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連載 虹のバァルガード 第15回

タイラン公国へ 2

道斗たち一行はノブスの叔母マイヤーの家に来ていた。
ノブスが紹介状を書いてくれていたので、すんなり話が通った。
叔父の王族院議員、ラシードも快く出迎えてくれた。

「遠路はるばるようこそ。」

「こちらこそよろしくです。」

道斗は一行を代表して挨拶した。

「ノブスから手紙が届いていたのよ。あの子元気にやってた?」
マイヤーが思い切りミルドを抱きしめた。

「ええ、元気ですよ。叔母さんのことをすごく誉めてましたよ。」

ミルドはマイヤーの太い腕の中で窒息しそうになった。

「あなたが防衛官のアイニスさんね。いつもノブスがお世話になってます。あの子ね、ミルドのことが大好きなんですよ。」

ミルドの顔が思い切り赤くなった。

「マイヤーさん、ミルドにはもう少しエスコートしてもらいたいですよね。」

アイニスが突っ込んだが、道斗がなんとか助け船を出した

「お初にお目にかかります。新城道斗と申します。訳あって地球からこの世界に来ました。」

「おおっ、そなたが新城さんか。私が王族院のラシッドです。こちらもぜひおめにかかりたかった。」

どうやらノブスからある程度の情報はいってるようだ。

「誠に光栄です。」

「実はのう、10年前にわしとマイヤーとノブスは以前あなたと同じ日本人と出会っているのじゃ。」

「ノブスも言ってましたが、タイラン王国でのことでしたね。」

「そうだ。10年前わしとマイヤーとノブスと3人でアルグレス山の巡礼へ出かけたときのことじゃ。ノブスにキャンプ場を任せ、わしとマイヤーはヤルガの洞窟へと向かった。その洞窟の前にその男は倒れていた。
我々とまったく違う風采で立派な身体をしておったわ。
そのときアルグレスに潜むアーゴルが出てのう。」

アーゴルは頭が蛇で蝙蝠のような翼を持ち人を襲う凶暴な生物だ。

「わしらも噂は耳にしてたが、まさかアルグレスに巣食うとは‥そいつが突然襲いかかってきよったそのとき‥」


ラシッドはその時の状況を話し続けた。

「その男は突然立ち上がり、アーゴルの首に一撃の蹴りをかませた。アーゴルの首から紫色の血しぶきが上がり地面にふした。
わしらはその男のおかげで助かったのだよ。」

「10年前、私の祖父は書き置きを残して行方不明になりました。でも単に不明になったとは思えないものを感じてました。何か志のようなものを。これが祖父の雲斎です。」

道斗はポケットに入れてあった写真をラシッドに見せた。

「この男だ。間違いない。」

ラシッドは思わず叫んだ。

「そのあとどうされたんですか?」

「男は一礼して立ち去っていった。武人としての誇りを感じたよ。こうやってお孫さんであるあなた様とお会い出来たのも運命の巡り合わせかもしれませんのう。」

ラシッドは男の容顔を詳しく話した。
心術を使えれば映し出すことも出来たが、ラシッドにはその能力はなかった。
しかし情報は十分過ぎた。

「おそらく私の祖父です。とんでもない確率ですが。」

「ほう、そうですか。私らも突然のことでその男が立ち去ったあとも呆然としておりました。」

そこでアイニスが口を挟んだ。

「道斗、あなたのお爺さまは何か目的を持ってこの世界に来たんじゃないかな?」

「えっ。すると現世の日本に嫌気がさしたのでなく‥」

「そう、それはあくまで表向けで何かあるわ。」

続いてミルドも口を挟んだ。

「僕もそう思います。赤ん坊である道斗を連れてきて亡くなった男、その男が鍵を握ってるのではないかと。」

「うん、アイニスとミルドの意見、異存はない。そうだな。祖父は芯の通った武人だし。
ただ手がかりは今のところそれぐらいか。」

「あっ、ちょっと待って。あなたのお爺さまが置いていったものがあったわ。これが現場に落ちてたの。」

マイヤーが三人にそのものを差し出した。


「何かの地図だろうか?」

道斗が手にしたのは布のような材質に書き込まれた地図であった。
地図といっても手書きでの簡単な図と文字で記されている。

「これはアルグレス山周辺のものですね。違いますか?ラシッド殿。」

ミルドは山を示す記号に目をつけ、タイラン公国とラルフ王国の位置を確認した。

「そうです。そしてこの赤で記されてるところはヤルガの洞窟ですな。」

ラシッドはアルグレス周辺は何度か巡回していた。

「ヤルガの洞窟って。」

アイニスの兄が行方不明になったマーダス帝国とタイラン公国の境界にヤルガの洞窟があった。
ヤルガの洞窟は謎に包まれた地であった。
というのも過去はここは国境を結ぶ往来の洞窟道であったが、いつの頃からだろうか怪物や魔物、未確認現象が起きる魔域として知られるところになっていた。
そこで、人々は山を抜けるのに新たに建設されたバーム街道を利用していた。
多少遠回りであったが、安全な方を選んだ。
必然的にますます寂れたヤルガは魔境と化していった。

アイニスは何度かヤルガへ赴いたが、洞窟付近へ来ると、押し戻された。
おそらく磁場があり、空間に影響を与えるのだろう。
しかし今回は道斗とミルド、それにムーアの救援もある。
なんとかヤルガへ潜入出来るのではないか、そんなことをふと感じた。

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