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2021年11月

2021年11月の読書メーター
読んだ本の数:6冊

■島原の乱とキリシタン (敗者の日本史)
敗者の視点から歴史を捉え直すことを掲げたシリーズの一冊。
島原一揆をモチーフにした舞台を見にいくための予習に読む。
島原の乱にいたる数世代前から書き起こしているのがいい。ただ、著者のノートをそのまま見せられているかのようで、これで「敗者の視点から一揆を見つめ直す」のは、自分のような一般読者にはだいぶ無理があった。単に、自分はこの本が想定する読者のレベルになかっただけなんじゃないのかとは思う。
初期のキリスト教受容は、純粋な信仰心からではない場合も多かったようだ。経済や軍事面での利を求めて…あ、これ現世利益を求める心では。そもそも宣教しに来た方の目的もいろいろあったはずだよね。
その段階から、隠れても信仰をまもりつなぐ段階に至るまで、どのような過程があったのか。そのあたりに興味があるな。
読了日:11月05日 著者:五野井 隆史
https://bookmeter.com/books/8171720

■家老の忠義: 大名細川家存続の秘訣 (歴史文化ライブラリー 519)
織豊政権~徳川政権初期に細川家の家老を務めた親子、スーパー家臣松井康之・興長について。
この二人の「忠義」に主眼を置いているので、多少割り引いて読むべきところもあるのかもしれないけれど、それにしても。スーパーすぎる。
お家大事の精神で家老職を全うしたことはわかった。では、なぜ?が次に来る。なぜ主家を倒す…まではいかなくても、独立しない途を選んだのか。本書の内容をみる限りでは、独立を選択する実力も機会もあったように見えるが。そうしなかった理由、なにをどこまで見通してお家大事を貫くことにしたのか。
細川家も松井家も現在まで続いているわけだから、大正解を選んだと言ってもいいのかもしれない。まさかこの二人の働きだけが理由で今まで継がれるはずもなし。
森鴎外の『阿部一族』と『興津弥五右衛門の遺書』は、舞台がこの頃だ。創作と歴史とをごっちゃにしてはいけないけれど、同じ御家中のこととは思えぬ雰囲気のちがいである。
読了日:11月09日 著者:林 千寿
https://bookmeter.com/books/17297766

■のろとさにわ (平凡社ライブラリー)
詩人と学者の言葉の共闘。
まだだ、まだまだ、そんなんじゃ全然届かない。掬えない、浚えない。じれったさは、古さかもしれない。と2021年のわたしは1995年の女たちに向けて、ぶつぶつとぶつける。個人の問題としてだけ言えば、生も性もただ概念としてあるのみで、遠くへ遠くへいってしまっている。生臭さがつらかった。
わたしはわたしの死を経験できないというのは確かにほんとだ、とおもった。気づいていなかったな。
読了日:11月14日 著者:伊藤 比呂美,上野 千鶴子
https://bookmeter.com/books/356721

■サワー・ハート
アジア系アメリカ作家の初の短編集とのこと(アジア系っていうのも雑なくくりだよね)。著者は上海生まれアメリカ育ちの同い年。全く別の来し方だけど、大きく同じ時空間の移り変わりをみてきた同士かと勝手な親近感を抱く、同い年。
わたしは移民ではないし、日本以外にルーツを持つわけでもなく、本書の登場人物たちにくらべたら圧倒的に差異のない人々や環境の中でしか生きてこなかった。でもこの本には自分のことが書いてあるようだった。暴走する自意識、思い通りにならない自我、家族への愛と同じくらいの憎しみ、うまく疎通できないともだちたち…不安不満孤独。優しくなりたいのに。理解したいのに。
「移民文学」というものの、だれがどこにいても、結局は極めて個人的な感覚の積み重ねでしかないのかもしれない。それはとても、気の楽になることでもある。
前後する時系列や話者の曖昧な語りは独特で、決して読みやすいものではないけれど、整頓なんてできっこない頭の中をストレートにぶちまけたみたいでよい。こちらも全力でぶつかった。
読了日:11月17日 著者:ジェニー・ザン
https://bookmeter.com/books/18201526

■日本歴史 2021年11月号
・昌泰の変と上皇
・落合謙太郎在奉天総領事と榊原農場事件
読了日:11月23日 

■沈黙 (新潮文庫)
言わずと知れた名著。初めて読んで、名著の名著たるゆえんを実感した。
ともかくまず小説として抜群におもしろいのだ。どんどん読む。
次の印象はキチジローの存在、その意味。ロドリゴの見るまぼろしのようでもある。つまづきの石なんて言葉も浮かんだけれど、石は他でもない自分自身以外にありえない。
内心の信仰を捨てることは果たして可能なのか?板を踏もうが冒涜の言葉を強制されようが、和服を着せられて念仏を唱えようが、それはどこまで行っても外から見えるだけのこと。神に誓い、近づく道は、それほどまでに狭き門なのか。でも結局「あの人」は赦した。しかし「あの人」は外にあるものではないんだよやっぱりさ……
井上筑後のいうように、わたしには根本がわかってない。そもそもクリスチャンではないけれどもさ。
それでも、ポーランドの教会でみた、床に蹲ってなにごとかを祈る様子のお嬢さんの姿はわたしに何かを与えたし、あの空間には何かが在った。
読了日:11月30日 著者:遠藤 周作
https://bookmeter.com/books/556977