面をスクショして何回もニヤニヤします。