メンフィスレッドバーズ(Memphis Redbirds)と生きるための野球
カージナルスとその本拠地であるブッシュスタジアムの雰囲気に魅了され、すっかりメジャーリーグというエンタメの虜になった私は、気づけば球場に何度も足を運び、MLBチャンネルを購読し、遂には遥か遠く離れたメンフィスまで2軍の試合を観に行くという我ながら信じられないモチベーションで車をメンフィスに向けて走らせている。
カージナルスの2軍(AAA)はメンフィスレッドバーズという。前置きが長くなるが、ここに在籍した日本人選手が田口壮選手である。
実は何故か子供のころの野球選手の記憶に田口選手がいる。赤いユニフォームを着て少し細いのだがスタンドにホームランを運ぶ姿だ。セントルイスに関心をもってあの赤いユニフォームはカージナルスだということに気づいたのだった。
ロードトリップをし、平たい土地が地続きに目的地まで続いてくのが気持ちを高めてくれる。
さて、2軍のメンフィスレッドバーズの本拠地であるAUTOZONE PARKについた。
入って驚いた。まず球場がブッシュスタジアムと同じとは思えないほど小さくみえる。そしてなんと同じ費用だからと意気揚々と取ったバックネット裏(審判の裏なので超バックネット裏といってもいいかもしれない)に人が誰もいない。照りつける太陽と恥ずかしさに挟まれながら試合を観る。
試合前にフィールドでダンスを行った地元の子供たちのチアリーダーとその家族、地元で球場を楽しむ家族たち、老夫婦と私のような個人だけで球場はほとんど何も入っていないオモチャ箱のようだ。ファールボールが誰もいない客席に落ち、ベチンと音が響き渡る。メジャーでは盛り上がるファンファーレ、広告や攻守交代時のファンイベントもやればやるほど裏腹にどこか悲しげである。
2軍の試合はメジャーと異なりどこか悲壮感が漂うのである。1軍の選手から来た選手がたまにいたりするにも関わらずである。 (この日はJordan Walkerがいた。)
私がエンタメとして観戦を楽しんだメジャーの試合とは違ってここにはまさに生きるために、這い上がろうとする職業野球人たちがいる。マイナーリーグは5階級(AAAからルーキリーグまで)もある。
メジャーリーグ(米国の他のスポーツもそうなのかもしれないが)の驚くべきところは世界中から集うレベルの高さだけでなく、選手との距離が近いところにある。本当に目の前にいて米国人のフランクさも相まって彼らと自分たちの世界が地続きであることを痛感する。彼らの表情から気持ちが伝わる。特別な存在だがテレビをつければ僕たちと同じように今日も頑張っていると思える。だからこそ自分のことのように勝利は嬉しいし彼らに会いに行きたくなる。
だからこそ、マイナーリーグの選手たちの空気が信じられないくらい自分に突き刺さったのである。私はどうしても野球本場アメリカでの彼らの直面する現実というのを感じざるを得なかった。
後方の席に、So Taguchi の銘板が4席ほどあることに気づいた。比較的新しい。もしかすると彼は寄付したのかもしれない。そしてまだ関係を持っているのかもしれない。AAAからメジャーに上がりワールドシリーズまでいった田口壮選手のガッツと気高さに心を打たれながら球場を後にした。(彼については今後記事にしたい。)
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