ペン回し界におけるウェブカメラの普及と理由に付いて

 ペン回しを撮影する為には、何が絶対に必要でしょうか?

 机? 照明? やる気? 勿論それらはあった方が良いに越した事はないですが、絶対ではありません。それらがなくても動画は撮れますからね。ただし大抵ゴミ同然の質になってしまいますが。特にやる気がないと。

 ですが、良い質の物でも悪い質の物であっても――撮影機材、つまりカメラは必要不可欠です。念写能力でもない限り、カメラがなければ撮影は出来ませんからね。

 ペンスピナーがお世話になる様々なカメラの中で、かつては――或いは今も――広く用いられ(た or る)物と言えば『ウェブカメラ』になるでしょうか。

 ウェブカメラがペン回しの撮影に用いられた歴史は非常に古く、例えばPDS1stには韓国の有名撮影ソフトであるHADURIを用いている物が幾つも見受けられます。

(ところで今の若手スピナーってPDS1stを見た事があるんでしょうか? 何それ聴いた事ない、って感じでは流石にないと思いますけど。……ないですよね?)

 疑問はさておき。上で韓国の例を挙げましたが、では日本では一体何時頃からウェブカメラがペン回しにおいて注目されたのでしょうか? そもそも何故撮影機材としてそれが注目されるようになったのでしょうか?

 それらの疑問を解決すべく、私はインターネットの海に潜り込みました。

   ◇

 ペン回し界の過去を調べる――となれば、調査対象として外せないのは間違いなく『ペン回し研究室』の過去ログでしょう。(ペン回し研究室って何? となっている方は申し訳ありませんが調べて下さい……)

 2000年10月から一部期間を除いた2002年5月辺りまでのペンスピナー達による膨大と表現して良い書き込みが纏められており、その中を調べて行けばウェブカメラに付いての〝言及〟があるはずだ、いやあるに決まっている、って言うかないとコラムが書けないし――。

 しかし懇願染みた予想とは裏腹に記録されている過去ログの中では、ウェブカメラと言う単語はおろか、〝撮影〟や〝カメラ〟と言った表現すら僅か2、3件ほどしか確認する事が出来ませんでした。この時代ではどうやら、撮影その物に目を向ける事はあまりなかったようです。

 次に向かったのは2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の文具板のペン回しスレでした。最古のスレは2002年12月から始まり、そこから何年間にも渡ってペン回し界に影響を及ぼす活動――PSNシリーズの始まり、JapEnシリーズの始まりなどその影響は計り知れません――が行われていた場所でもあります。

 その長く続いたスレッドを一つ一つ調べて行くと、15スレッド目の『【勉強よりも】 ペン回し 15回転目 【ペン回し】』にてようやく私が調べた限りでは最古の言及。2005年9日5日の書き込みを発見する事が出来ました。

画像1

 これは撮影機材の話題の中での発言になります。なお〝チャットの方で〟とは恐らくPSNチャットの事を示しているのだと思われます。

 では2005年頃からウェブカメラが日本で用いられるようになった、と一先ず結論付けまして。(この書き込み以降から〝ウェブカメラ〟と言う単語がたびたびスレッドに登場するようになります)

 ここで次の問題。即ち何故ウェブカメラが撮影機材として注目されるようになったのか――を考察して行きたい所ではあるのですが、実はこれに関しては先人の方々が考察し、幾つか推測を述べられています。

 例えば動画ファイルを移す過程が必要ない、であるとか。例えば様々な角度から撮りやすい、であるとか。勿論それらの理由も要因となった事は間違いないでしょう。

 ですが、それらよりももっと大きな理由があるから――言ってしまえば、この理由があったからこそウェブカメラが注目されるようになったのではないか、と考えている物があります。

 ……ただ、驚くべき理由ではありません。超普通な理由です。

 値段です。値段が最も大きな理由だと考えているのです。

 2005年のレンズ一体型デジタルカメラの平均単価は、カメラ映像機器工業会(CIPA)のデータによると21,300円になります。勿論これがそのまま販売価格とはならないでしょうが、しかし世に出る商品の値段はこれがベースとなるのはほぼ間違いないでしょう。

 そしてこれは周知の事実と言っても良いですが、ペン回しにのめり込む人は圧倒的に学生が多いです。中学生、或いは高校生辺り。そんな学生にとって2万円台と言う価格帯はどうでしょう? 求めやすいでしょうか? 

 ……少なくとも、中学生の頃お小遣いが1か月500円だった私にしてみれば、その価格帯はどうしても購入する事に対して抵抗が生まれます。

 因みに金融広報中央委員会の『知るぽると』のデータによれば、2005年においての中学生のお小遣いの平均額は1か月約3,000円であり、2万円に到達する為には単純に考えると7か月程も溜め続けなければいけません。

 そこまで待てるかどうか。

 少なくとも私には無理であると即座に断言出来ます。

   ◇

 では一方、ウェブカメラの値段はどれ程の物になるのでしょうか?

 残念ながらデジタルカメラのような単価のデータは存在しないようでしたが(或いは私の情報検索能力が低いせいかも知れません)、調べた限り2005年に販売されたウェブカメラの値段は高くても11,000円程。殆どの製品が3,000円9,000円台に収まっていました。

(例えばELECOMの『UCAM-E1D30Mシリーズ』は11,000円。『UCAM-E1W30T』、『UCAM-A1C30TDSV』は7,875円。Logicoolの『Qcam Fusion QVX-13』は9,000円、Buffaloの『BWC-35H01』は3,980円になります。
 これらの情報から、ウェブカメラはデジタルカメラと比べると格段に安いと判断しても問題ないでしょう。因みに私が2006年に購入した物は例に挙げた物よりも遥かに安い1,980円でしたが、〝安物買いの銭失い〟を身を持って体験する事になりました)

 私のアホな失敗はさて置きとして。仮に11,000円のUCAM-E1D30Mを買うとしても、上記で挙げたデジタルカメラの平均単価と比べると値段はおよそ2分の1になります。50パーセントoff、と書けばその意味合いの大きさがもっと解り易いかも知れませんね。

 金銭的な余裕があまりない学生にしてみればこの安さは非常に魅力的であり、そして動画ファイルを移す過程や撮影角度などの利便性などを合わせて考えれば、ウェブカメラに真っ先に手が伸びるのも当然と言えるでしょう。

   ◇

 現在では撮影手段は無数に存在します。ウェブカメラは勿論、デジタルカメラの値段は性能と反比例するかのように低価格化し、携帯カメラは高性能なスマホカメラになり一つの撮影手段――或いは現在のペン回し界のメインの撮影手段として用いられるようになりました。

 常識的に考えてカメラの性能が良いに越した事はない筈で、それによって不都合が生じる事はまず考えられません。

 ですがペン回しの撮影に関しては、あえて画質を下げると言う選択肢、あえて残像を際立たせると言う選択肢などがあり、性能が低いからこそ良くなる点がある、と言う変わった特徴があります。

 その特徴が存在し続ける限り、デジカメと比べて性能が低くなりがちなウェブカメラを用いる方が完全に居なくなる事は恐らくないのでしょう。

 ――と、長々と纏めのような物に入らせて頂きましたが、このコラムで最も伝えたかった事が何であるかと言いますと。

 後悔するので安過ぎるカメラは買わないようにしましょう。

 と、言う事です。

   ◇

 最後に、このコラムを書くに当たって参考・引用させて頂いたサイト等のURLを添付して置きます。

・【勉強よりも】 ペン回し 15回転目 【ペン回し】
https://that3.5ch.net/test/read.cgi/stationery/1125818992/

・中学生は平均約2500円…子供のおこづかい額をグラフ化してみる(最新)
http://www.garbagenews.net/archives/1996742.html

・デジタルカメラの総出荷 出典:カメラ映像機器工業会
http://www.cipa.jp/stats/documents/common/cr300.pdf

・UCAM-E1D30Mシリーズ
https://www2.elecom.co.jp/multimedia/pc-camera/ucam-e1d30m/

・UCAM-E1W30T
https://www.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0511/18/news088.html

・UCAM-A1C30TDSV
https://www.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0511/18/news088.html

・Qcam Fusion QVX-13
https://ascii.jp/elem/000/000/350/350396/

・BWC-35H01
https://www.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0503/17/news066.html

(このコラムはTakanさんが主宰した『夏の陣』に寄稿し、展示させて頂いた物を加筆、修正した物になります。展示された物の内容とは若干異なる場合があります)


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