連載 タイムラブ 愛に時間を〜紫の炎③
‥涼‥涼なの?‥
夕子はマスクを外し男の顔を確認した。
間違いなく10年前ジャックスミスらの集団から襲撃されたときの涼であった。
‥あのときから10年、涼の顔はあのときのまま。
どういうことなの?
夕子は上願が先に向かった黒の13号室へ行かねばならない。
電子ホーンで加賀見士郎へすぐさま連絡を取った。
「士郎、こちら夕子」
「夕子、もうすぐお前のいるところに到着するぞ。」
「一人救出をお願い。涼よ。」
「なんだって!涼のやつ生きてたのか。」
「うん。間違いない!麻酔を打ったから今は眠ってるわ。すぐ救護の方にまわしてね。」
「麻酔‥暴れる?なんだか色々事情がありそうだな。」
「たぶん士郎も驚くわ。帰ったら話すわ。
絵里にも伝えといてね。」
「よっしゃーあとは任せろ!夕子気をつけろよ。危険は犯すなよ。」
「了解!」
夕子は電子ホーンを切り、黒の13号室へと向かう。
夕子はしばらく走ると黒の13号室が見えた。
そしてドアの前に座り込んでいる上願の姿が目に映った。
「上願さん。」
「お嬢ちゃん、貝原と闘ったときの傷口が開いて‥まったくぶざまだよ。おっとお嬢ちゃんて言ってしまったな。」
上願は苦悶の顔を見せた。
「動かないで、じっとしてて‥上願さん、私がやるわ。」
夕子は上願を見つめた。
「お嬢ちゃん、もう手に入れた‥これを持っていけ!指揮官はおれにとっちゃ本当にお嬢ちゃんだ。」
夕子にデーターを手渡し、力を振り絞って喋る上願が過去へとフラッシュバックした。
「20年前、日本時空光学研究所に起きた爆破テロ、あのときおれは研究所の警護にあたっていた。
貝原も同じくな‥どこにも爆破物は発見される事なく、でもな研究所はテロの予告通り爆破された。
あのとき幼かった指揮官をおれは咄嗟に抱えて伏せた‥」
「上願さん、あのときわたしを抱えて‥」
夕子は幼い頃の記憶が甦った。
断片的であるがそれは上願の温もりであった。
「このデーターでジャックスミスとアース教団をあばいてくれ‥頼むぞ。」
上願の声が途切れ気味になった。
「上願さん、お願い生きて‥」
「そうだ‥タバコを取ってもらえないか?」
夕子は上願の胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「ありがとう‥あともう一息だな!指揮官」
上願は煙草を咥え、煙をだすと目を閉じた。
「上願さん、上願さん‥」
夕子は密かに泣き崩れた。
BGM
マークボラン&T-REX〜ゲット・イット・オン
グラムロックの雄、マークボランが放ったロックンロールナンバー。
パーカーションを取り入れた独特のリズムが印象的だ。