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カフェを開く


新しい地域で生活を始める、カフェを開く、アトリエを持つ。地方での挑戦は可能性がたくさんある。拠点を持つときに考えるのが、どんなところに拠点を持つかだろう。海が見える家、川の流れが聞こえてくる家、山奥にぽつんとある家、いろんな理想があるはずだ。しかし、そういった理想の場所はなかなか見つからない。結果的に第一希望じゃない場所を選ぶこともあるだろう。理想の場所ではなかったけれど、思いきって住んでみたら、いざ関わり始めてみたら、こっちを選んでよかったと感じる人が実は多いのではないだろうか。移住は正解を求めてするものではなく、自分の中の正解を形にしていく手段なのかもしれない。


二〇二一年十一月、月崎駅徒歩五分の場所にこのいかふぇというカフェがオープンした。二階建ての大きな古民家を改装してできたカフェ。金土日祝の週末の営業形態を取っていて、綺麗な庭や里山の景色が見えるテラス席もある。ファッション誌の撮影地になるほど、店内は綺麗な空間だ。今回はカフェ敷地内の湧水で淹れたコーヒーをいただきながら、お話を伺った。

月崎の古民家との出会い



開宅舎 小深山(以下Kと示す):このいカフェは去年の十一月にオープンしたと聞きました。ちょうど一周年なんですね。おめでとうございます。

阪本さん(以下Sと示す):ありがとうございます。そうなんです。ちょうどこの前一周年を迎えることができました。この物件を購入したのは二〇二〇年の五月なんです。開宅舎さんはもうそのとき動かれてたんですか?

K:わたしたちが本格的に動き出したのは二〇二〇年の二月でした。ここの物件のことは不動産屋さんに出してるよと地域の人から聞いていたんです。

S:そうだったんですね。

K:地域の人からここにカフェを始める人が購入したらしいとも聞いていました。こんな素敵なカフェができて嬉しいです。阪本さんがこの地域やこの物件と出会ったきっかけはなんだったんですか?

S:ぼくが住んでいるのが横浜市なんですけど、海の見える古民家でカフェをやりたかったんです。横浜だと鎌倉とか近くて、あんなところでカフェができたらいいなと思ってたんですけど、鎌倉の海沿いってカフェ激戦区なんですよね。カフェがたくさんあるところでカフェをはじめても勝算はないかなって感じていたんです。千葉県って海に囲まれてるからいろんな候補地があるだろうなって、千葉の海沿いで物件を探し始めたんです。

K:鎌倉は観光地としても有名ですよね。確かに千葉県はすごく海に面しているので、候補地もたくさんありそうですね。

S:でも、なかなかなくて。千葉県の外房の地域や南房総の物件とか五〇軒くらいまわりました。

K:そんなにまわったんですね!南房総とか館山とかすごいありそうって思ってしまうんですが。

S:まさに南房総や館山は第一候補として何度も足を運んだんですけど、「海が見える古民家」ってなかなかなかったんですよ。朽ち果てそうな古民家や、山奥にある古民家とか、古民家はあるにはあったんですけどね。そもそも古民家って売りに出てなくて。

K:そうだったんですね。古民家なかなか出てないですよね。

S:カフェを始める前提で古民家を探していたんですけど、売買だと古民家ってなかなか出てないんですよ。ぼくらはどこでやるかよりも、物件メインで選んでたので、なかなか決まらなくて。カフェを始めるのに大きな改修をするつもりでいたので、賃貸ではなく売買じゃなきゃいけなかったんです。物件選びに半年かかっちゃいました。


K:どんな物件ではじめるかは大事ですよね。この月崎の物件にした決め手はなんだったんですか?

S:ここは柱とか梁とか建物の構造がとてもよかったり、湧水が出ていたり、観光列車である小湊鐵道の月崎駅が近かったり、いろんな条件が揃っていてすごくよくない?ってなったんです。コーヒーも湧水を使って淹れてるんですよ。海は見えないですけど、素敵な空間になるだろうなって思ったんです。

K:そうなんですね。最初にこのいかふぇに来たとき、すごく綺麗にリノベーションしたんだなって感動しました。柱とか梁とかすごい綺麗ですよね。展示されている作品も古民家とぴったりですよね。

S:いろんな古民家をみたんですけど、もともとがここまでいい状態で建っている古民家ってそんなになかったんですよ。厨房の設備や客席の大きな改修工事がここならできると思って決めました。実は店内の作品はカフェのオーナー兼シェフであり、現代美術家兼書家である不破秋雲(ふわしゅううん)の作品なんです。隣の建物もカフェとして改装したんですけど、実際にまだ使えてなくて。せっかく綺麗にしたのでゆくゆくは使っていこうと思っています。結果的にここを選んでお店をオープンさせることができて本当によかったです。

古民家の改修


K:古民家の改修で一番大変だったのはなんですか?

S:一番大変だったのは、最初に木を切ることでしたね。実は、最初この土地は森状態だったので、三〇本くらい大きな木を切ったんです。建物の改修の前に、まずは自然との戦いでした(笑)

K:自然との戦い。すごそうです。

S:そこからようやく建物の中の改修に移れて。片付けや畳を処分したりするのも本当に大変でした。金属類は回収業者さんに引き取ってもらえたので、とても助かりました。店内の塗装もすごく大変で。天井は4回、柱は6回、下塗りやニスを塗りましたよ。天井は塗料が自分に垂れてくるので、汚れながら何度も塗りました。

K:天井は上を向きながら塗らないといけないので大変ですよね。

S:大体こういうのって作業が慣れてきてから便利な道具が出てきたりするんですよね。終わった頃に、なんだこんな便利な道具があったじゃんってなったりました。

K:ありますよね、そういうの。

S:駐車場やお店の庭の部分もユンボを運転して綺麗にして、砂利を敷いたり、芝を張ったりしました。庭の石はもともとこの土地にあったもので、重すぎて動かせなかったので、そのまま活用しました。

K:お店の中だけじゃなくてお庭も綺麗で細かいところまで丁寧に手入れがされてますよね。お客さんは森を綺麗にして、いろんな作業をして、っていうストーリーがあったなんて思わないですよね。

S:そうなんですよー。リノベーション後のこの雰囲気を見て、いい物件見つけたねって言ってくれる人もいたりするんですけど、最初の状態を知らないですからね。もう二度と古民家の改修工事はやりたくないです(笑)

この地域と空き家について


K:阪本さんは古民家でカフェを始めたいと物件を探したとおっしゃっていましたが、実際に物件を回ってみて空き家や古民家について、どう感じましたか?

S:これからどんどん空き家や使われていない古民家は増えていくんだろうなって感じました。何もしないと、家の所有者というか権利者が増えてしまうんですよね。もしそうなったときに、実は権利者が何人もいるってなると、契約もできないって状態になってしまいます。

K:わたしたちも権利関係の部分でどうしようもできない空き家を見てきてます。

S:それに家っていうのは使われていないと傷んでしまうものです。この物件も、3年空き家になっていたので、けっこうダメージがありました。誰かが管理をしないと、家って傷んでいってしまうものだと思うので、法律とかそういったところから整備できたらいいのかなとは思うんですけど。空き家を使いたい人と、自分たちが管理している家を使って欲しい人がうまくマッチングできる仕組みがあるといいですね。

K:ほんとおっしゃる通りです。わたしたちも空き家になってからではなくて、空き家になる前に予防として何かできればって考えています。阪本さんは週末に月崎でカフェの仕事をし、平日は横浜にお帰りになっていると聞きましたが、市原と横浜の2拠点の生活はどうですか?

S:横浜と月崎の往復だと、月崎では横浜では見られなかった動物を見れたり、星が綺麗だったり、水が湧いていたり、自然の豊かさをとっても感じますね。月崎はおばあちゃん家のようなあたたかい田舎の雰囲気をとても感じます。不便なところとしてはスーパーが遠いなと感じています。ここだと一番近いのは隣町の吉田屋スーパーが車で十分。牛久まで行ければ数件のスーパーがあるんですけど、牛久まで行くのに車で二十分くらいかかっちゃうので、横浜での生活と比べると遠く感じますね。

K:横浜と行ったり来たりしているからこそ、便利さや自然の違いなど感じますよね。町会の人たちや地域の人たちとのお付き合いはどんな風に感じますか?

S:町会には入っているんですけど、草刈りとか町会の集まりが土日で、営業日と被ってしまって参加できていないんです。ほんとに申し訳ないんですけど。それでも、ご近所の方や地域の人たちにはとてもよくしてもらっています。この地域の人たちは畑をやられている人が多くて、採れたての野菜を持ってきてくれたりもするんですよ。

K:確かに町会の集まりはどの町会も土日が多いかもしれないです。採れたての野菜を持ってきてくれるのは嬉しいですよね。

S:カフェの営業は地域の人の存在がほんとに大切なので、よくしてもらえてとてもありがたいです。

K:この地域でカフェをはじめるってなったとき、地域の人との関係や人付き合いなど、はじめる前とはじめた後でギャップってありましたか?

S:そこまでギャップはなかったですね。おじいちゃん、おばあちゃんが多くて、あたたかく迎えてくださったなって思ってます。実は夏の間3ヶ月間お店をお休みさせてもらっていたんですけど、再開したときにご近所さんがお花を持ってきてくれて。それは入り口に飾っています。去年カフェをやらせていただくってご近所さんにご挨拶に行ったときに、近くにカフェができて嬉しいって言ってくれたんです。地域が明るくなるって言ってくれて。そういうふうに言ってくれる人が何人もいて、とても嬉しかったです。


K:先日、取材のお願いをするのにこのいかふぇに来たとき、阪本さんが「小深山くんは前に来た時コーヒーブラック飲んでたよね。今回もブラックでいいかな?」と言ってくださって、小説に出てくる行きつけのカフェみたいな気分を味わえてワクワクしちゃいました。すごい嬉しかったです。今後このカフェでやっていきたいことはありますか?

S:飲食店は参入障壁が少ない代わりに、やめられてしまうお店も多いんですよね。なので、まずは5年続けることを目標に頑張ろうと思っています。お客さんに、週末だけじゃなくて平日もやってほしいと言っていただけるのですが、月曜から木曜ははずっと仕込みをしているんです。料理は全部手作りなので、時間はかかりますがその分美味しくて温かい気持ちになっていただけるような料理になるように心を込めて手作りしています。今後は地域の方にホッとしていただける憩いの場として、観光客の方にお寛ぎいただける場所として頑張っていきたいと思っているので、これからもこのいかふぇをどうぞよろしくお願い致します。




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