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カイ書林 Webマガ Vol 15 No9

このメルマガおよびWebマガは、弊社がお世話になっている先生方に毎月配信します。毎月「全国ジェネラリスト・リポート」と「マンスリー・ジャーナルクラブ」を掲載しています。

【新刊】
筒井孝子著:必携 入門看護必要度 2024年診療報酬改定対応
5月11日発売 A5判 254ページ 定価:2500円+税
ISBN 978-4-904865-70-5 C3047
筒井孝子著:ポケット版 看護必要度 2024年診療報酬改定対応
5月11日発売 A6版 113ページ 定価:500円+税
ISBN 978-4-904865-71-2 C3047
草場鉄周監修:「総合診療・家庭医療のエッセンス 第2版」
5月17日発売 A5判 380ページ 定価:3800円+税
ISBN 978-4-904865-72-9 C3047

【好評発売中】

  1. 澤村匡史著:循環器救急・集中治療の高価値医療 日本の高価値医療⑧

  2. 和足孝之・坂口公太編集:医療現場に必要なリーダーシップ・スキル ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.19

  3. 筒井孝子・東光久・長谷川友美編集:看護必要度を使って多職種協働にチャレンジしよう ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.18

  4. 杉本俊郎編集:内科専門医が教えるジェネラリスト診療ツールキット

  5. 医療者のためのリーダーシップ30 の極意 Sanjay Saint&Vineet Chopra,翻訳:和足孝之

  6. 長瀬眞彦著:東洋医学診療に自信がつく本

  7. 梶 有貴、長崎一哉 編集:ジェネラリスト×気候変動― 臨床医は地球規模のSustainability にどう貢献するのか? ジェネラリスト教育コンソーシアム Vol.17

  8. 筒井孝子著:必携 入門看護必要度

  9. 筒井孝子著:ポケット版 看護必要度

  10. 鎌田一宏・東 光久編集:再生地域医療in Fukushima (ジェネラリスト教育コンソーシアム vol. 16)

■2024年度の第10回Choosing Wisely Japanオンライン・レクチャー

とき:10月6日(日)14時~15時半
鼎談:山中克郎先生(諏訪中央病院),鋪野紀好先生(千葉大学),司会:小泉俊三先生
「提言:日本のChoosing Wisely,こうして進めよう」
Choosing Wiselyキャンペーンが米国で立ち上げられてから10年が経過しました.日本でChoosing Wiselyを進めていく上で何が必要か,講師の先生方がホンネで語ります!
皆様のお知り合い,ご友人もお誘いくださいませ~
PeatixのURLはこちらです.


■全国ジェネラリストリポート

ワンヘルス―今の時代に求められる東洋医学の視点―

長瀬 眞彦 吉祥寺中医クリニック 日本東方医学会会長 順天堂大学医学部医学教育研究室

ワンヘルスという言葉はご存知でしょうか?意味は,「ヒトと動物,それを取り巻く環境(生態系)は,相互につながっていると包括的に捉え,ヒトと動物の健康と環境の保全を担う関係者が緊密な協力関係を構築し,分野横断的な課題の解決のために活動していこうという考え方」と厚生労働省のホームページにあり,「人獣共通感染症対策や薬剤耐性(AMR)対策などでワンヘルス・アプローチが必要」とされています.さて,私が専門としている東洋医学の分野では,千年単位の昔から,人を自然に見立てる「天人相応(てんじんそうおう)」という概念があります.これは,人は自然の一部であり,人と自然環境は分かち難く,体調は自然環境から影響を受けるというものです.一例を挙げると,低気圧が発生すると頭痛を起こす症状をお持ちの方がいますが,その場合,体内に低気圧のような病因を抱えているので(それを水毒と呼びます),外的環境が同様な状態になると呼応して症状を引き起こすと捉えます.この病態に比較的良く用いられるのが五苓散という漢方薬です.自然環境の破壊により地球温暖化が進んでいるのは科学的に見ても明らかなようで,今後,過酷な暑さと湿度を代表とする体調に影響を及ぼす気候や,また,それを一因とする新興感染症に対応するには,このような東洋医学視点が求められるのではないかと思っています.

■マンスリー・ジャーナルクラブ

健康の社会的決定要因と術後せん妄の発生:SAGES研究における主要な関係の探究

西澤 俊紀 聖路加国際病院 一般内科/医療の質管理室,東京医科歯科大学公衆衛生学分野
Arias F, Dufour AB, Jones RN, Alegria M, Fong TG, Inouye SK. Social determinants of health and incident postoperative delirium: Exploring key relationships in the SAGES study. J Am Geriatr Soc. 2024;72:369–381. doi: 10.1111/jgs.18662.
要旨
目的: 高齢者における術後せん妄の発生と社会的健康決定要因(SDOH)の関連性を調査した.
対象: 本研究は, 2010年6月18日から2013年8月8日にボストンの2つの学術医療センターで実施された前向きコホート研究の後ろ向き分析である. 非心臓系の手術を受けた560名の70歳以上の高齢者が対象となった. 
結果: 高齢(オッズ比, OR: 1.01, 95%信頼区間, CI: 1.00-1.02), 年収20,000ドル未満(OR: 1.12, 95% CI: 1.00-1.26), 民間保険の欠如(OR: 1.19, 95% CI: 1.04-1.38), 高い抑うつ症状(OR: 1.02, 95% CI: 1.01-1.04), およびArea Deprivation Index(OR: 1.02, 95% CI: 1.01-1.04)が術後せん妄のリスク増加と有意に関連していた. 多変量モデルでは,有意な独立変数は高齢(OR: 1.01, 95% CI: 1.00-1.02), 民間保険の欠如(OR: 1.18, 95% CI: 1.02-1.36), および抑うつ症状(OR: 1.02, 95% CI: 1.00-1.03)であった.
結論: 社会経済的地位を反映する民間保険の欠如は, 術後せん妄の新たな重要な独立リスク要因として浮上した. 高齢者の術後せん妄を予防のために, SDOH要因をターゲットにすることを考慮するべきである.
コメント:
私は, 東京医科歯科大学の公衆衛生学分野(旧 国際健康推進医学分野)でSDOHとせん妄の関連性をテーマに研究しており, その過程で勉強した本論文を今回はご紹介しました. 著者のFranchesca Arias先生やSharon K. Inouye先生らは, 父親の教育歴, 父親の職業歴, Area Deprivation Index などのSDOHが術後せん妄のリスク要因となることを過去の研究で報告しており, こちらの論文はその集大成となっています. 
本研究の強みは,術後せん妄のリスク要因としてSDOHを包括的に評価した点にあり, こちらの対象者(アメリカの70歳以上の高齢者)では, 本研究の単変量の解析で年収が術後せん妄のリスクになることが明らかになりましたが, 多変量解析にて民間保険の欠如が年収と術後せん妄の中間因子となって, 術後せん妄のリスクを増加させることが分かりました. アメリカでは民間保険に加入しているかどうかで医療機関へのアクセスが変わるため, 今後の研究ではなぜ医療機関へのアクセスとせん妄が関連するのかさらなる評価が期待されます. 
読者の皆様はSDOHと様々な疾患との関連性はすでによくご存知だと思いますが,せん妄の発症さえもこのようなSDOHと関連していることがわかり, 本研究は病院で働く医師にとって入院中の患者さんの健康の社会格差について身近に考えるきっかけになるかもしれません.

■カイ書林図書館

読書の方法

出版社の立場から読書の方法を5つ挙げます
1) 味読➡著者の文章の表現力を味わう
2) 熟読➡著者の思考を考量して読む
3) 速読➡重点を斜め読みする
4) 再読➡時間を置いて何度も読む
5) 積読➡手元に置いていつか読む(=つんどく)
さてどんな本を出版したいかと言われれば,1)か2)ですが,それができるかどうかを振り返ると,「日暮れて道遠し」の感ひとしおです.

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