36億分の1になったTITAN、そして、IRON Financeとは何だったのか?
こんにちは、ベア之助(@kaisaobama1)です🐻✨
実は、TITANとIRONについて思うところがあり、少しずつ記事を書きためて、土日で投稿しようかなと思っていたのですが……
木曜日(2021年6月17日)明朝。
突如として、TITANがメルトダウン↓
翌日にはIRONがペッグから外れた状態で償還となりました↓
記事をお蔵入りするのもかなしいので、一連の騒動について、客観的な立場から記録として残しておくことにします。
特に『IRON Financeとは何だったのか?』この点にまで斬り込んでいければと思います。
記事の構成は、まずTITANやIRONの仕組みについて知らない人のためにも、ざっと説明します。
ついで、今回の熱狂&暴落のメカニズムについて解説をし、最後に『IRON Financeとは何だったのか?』を僕なりに説明したいと思います。
少々長いので、適当にお付き合いください!
IRONとは?TITANとは?
はじめにIRONやTITANの仕組みについて簡単に説明します。
IRONは『1ドルにペッグ(固定)することを目指したステーブルコイン』です。
IRONを新たに作る(Mintする)ときには、USDCにTITANという独自のトークンを混ぜることで得られます。
このとき、TITANは焼却(Burn)されます。
一方、IRONを元に戻したいときには、償還(Redeem)することで、USDCと新たに発行(Mint)されたTITANとに分解できます。
そもそも、ステーブルコインと言えばドルなどを担保にして1ドルに固定されているテザーが一般的ですが、他にも種類があり、以下の4種類に大別されます。
①法定通貨担保型 (テザー、USDCなど)
②コモディティ担保型 (PAX Goldなど)
③仮想通貨担保型 (WBTCなど)
④アルゴリズム型 (Carbonなど)
IRONは『④アルゴリズム型』と言われたりしますが、基本的には『③仮想通貨担保型』と考えられます(一部、④の要素あり)。
なぜなら、USDCもTITANも仮想通貨であり、IRONは仮想通貨バスケットをしているからです。
通貨バスケットって聞いたことありますか?
通貨バスケットは、複数の通貨を一定割合でミックスさせた為替指標です。
有名なのは、シンガポールドル。内訳は公表されていませんが、米ドルやユーロ、日本円、英ポンド等で構成された為替レートであると推定されています。
ちなみに、Facebookの仮想通貨のリブラは、ドルにペッグのステーブルコインではなく、通貨バスケット方式を採用したステーブルコインとして、発表されていました。その割合がシンガポールドルに似てると噂されています。
では、IRONの仮想通貨バスケットの割合はどうやって決まるのでしょうか?
それはTCRとECRで決まりますが、これもむずかしくないです。
まずは「TCR(目標担保率、Taget Collateral Ratio)」です。
これは1IRONを発行(Mint)するときに使います。
例えば、TCR70%であれば、1IRONを発行するのに『USDC 0.7ドル + TITAN 0.3ドル』が必要と言うことです。
TCRは、IRONの価格によって変動します。
下の図のように、1ドルより低ければTCRを上げて、逆にIRONが1ドルより高ければTCRを下げます。
つまり、IRONの価格をUSDCの供給量で1ドルにコントロールしようという考えです。
これは単に仮想通貨バスケットの割合を変えているだけで、アルゴリズムで価格を制御しているというと、少し大袈裟です。
いわゆるフィードバック制御で、エアコンの温度調整と同じですよね!
部屋の温度を25℃に設定して、部屋が30℃であればガンガン冷やすし、25℃以下になればエアコンの送風を止める。
同じように、IRONの値段が1ドルから乖離があれば、USDCの供給量を増減させて制御しようということです。
では、逆にIRONを分解するときにはどうなるのでしょうか?
ここで使うのが『ECR(有効担保率、Effective Collateral Ratio)』です。
これもむずかしくないです。
出回っているIRONは製造(Mint)したタイミングによってTCRが違うので、IRON全体で考えたときのUSDCとTITANの配合率も一定ではなく変化します。
そこで、全体ではどれだけUSDCが裏付けされているかを表すのがECRです。
例えば、ECR80%であれば、USDCの裏付け率は80%と言うことです。
このとき、1IRONを償還(Redeem)すると『USDC 0.8ドル + TITAN 0.2ドル』が受け取れます。
さらに、重要なのがこの担保になっているUSDCの最大75%が運用されることになります。この運用益の一部は、TITANの単体ステーキング報酬になり、USDCとして支払われます。これがTITANの価値の源泉です。また、報酬以外の残りは、おそらく運営の取り分となっていると考えられます。
また、目標(TCR)と現実(ECR)に差があり、USDCに余剰があれば、そのときはTITANを買い戻しておきます。そして、現実(ECR)が目標(TCR)を下回ったとき、USDCを買うことで担保を埋めるのに使われます。(これも担保を埋めるのであり、アルゴリズム型と言えるんですかね?)
細かい話は割愛しましたが、概要はこんな感じです。
熱狂からメルトダウンまで
それでは、次になぜIRONがここまで熱狂したかです。
1つはインフルエンサーの影響力があります。多くのインフルエンサーがシステムを褒める発言をしていました。僕はフォローしていませんでしたが、RT等で目にすることになりました。
そして、もう1つは仮想通貨の相場の軟調により参加者がより高い利回りを求めていたことです。
結局は、後者が大きいと思います。
僕はIRON&TITANが目新しいものであり革命的なものだとは、まったく思いませんでした(この理由は後ほど)。ただ、高利回りには目が眩みました。はっきり言って、羨ましかったです。
僕は苦し紛れに、以下のようにTweetをしました↓💦
指をくわえて見てるのは惨めでした💦笑
それはさておき、ここで参加者の思惑についても書いておきます。
まずはなにはともあれ、USDCとTITANからIRONをMintする必要があります(IRONを購入するのも可です)。TITANがBurnされるので、TITAN価格は上がる方向に作用します。
①そして、USDC/IRONでTITANをファーミングする。これが基本形です。ステーブルコイン同士のファーミングは、インパーマネントロスのリスクが低く王道です。暴落前日もAPR702%/APY104,271%とかなりの高利回りです。
②派生形は、TITAN/IRONを組んでTITANをファーミングする方法です。こちらは、暴落前日はAPR1,726%、APY2,105,155,981%(!?)とさらに高利回りでした。TITANの値段が上がっている相場でしたので、①より効率良くTITANを手に入れたいという圧力が働き、このペアを組む人も多数出ていたでしょう。
③IRONはステーブルコインですが、TITANは価格が上がっていたので②ではインパーマネントロスが気になります。そこで、同じく価格が上がっていたMATICを組み入れて、TITAN/MATICを組んでTITANをファーミングすれば、さらに高い利回りで、インパーマネントロスもなく、より資産を効率的に回せると判断する人が出てきていたでしょう。
④そして、最終的には、人々は気付くわけです。TITANの価格が高くなっており、ファーミングなんてするより直接買ったほうが得だし効率良くね?と。そして、TITANが買われることで、さらなる暴騰を招きます。
参考にした暴落前日の利回りです↓
ここまでをまとめますと、主に以下の4パターンの参加者がいると考えられます。
①USDC/IRONでTITANファーミング
②TITAN/IRONでTITANファーミング
③TITAN/MATICでTITANファーミング
④TITAN買い (&単体ステーキング)
いずれにしても、TITANが登場人物であり、強い買い圧力が働いて値段が上がっていました。もちろん、今回の騒動の主役でもあります。
普通に考えれば、①→④でリスクが高くなりますが、群集心理が働き、みんなで渡れば怖くない状態になっていたこともあり、②〜④のようなリスクを取りに行く行動に移しやすい環境にあったように思えます。
また、TITANは明らかに供給過多になっていました。時価総額は一時20億ドル(約2200億円)にのぼっています。TITANの価値の源泉は、前述のとおりUSDCの運用利回りの一部を得られる権利だけのはずで、基本的にはただの混ぜもので、これは明らかに買われすぎです。
6月16日午前10時前後。
ここで一匹のクジラがUSDC/IRONのプールから流動性を引き抜きました。次いで、TITAN/IRONのプールでTITAN⇒IRONとスワップし、保有するIRONをUSDC/IRONのプールでUSDCに変えました。
IRONは1ドルのペグから外れましたが、後に回復しています。TITANも65$⇒35$⇒52$と値動きはありましたが、無事に回復しました。
このIRONの戻りは、アービトラージの影響と考えられます。IRONが1ドルペッグされることが約束されていれば、アビトラの圧力が働き、よりペッグが堅固になるのが、ステーブルコインのおもしろいところです。
例えば、IRONが1.5ドルのときは、1ドルでIRONを作り(Mintして)、即売れば0.5ドルの利益です。一方で、IRONが0.5ドルならば買いをいれて、償還(redeem)すれば、1ドル分のUSDC&TITANが得られて、これもまた0.5ドルの利益です。
このときは、正常にアビトラの作用が働き、ペッグが維持されました。これで、このシステムを信じる人達が出てくることになります。
これにより、TITANの買いが発生して価格は持ち直したと考えられます。(もちろん、何も考えずに『安いから買っとけ』と言う人たちもいます)
6月17日午前0時前後。
(1)クジラが、また売りをはじめました。売りの詳細はわかりませんが、前日と同じと考えられます。これにより、IRONはペッグから外れて、TITANは下げはじめました。
(2)今度は多くのユーザーがパニックに陥り、IRONを償還(Redeem)してUSDCとTITANに分解しはじめます。
(3)また、償還したTITANを売り始めたために、さらにTITANが暴落しました。
(4)TITANの償還価値よりも、全体のTITAN価格が小さくなったため、TITANの大量供給が発生して売り圧力となりました(運営の予定ではTITANの供給量は10億枚の予定でしたが、27兆8,050億枚まで供給された)
⇒(4)が間違っていると複数の方からご指摘を受けました。ほしのくまさんがコメントでわかりやすく解説してくれたので、そちらをご参照ください。誤解を招き申し訳ありませんでした。(2021年6月22日追記)
あとの顛末は、この記事の最初に書いたとおりです。
公式の発表↓
暴落の原因は、IRONがペッグから外れたときに、アビトラによる価格の戻る圧力が働くはずでしたが、システムを信じられる人が少なくなり、機能しませんでした。また、元々大量供給されていたTITANの売り圧力で下落が進み、さらにIRONの償還(Redeem)が発生するとTITANの量は増えるため、ますますTITANの売り圧力にもなります。
TITANを軸に運用していた人は痛手となりましたが、もっとも悲劇的なのは、TITANの発行数が10億枚ということを信じて、ナンピン買いをした人たちです。
ステーブルコイン同士(IRON/USDC)のプール提供者は、比較的被害は少ないと考えられます。
ここまでの流れの記録を残してくれている貴重なnoteです↓
IRON Financeとは何だったのか?
それでは、いよいよ核心に迫ります。
IRON Financeとは何だったのでしょうか?
僕が思うに、1つは中央銀行のようなこと(マネゴト)をしたかったと推測します。これはほぼ間違いないと考えます。
IRONを発行する際に集められたUSDCは無担保です。もちろんTITANの発行も無担保で出来ます。
一方、集まったUSDCを運用すれば利益が得られます。この運用益は、まさに中央銀行におけるシニョレッジの定義にほかならないです。
例えば、日銀はお札を発行しますが、国債を買うことでお金を流通させるわけです。お金を刷って発行することは無担保ですが、手に入る同額の国債には利子がつきます。この利益がシニョレッジです↓
つまり、IRON Financeは中央銀行のやっていることを真似ています。
そして、もう1つの目的は、TITANを混ぜるとはじめて聞いたとき、僕の頭におぼろげながらに浮かんできたんです。
『改鋳』と言う二文字が。
改鋳は、金貨などの金の量を減らす行為です。古代ローマ帝国から行われており、ネロがアウレウス金貨やデナリウス銀貨で改鋳したのが有名です。(硬貨に含まれる金や銀の割合を下げたということです)
IRONにおいては『USDC=金(ゴールド)』『TITAN=その他の金属』と見立ててみてください。IRON Financeは、TITANを混ぜ合わせることで、ステーブルコインからUSDC(ゴールド)の純度を下げていこうとしたのです。
中央銀行のシニョレッジの定義の観点からすると、USDCの量は多い方がいいはずです。だって、利子は増えますから。
では、純度を下げていく意味は何でしょうか?
それは、出回るIRONの価値(1ドル)と実際の価値(USDCの担保量)の差、つまり、純度を誤魔化した分をまるまるIRON Financeの儲けにすることができるからです。
つまり『純度を誤魔化した分≒TITANの価値は相対的に上がる』とみなせるわけです。
そうなると、TITANを自由に発行できて、大量に保有しているIRON Financeが1番得に決まっています。
(実はこの利益もまたシニョレッジと呼ばれていますが、紛らわしので理解しなくて大丈夫です。とにかく『純度を誤魔化した部分』は『TITANが見かけ上、価値があるように見える』という点がポイントです。)
おそらく、第一の目標は純度を75%にしたいと思ったはずです。なぜなら、この割合はテザー(USDT)の流動性とほぼ同じだからです↓
テザーが純度75%で市場に認められるなら、IRONも純度75%までは認めてくれるはず、そう思ったでしょう。
TITANはステーキングすることで、USDCの運用益の一部を得られるのがインセンティブでしたが、テザーにおけるビットコインなどの担保のようにTITANを育てようとしたと推測します。(そして、途中まではこの思惑は成功していました)
TCRというのはある意味で『時間の流れ』のように考えることができます。
TCR100%はゴールド(USDC)が100%。言い換えれば、金本位制が行われていた時代です。
そして、どんどん時間の流れを早めていくと(TCRを下げていきTCR0%となると)、それはゴールド(USDC)が0%になったと言うことです。
これは何を意味するでしょうか?
そう。
金本位制の崩壊。
1971年ニクソン・ショックと同じです。
つまり、法定通貨になりました。
担保は、何もない。
あるのは、国の信用のみ。
結論。
IRON FinanceはIRONを改鋳していき、最終的には法定通貨を目指そうとしていたのかもしれません。
そうすることで、価値がほとんどないTITANに価値が生まれる。そして、それに必要な担保は、IRON Financeへの信用だけということです。
まとめ
IRON Financのやろうとしていたことは『中央銀行のマネゴト。そして、最終目標は法定通貨の発行のマネゴト』であると考えます。
これはインフルエンサーが言うように『壮大な社会実験』『歴史的なイベント』『資本主義の転換点』と呼べるものだったのでしょうか?
やってることは、通貨バスケット、シニョレッジ、銀行、法定通貨…すべてDeFi以前のシステムのマネゴトです。
何も目新しいものではありません。
それが結論です。
そして、今回のIRONやTITANの騒動は、魔界特有の話で、対岸の火事なのでしょうか?
例えば、テザーですが担保は75%しかありませんでしたよね。
本質的に、IRONと何が変わるのでしょうか?
この財務状況にも関わらず、テザーは未だにステーブルコインの大半の取引を占めています。
これは、通貨の慣性の法則(イナーシャ)と呼ばれている現象です。平たく言うと、一度使われたら、そのまま使われ続けるという現象です。
もしも、テザー以外のステーブルコインが主流となり、テザーが使われなくなりはじめたとします。するとイナーシャは働かなくなり、そうなった物体は急降下するのみです。
しかも、テザー社の規約には『テザー社は、テザーの発行と現金への引き換えを拒否する権限を常に保有する』とされています。
もしも、テザーで取り付け騒ぎが起きたときには、払い戻しする権利がないということです。そのときには、今回のIRONの比ではない騒ぎになるでしょう。
また、TITANの下落も特有の現象でしょうか?
ビットコインや他の仮想通貨でも同じことが起こらないとは言えないです。
ビットコインの本当の価値は、ライトコインの4倍の約8万円がせいぜいでしょう(ビットコインとほぼ同じ機能のビットコインキャッシュはこれくらいの値段)。あとの約400万円は仮想通貨のオリジナルであるというブランド料のようなものです。
ビットコインや他の仮想通貨もTITANと一緒で、担保もなければ、実際にはなんの価値もないものなのです。
では、円は大丈夫でしょうか?
円は、何も裏付けがありません。
IRONで言えばTCR0%の状態。
あるのは、日本国への信頼のみです。
円は大丈夫でしょうか?
TITANはこわい、スキャムなどと言われていますが、そもそも我々が信じている世界も、本当はTITANのように、脆いモノで構成されているのだと、あらためて考えさせられる騒動でもありました。
長かったですが、記事を読んでくれてありがとうございました🐻✨
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参考文献
・アフタービットコイン2