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ⅠDと『インオーダー』について

総合実習ⅠD『グッドバイ マイ・ディア』の公演が終わった。

4月に実習のための脚本、『インオーダー』の第一稿を書いて、それからもう半年ぐらい経ってるのが驚き。短くも感じるし長くもあった。

脚本を書いた時から、この公演が終わったら脚本を書いてた時に思っていたことや実習の感想とか反省とかのノートを書こうと思っていたが、いざ思ったことを書こうとしてもぼんやりとしていて、とりあえず、『インオーダー』を書くまでにいろいろ書いていたメモ帳を見返すことにした。見返していろいろ思い出した。
思い出して思ったことを並べて書いているのでほとんど時系列順にこのⅠDの半年間を振り返ることになった。

「in order」

4月、授業で提示された脚本のルールは、
登場人物:3人。
上演時間:10分。
なにか、お題が無いと書きづらいなと思って、自分で付けたお題が「in order」だった。

in order とは
順番に,整理して,正常な状態で,(議事)規則にかなって,合法で,適切で,ふさわしい,望ましい,必要で
(Weblio英和辞典より)

この題に加えて、ⅠDのために脚本を書くにあたって、話の構成的に、明確などんでん返し、事件の発生、オチ、を作ることを一つ目標にしていた。

最終的にⅠDで上演した季節や数字や色の話の『インオーダー』を考える前にあったボツ脚本は、「order」という単語自体の意味(注文,順序)にかなり引っ張られたイメージから連想した話だった。
居酒屋のアルバイトと怪しげな客2人。客2人の会話に出てきた話が自分の知り合いの話かと思ってアルバイトが口を挟む。しかしそれは全く別な人の話で、しかも客2人が話していた話はちゃんと犯罪的な事件の話し合い。アルバイトはすぐに他卓の注文を取りに行くから間間の会話は想像で埋めてしまってずっと勘違いをし続ける。アルバイトは何度も注文を間違いバイトがもう嫌になってきて、だんだん客2人も話し合いをやめ、アルバイトの真剣な相談の空気になって、最後には衝動的にバイトを辞める。そんな話。
ボツにした理由はいくつかある。
その中の一つは性別のこと。この話を考えた時の私は客2人ができれば男性に演じてほしいと思っていた。既に参加する役者がほとんど決定しているⅠDで、演じてほしい人の属性が私の中でしっかり固まっている脚本を提出するのは不適ではないかと思った。

だから、『インオーダー』は登場人物の性別を問わない、登場人物のそれぞれをそれぞれたらしめる重要な部分が性別によって左右されるものではない話にしようと思った。

今思えば、役者自身の性別と、登場人物の性別は必ずしも一致している必要は無いし、私は本当に何を書いたって良かったんだろうが、このことに気付けたのは、もう一つの『インオーダー』を書き終わった後だった。
(ボツにした『インオーダー』も面白そうなので後でインオーダーアナザーとしてちゃんと書こうかなと思っている。思ってはいる。 )

まるっきり方向性を変えた『インオーダー』は、季節の話になった。リアルではないファンタジーの強い話にしたかった。

まず、抽象的な言葉が書かれている依頼書を受けて天候を作る部署の話にしようと思った。この時点で存在していたオチは、部署にやってきた新人が狂った天候を元の春夏秋冬に戻すこと。
これを書いてたら、具体的な日時の具体的な場所にその天気をお届けする、みたいな下りが出てきて、ここらへんを細かくし始めるとリアルとファンタジーが接してしまって境界がよく分からなくなったので、もっと簡略化して抽象的にすることに。
抽象的な言葉を、季語という現実世界で明確に仕分け可能なものに変えた。季語が書かれた紙を順番通り適切に正しい季節に分配する仕事の話になった。それから、春夏秋冬を1234という数字に変換し、しかもその数字も色で仕分けていて、それが一冊のルールブックによって規定され、そのルールブックの内容は頻繁に変わっているという、とってもややこしい仕事の話になった。

登場人物の3人は、それぞれ仕事への向き合い方が異なるキャラクターとして設定した。
A(本公演時、白パジャマ)は、ロマンチスト、理想家で、好き嫌いがはっきりしている。自分の信じたいものを信じる。春夏秋冬があることが当然だと思っている。
B(紺パジャマ)は、集団の為に規則や法があると信じている。そのルールを守ることが自分の存在意義を裏打ちしてくれるのだと思っている。その規則に従って、正しい仕事をしていることが生きがい。
C(ピンクパジャマ)は、自分の今いる近くの範囲、置かれた状況で楽しむことを大事にしている。遠くで起きていることには無関心。ルールは重要ではなく、自分に不都合じゃないから守っているだけの規則がたくさんある。仕事はやらなきゃいけないのでやっている。
3人とも、全員、ルールと仕事に縛られているが、そのルールの先、仕事の先がどうなっているか、あの3人の内の誰も知らない。3人とも、仕事の意味やルールの意味を各々勝手に作り上げているだけ。

第1稿を提出した後の講師陣からのフィードバックを踏まえて、3人のキャラクター性をより分かりやすくするのと、もう一つ、ⅠD脚本の目標にしていた、「事件を起こすこと」を達成するために、第2稿で、C(ピンク)が実はルールブックを偽造していたという出来事を追加した。

そんなこんなでインオーダーの原型ができた。

公演になったこと

ありがたいことにリーディング公演も本公演もめちゃくちゃ面白い公演になって最高だったな〜、というのが一言でまとまった感想。

私は大学に入ってから演劇がいったいどんなものであるのか勉強し始めたぐらいの人間なので、どうやって演劇が出来上がっていくのか、未だ手探りでいる。一応去年の日芸祭で劇作/演出として公演はやったけれども、授業の実習の公演は初めて、オムニバス公演というものも初めてだし、学生ではないプロの人たちと関わりながら一個の公演を作っていくということも初めてだし、人に自分の作品を演出してもらうということも初めてのことだったので、ⅠDは知らないことが多すぎて、すごく楽しかった。関わってくださった方々に感謝です。本当に。

私はまだ劇作の仕事というのがどういうものなのかよくわかっていない。劇作ということがただ単に、脚本を書いて後はもうノータッチ、というものではない、と、思ってはいるが、それが具体的にどういうことなのか、4月時点の私には分からなかったし、今も分かっていないし、おそらくは公演の回数をこなして、自分で自分のちょうどいいところを探さなくちゃいけないのだと思う。
去年の日芸祭の時、作品を書いた時点での熱量そのままを稽古場に演出として持ってくることの難しさを感じていた。ⅠDの稽古場で『インオーダー』の稽古をしている時も、脚本を書いた頃の自分とは違う考えがいろいろ湧き出てきたり忘れてしまったりしていた。実際さっきメモ帳を振り返って初めて、書いていた時のことや何を考えていたかなどを思い出した。稽古の時点でそうなのだから、本番を観る時の自分はほとんど別人だ。私の名前と同じ名前の人間が書いた、私の感性にごく近い人間が数ヶ月前に書いた話で、なんとなく、私が書いた大事なものの一つであるという確信を過去から引きずって、この数ヶ月、『インオーダー』の劇作として稽古場にいた。本公演を観た時にはかなり自分自身と『インオーダー』の関係性が薄れた気がしていて、おかげで新鮮な気持ちで話を観れて、新しい気づきを得ることもできたので、確かに良い点はあるのだが、自分はそういうものでいいのか、ずっと心の中で引っかかり続けている。これも、自分で自分のちょうどいいところを探す必要があるのだと思う。

『インオーダー』という作品を書いて直後、一番に、これが面白いかどうか、どんな風な感想が来るのか、もちろん怖かったが、その次に、これがどう演出され、演じられていくのかということにとてもワクワクしていたし、不安だった。

7月のリーディング公演、9月の本公演で、だいたいほとんど脚本に大きな変更は無かったが、演出がかなり大きく変わった。
7月のリーディング公演。衣装はスーツ。会議室にありがちな長方形のテーブルの上に4色のトレー。リーディング台本とトレーには明確に数字が書かれている。セリフの書かれた紙を仕分ける。

7月リーディング公演時の当日パンフレット あらすじ

9月の本公演。衣装はパジャマに天使の羽。ベッドの上で3人がかるたやタロットなんかを仕分ける。トレーも無く、赤も青も無い。

9月本公演時の当日パンフレット あらすじ

このⅠDじゃなければ、『インオーダー』はこんな風な作品になっていなかっただろうと、公演を見ながら強く感じた。オムニバス公演だから発生する大道具の都合や、このⅠDだからこそのメンバーであることなどを全部含めて、面白いことになった、と、思った。
私が深夜一人パソコンの前で書いていたものが、想像していない面白いものになって、私の目の前に再び『インオーダー』が現れてきたことがなんだか不思議だった。
本公演を見た時に、あ、私って、『インオーダー』で「in order」をやる気なんて、最初から全然無かったのかもな、ということにも気付いた。そういう気付きが公演を見て出てくるのも楽しい。リーディング公演と打って変わって仕事ではなく遊びという印象に仕上がっていたのを観て、赤が夏だとか1番が冬だとか、『インオーダー』の世界のそういう細かいルールはこの作品のメッセージとしてそこまで重要ではないのかもしれないと思った。登場人物の3人にとってはもちろん重要なことだし、彼らの仕事の先にいる世界で生活をしている人々にとっても重要なことだろうが、やっぱり、1番が2番でも2番が1番でも、赤が青でも青が赤でも、私たちには関係が無いこと、なのだ。そして、3人にとっても、仕事のその先がどうなっているのかは分からない。A(白パジャマ)が、その形骸的なルールのおかしさを指摘するが、Aがそういう行動を取るのは、ただ単に春夏秋冬が好きだからというだけであって、春夏秋冬こそが正しい順番であり正常な状態であるというのは、Aの中の正しさであるだけだ(と、私は思っている)。だから、私は自分自身でin orderなんていうお題を設定して書いてみて公演まで終わってやっと、そもそも私はin orderなんていうものは無いと思っていた、ということが分かった。書いた時点で自分で自分の考えを分かって書いていないとこうはならないだろうと思うかもしれないが、私は公演を見て再び『インオーダー』について考えてからそのことを確信したので、これに本当にびっくりした。

『グッドバイ マイ・ディア』がオムニバス公演であったこともあり、この半年、他の作品と比較することも多かった。『インオーダー』がどんな性格を持った作品なのか、人から指摘されたり自分で気づいたりすることも多かった。ほとんど脚本を書いたことがなかった私がいろいろと書き始めて、自分の脚本がどんな強みがあって、どんな弱みがあるのか、なんとなく分かり始めてきた時期でもあった。
『インオーダー』は、話の中にオチを作るという目標がありながら、世界設定が強すぎるので、起こった事件についての驚きや、登場人物の3人のキャラクター性に目を向けることよりも、この話独自の世界の仕組みを理解することに観客の意識が向いてしまう。説明が説明としてちゃんと存在してしまっている。疲れ切った状態で見ていたら、あ〜本当に数字とか色とかややこしいなこれ、と、素直に思った。

それはそれとして、『インオーダー』、いろんな人からいろんな感想を貰えたのがとても嬉しかった。

楽しかったなあ、大変だったなあ、と思いながら、こういうのが書きたい、こういうのがやりたい、というのも、湧き上がってきた。

とりあえず、インオーダーアナザーとか、『インオーダー2』(in order to)とか、もしくは、グッドバイ マイ・ディアをお題にした全く別の話とか、書いてみようと思う。


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