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連載 虹のバァルガード 第18回

タイラン公国〜公宮へ再び

「ちょっと待てや、お前さん達。この洞窟に来るとは命知らずよの。」

道斗の前に姿を現したのは右目に眼帯をはめ、長い黒髪をバンダナで縛った浅黒い筋肉質の男だった。
頭領ロゴスはどうやら剣の一撃でやられたようだ。

「誰だ?、貴様はアルグレス猟団のものか?」

ムーアが牽制した。

「おれはベルクス、 流れ者さ。訳あってこいつらを成敗に来た。こいつらの頭領デロスはおれの友人を殺したのでな。敵討ちよ。」

ベルクスは剣を上げた。

「そうか、ならよかった。我々は急ぐ。」

ムーアは移動の陣に移動しようとするや否やベルクスは剣を突きつけた。

「待て、貴様ラルフ王国の戦闘士ムーアだな。おれと決闘しろ!」

「わしは勝負から逃げたことはない。だが今回は妻と娘の命がかかってる。行かせてくれ。」

「ふふふ‥勝負から逃げるつもりか。」

ベルクスは詰め寄った。

「おれが相手しよう。おれはムーアとほぼ互角だ。相手に不足はないぞ。」

道斗は身構えた。

「貴様がおれの相手で務まるのか?」

ベルクスが不敵な笑みを浮かべる。

「道斗のいう通り、いやわしより強いかもしれんぞ。」

ムーアはベルクスに睨みを返す。

道斗はムーアとミルドとラシッドに公宮へ行かせ、アイニスを見届け人にさせることを咄嗟に考えた。

「なるほどな‥お前では役不足かもしれんが、まあいい。この決闘が片付ければ、公宮でムーア、俺と闘え!」

ベルクスの詰め寄りにムーアは承諾した。
ミルドは移動陣にムーアとラシッドを引き入れて飛んだ。

「ベルクスとやら、立会人はアイニスがやる。
お前の果たし合い、おれが受けてやる。」

道斗が啖呵を切った。

「では決闘開始だ。戦闘不能になるか負けを認めればそこで終わりだ。両者とも異存はないな。」

二人が了承したことを確認したアイニスは開始の合図を出した。

‥この男、只者ではないな。修羅場を潜ってきた殺気を感じる。しかし闇を感じない。‥

道斗はベルクスは同じ武闘家としての誇りを感じ取った。

‥まったく隙がない。一見人当たりの良さそうな輩にみえるが、内に闘志を燃やしている。
真正面から行くか‥勝負は一瞬のうちに終わる‥

一方のベルクスは道斗の闘士としての熱気をまざまざと感じ取った。

道斗は東流拳の天空の構えをとり、
ベルクスは剣を垂直に構える。
二人は空中に飛び交差した。
そして同時に地に立った。

道斗が先に倒れる。しばらくしてベルクスも倒れたがすぐ起き上がった。

「ベルクスの勝ち。」

アイニスは負けた道斗の姿を見たくなかったが、見届け人である以上仕方がなかった。

「違うぜ、姐ちゃん。おれの負けだ。」

ベルクスは着ていた革性の防御服を脱いだ。
右腹が減り込み、機械部品のようなものが剥き出しになっていた。

「あなた、その身体は?」

アイニスはベルクスの身体がまったく理解出来なかった。

「ベルクス、お前はサイボーグだったのか?
アイニスにはわかりにくいので改造人間と言おうか。」

倒れていた道斗は立ち上がった。その身体に傷一つなかった。

「道斗。大丈夫だったの?」

「ベルクスの身体の鼓動は何か違っていたんだ。その鼓動はおれが研究所にいた時に聴いた音に似ていた。つまりサイボーグやロボットだ。だから起動回路を突いた。完全に止まるとこちらも困るので少し外した。」

「 ふふふ‥そうなのか見事だ。するとお前が吹っ飛んだのは拳の反動だな」

「そうだ。おれはまだこの世界で自分の力を完全にコントロール出来ていない。ベルクス、それよりお前はこの世界の者なのか?」

「おれはマーダス帝国の元軍人だ。戦争や国境の紛争に出て身体はこの通りぼろぼろ、この世界では半機械人や機械人といわれてるがな。」

「なるほど、それが今は流れ者なのか?」

「ああそうさ。おれは軍の脱走兵さ。今の帝国は昔の帝国じゃねえ。他国を侵略しこのバルガァードを支配しようとしてる。」

「ベルクス、あなたマーダスの軍人なの。だったら教えて。マーダス帝国は本当にバルガァードを支配しようとしてるの?」

アイニスはマーダス帝国の人間と話すのは初めてのことだった。
こと独特な科学文明を遂げたマーダスとラルフ王国はほとんど交流がなかったが、一年前レンド皇国との紛争で国際会議が開かれた。
兄の国王デニスが赴き消息を絶ったのだが、その後マーダス帝国は一方的に国交断絶を行なったのだ。

「帝国はバルガァード星国の再興をしようとしている。レンド皇国とは紛争でなく一方的な侵略だ。」

ベルクスは吐き捨てるように言った。

「そうなのか。」

アイニスはマーダスの人間から帝国の内情を聞くことができた。
見た目ではベルクスは軍の幹部クラスとみた。

「それより公宮へ飛んだムーアら危険だぞ。
奴ら、罠を仕掛けて待ってるぞ。」

「奴ら?」

道斗は昨夜ムーアが衛士に襲われた一件を思い出した。

「大丈夫。遠隔でミルドが引っ張ってくれるわ。」

アイニスは道斗をミルドが残した移動陣へ連れ出した。

「待ってくれ、俺も行かせてくれ。」

ベルクスも移動陣に飛び込んだ。

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