短編小説 夜間警備員
もう会社を定年退職してから3年経つ。
私は65で会社を辞めてからあるビルの夜間警備員を務めている。ビルの外、入り口に立っているだけの作業だ。
この年で辞めろという声があるが、年金があてにならない今、この年でも働かなくては生きていけない。
むしろ今が昼か夜か分からないくらいの老体にはもってこいだ。
大きなビルを眺める。
68年という月日とは、信じられないくらい早いものでいつのまにか終わっていた。
時代の流れは日に日に加速していく。
電話がいつのまにかいつでもできるようになっていてむしろ今では淘汰されている。
電話にボタンがなくなった時、私はついていくのを諦めた。
後から生まれた者に追いつけなくなった時は存在意義を失った時もあった。
私が1番働き盛りの頃は毎週土曜が休みではなく毎日会社にいた。
今ではあの頃の面影はなく週休2日だ、1日8時間以内だ、残業代は必ず出せだと色々甘過ぎだ。
このビルにも1人その様な気合の入った男がいたが最近いなくなった様だ。
朝方、皆の出勤時は私は皆にお辞儀をするが誰一人挨拶はない。
何もかもコンピューターが管理しているのならなぜここは人に任せないのか。
皆責任をなすりつけたいのだ。金で雇ってなんかあった時に保険になる。
自身の保身がどれほど大事で怖いだろうか。
人々は私を狛犬とでも思っているのだろう。
または護符で縛られた式神か。人柱か。
私は何から何を守っているのだろうか。
この仕事のやりがいと私は何なのだろうか。
私はなりたくてなったわけではない、この世の中が憎いが何もできない。
警備員がそう思いながら視線を前にして立っている視界の外で、警備員を眺めながらビルの外れの喫煙所でタバコを吸う2人の男がいた。
「あの人って何世代か前の人工AIを入れた警備員ロボットでしたっけ?」
「そうそう、68年前のだよ。俺らが生まれる前だよ。昔は計算とかに使われていたけど感情を入れちゃったから壊し辛くて3年前に倉庫から出して入れたみたいだよ」
「何を思っているんでしょうね?」
「新しい仕事を貰えて嬉しいとかに決まってるだろ?人工知能なんてある程度しか考えられないよ」
タバコを消して去っていく2人を警備員はずっと見つめていた。