短編小説 葬儀屋
くいっぱぐれのない仕事といえば葬儀屋だ。
人はいつか死ぬ。
軽い気持ちで入って10年経つが突然の仕事の依頼にも動揺せずに慣れてしまった。
今日は年寄り5人に若いのが2人と少し忙しい。
いつも通り黒のネクタイを締めて笑みを作らない様に鏡を見て顔を作り葬儀に勤める。
もうすぐでお坊さんがいらっしゃる頃だ。
(お前さん、見えるんだろ?目、合ったよな?)
目の前で男の老人の霊が言っているが気にしない。5年目で気づいてしまったのだ。我ながら天職なのかもしれない。いや、長年働いたからこそ天職になったのか。
「あいにく見えても何もしてあげられませんし、何か伝えても頭おかしいと思われたりストーカーに疑われるのでしません」
私は老人にはっきりと周りに聞こえない様に呟いて伝えた。若い時は最後の助けだろうと手伝った時もあったが遺族と揉めあいになったり、最悪殴られたり、訴えかけられたりしたのでもうこりごりだ。
しかし男は引き下がらない。
(このまま坊さんに天に連れて行ってもらう前にお願いがあるんだ。私はそこに参列している息子に殺された。階段から突き落として俺が転んだ事にしたんだ)
指を差す方には一切悲しんでいない様な30代の男が椅子に座っていた。
このパターンは飽きた。いつか警察が見つける。私は老人の事をシカトした。
(そうか、悪いことしたな。最後に軽いお願いがあるんだ。通夜振る舞いあるだろ?俺は胡麻油を寿司に塗って塩で食うのが好きなんだ。みんなによく変な食い方って笑われてな。今回の寿司にやってサプライズしてくれよ。みんな喜ぶからさ)
バカバカしいが了承してしまった。そんな手がかかる事でもないし。お坊さんに招かれて天へと上がった老人の顔は清々しい顔をしてこちらを見て
(みんなの驚く顔を見れないのは残念だが行ってくるわ、にいちゃんよろしくな)
と言って去って行った。
私は寿司に塗ろうと思ったが全てにかけるのはめんどくさいので塗らずに胡麻油を小皿に塩と一緒に入れて人数分用意しておいた。
通夜振る舞いの時に皆にお出しをすると。親族に
「このごま油と塩は何につかうのですか?」
と聞かれたので故人が生前好きな食べ方と聞きました。と伝えると
「それはありえない!あの人の息子は胡麻アレルギーなのに?!誰から聞いたんですか?あの人は胡麻油を息子の為に食べもしませんでしたよ!」
とかなり責められて怒られた。
やりやがったなあのじじい。嘘をつきやがった。息子を殺す気だったんだな。
老人は何も納得はしていなかった。
俺は会社の人間、親族、皆に怒られた。人は死んだ後の方が怖い。何も失うものがないのだから。
(下手くそが!だからかけた方が良かったのに連れて行けねぇじゃねぇか)
帰ったはずの老人が後ろにいた。いたのか。
老人は大きなため息をついて舌打ちをした後再び天へと旅立っていく。
人にも霊にも虐げられ俺は誰に救われんだよ。
天職じゃないな。
後日息子は捕まったと聞いたがそんな事はどうでもいい。俺は霊の言うことは信じない事にした。