遠くのものより近くのものを
Do It Together
開宅舎のオフィスは使われなくなった納屋をリノベーションしてつくられた。納屋を活用して、養老渓谷の景色を見ながら仕事ができるオフィスを作らないかと提案してくれたのは、西国吉に事務所を構えるkurosawa kawara-tenという建築設計事務所だ。養老渓谷の木を使い、地元の大工さんに工事をお願いし、開宅舎のメンバーや建築学科の学生、地域の人を集めてみんなでオフィスを作り上げた。今回は開宅舎のオフィスの現場監督を勤めたkurosawa kawara-tenスタッフの三栗野鈴菜さんにお話を伺った。
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kurosawa kawara-ten
http://kurosawakawaraten.com/
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加茂地区との関わり
開宅舎 小深山(以下Kと示す):三栗野は福岡出身って聞いてるけど、市原に最初に来た理由はなんだったの?
三栗野さん(以下Mと示す):大学生のときに学校の授業以外のまちづくり活動とかに参加してたんだよね。大学の先輩の卒業制作ワークショップに参加したんだけど、その先輩が kawara-tenでパートタイムとして働いていて。大学4年生からパートタイムスタッフとして西国吉の事務所に来てたのが最初の関わりかな。
K:そうだったんだ。今年で市原に関わり始めてもう5年も経つんだね。そのなかで、加茂地区と関わったきっかけってなにかあったの?
M:ほんとに偶然だったんだよね。開宅舎の現場はDIT(Do It Together)が多い現場だったから、kawara-tenの誰かが現場にいて流れを作る必要があって。それがすごく私にあってたんだと思う。
K:偶然だったんだね。三栗野はそういう周りの人に溶け込んでいくのがうまいなと思ってたんだけど、何か意識していることってあるの?
M:まず人の話を聞いてあげることを意識してる。理由の一つは、わたしが尊敬している人が宝塚の娘役の人なの。宝塚は男役がリーダーで引っ張っていく役なんだけど、娘役の人は一歩下がって引き立てる役なのね。それが美しいなと思って、自分も誰かを支えられるようになりたいって思ってる。もう一つは、みんなちがってみんないいって思ってて。というのも、わたしが帰国子女だったり、高専に行ってから大学に編入したり、一般クラスの人と感覚が合わないことがよくあったんだよね。だから、自分と違う人と触れることが多かったから、まずはその人のことを知りたいなって思って。それで話を聞いてあげられる人になりたいなって思ってる。
開宅舎のオフィスの現場監督をした感想
K:はじめての現場監督って聞いたんだけど、この現場の監督をやって率直にどうだった?
M:たいへんだった。現場監督は工程管理と品質管理と全部やらなきゃいけなくて、そこに人の手配や道具の手配があったんだよね。自分の経験値のなさをほんとに痛感した。ただ、関わる人が多かったから、この現場を通してコミュニケーションの幅がすごく広がったなって思ってる。みんなが現場監督って言ってくれてリーダーとしていなきゃって思ったんだよね。
K:みんな三栗野監督って言ってたもんね。
M:監督ってずっと言われてた。たいへんだったし、そのプレッシャーもけっこうあった。今までリーダーっぽいことをしたことはあったけど、リーダーをしたことはなくて。はじめて自分の今いなきゃいけない立場を知ったというか。今思うとすごくいい思い出。
空き家について
K:建築設計事務所に勤めている人間として、空き家ってどう思う?
M:わたしはいろんなタイプの空き家に出会ってるの。海外にいたときは使わなくなった宮殿も見てるし、福岡にいたときは長屋構造になってる町屋も見てる。今は加茂地区にあるような古民家も扱ってるし、会社として郊外戸建て団地の空き家についても考えたりしてるんだよね。
K:空き家って聞くと、古民家をイメージする人が多そうだよね。確かにいろんなタイプの空き家と出会ってるんだね。
M:新築の家を建てるときってどういう空間にしていくかゼロから考えるんだけど、空き家ってもう建ってるからさ。どう使おうかって考えるんだよね。空き家を使おうとしたときに新築のほうがいいじゃんって感じる人もいると思うんだよね。でもわたしは今建っている家や古いものを使っていく姿勢がすごくいいなって感じるし、地域の課題としてどうにかしなきゃいけないとも思ってる。だから、空き家を使いたいと思う人がいたときに全力で応援できる建築家にわたしはなりたいなって思ってるよ。
近所の大工さん
空き家の改修には職人さんの存在は欠かせない。開宅舎では空き家を持ち主の方から譲り受けたあとにリノベーションをする機会が多く、既存の部分を残しながら、加茂地区での暮らしができる状態まで改装をする。今回は開宅舎の事務所の工事をお願いした大工さんの1人、佐久間大工さんにお話を伺った。
この地域を選んだワケ
開宅舎 小深山(以下Kと示す):佐久間さんは加茂地区の石神地域の生まれと聞きました。ずっと石神で大工さんをやられてるんですか?
佐久間さん(以下Sと示す):自分たちの時代ってのはさぁ、ちょっとしたところはみんなもう新築ブームでよぉ。おれもこんな立派な家建ててぇなぁと思ってよぉ。親は郵便局員になれってそうけんが、おらぁ職人になりてぇんだって言って、職業訓練校に行ってよ。そのあと近くに師匠になる人がいたからそこで修行してよ。今の人なんか、はぁ、初任給って言うの、10万や20万もらえっかもしれねぇけど、おらぁんとは、はぁよ、1年くらいタダだかんよぉ。今はもう働き方改革とかって残業もしちゃおいねぇかんねぇ(笑)
K:そうですね〜(笑)
S:その師匠の元で5年修行してね。1年とか2年ねぇ、親方のために、師匠のために、お礼奉公って言ってねぇ、協力すんだって。おらぁ5年いたからよぉ。そのあと、新聞の求人欄見て東京に行ったよ。
K:そうだったんですね。
S:おふくろが1人になって、そんでこっちに戻ってきて、そっからこっちでずっとやってるよ。
空き家の改修について
K:開宅舎の事務所をつくったときもそうですが、空き家のリノベーションについて大工さんとしてどう考えているのかお聞きしたいです。
S:自分は歳で、はぁ、考えが古いからねぇ。昔から築いてきたものを活かすってのはね、自分の師匠とか先祖たちがやってきたことを引き継ぐと同じだからねぇ、そらぁ自分たちとしては誇りに思うよねぇ。だからぁ、おらぁ、こういうふうに改装して使い続けられればさぁ、そういう世の中のほうがいいじゃねぇかなぁって思うよねぇ。
K:すごく素敵です。
S:おらぁ、歳だからさぁ、かんげぇることが古いからあれだけどよぉ。年寄りからするとよぉ、自分が住んでた家が壊すんじゃなくて使ってもらえるのは嬉しいよ。んで、今流行りの床暖房とかさ、暮らしやすいに改装すれば、生活もしやすくていいよ。活かせるもんは活かしてよ、流行りの設備みたいなの入れれば、はぁいいと思うよ。
K:活かせるものは活かすってとても大事ですよね。
S:こんなんででぇじょうぶかぁ?開宅舎はこんな職人を使ってんのかってクレームこねぇかなぁ(笑)あんまり載せねぇ方がいいよぉ(笑)
裏山の木
「空き家に光を」という開宅舎のコンセプトと同じように、開宅舎は新しいものを使うのではなく、今あるものを使って、新しい価値をつくりたい。そんな願いから、養老渓谷の山から木を切り、製材をして、開宅舎の事務所をつくった。事務所を作る際に木を使わせてもらった、地元で代々林業やしいたけ栽培をしている田村源三郎さんにお話を伺った。
この地域を選んだワケ
田村源三郎さん(以下Gと示す):うちはねぇ、じいさんの代から、杉やヒノキを育ててきてねぇ。今は林業を主体としてしいたけ栽培しててねぇ。昔は生しいたけじゃなくて干ししいたけにしてたんだけどよ。春先に急にあったかくなると、でたりでなかったりするから、最近はハウスん中でしいたけ育ててるよ。だから私は林業・農業一筋でやってますよ。
開宅舎 小深山(以下Kと示す):そうなんですね。ずっとこの地域で林業と農業をやられてたんですね。
G:昭和45年にねぇ、ここらは集中豪雨があってさぁ。田んぼに全部土砂が入り込んじゃってねぇ、一つもお米が取れんかった。道路だって至るところで寸断しちゃって、あんでねぇ、沼のところも道が無くなっちゃだんよぉ。そん時にさ、あんだがん、おれはこのまま一生、この山ん中で生きてくのかなぁって、すごく虚しさを感じてさぁ。一度はねぇ、違う世界に憧れて、東京に行ったんだよ。
K:そうだったんですね!
G:うちをおんでてさぁ。アルバイトもいろんなのしたよ。就職活動もしようかなぁと思ったけんが、当時オイルショックでねぇ。トイレットペーパーがねぇ、砂糖がねぇ、あんだかんで大騒ぎでさぁ。それ見てね、あぁ、都会の人ってのはなんか不景気になると大変だなぁ。おれはなぁ、うちへけぇれば住まいはある、農家だから食べもんも作ってる。しいたけ栽培の勉強してたからねぇ。もともと、肉体労働が苦じゃねぇから。そんでこっちへ帰って来た。
K:この前の台風で農家の人はすごいなってぼくも体感しました。
G:おれはねぇ、都会生活を知ってるから、都会の人に田舎の良さを知ってもらいたい。加茂地区もほんとに人口が少なくなってきてるからさぁ。この辺はハイキングコースもあるし、温泉街もある。高滝湖に行けばワカサギ釣りだってできる。高齢者は田んぼや畑ができなくて困ってるからねぇ、若い人が来てやりたいって言えばねぇ、ちょっと機械でうなったり、草刈ったり協力するよ。特に加茂の人はいい人が多いからねぇ。おれはねぇ、この地域はほんとに素晴らしい地域だと思ってるよ。都会の人が田舎の生活をしに加茂地区に来て欲しいねぇ。