ネコの出産

 子どもの頃、飼っていたネコが、コタツの中で子どもを産んだことがある。
 生まれたての子ネコは、膜のようなものに包まれていた。母ネコがなめると、子ネコが膜から出てくる。膜から出てきたばかりの子ネコは、濡れた毛がへばりついていて、お世辞にも「かわいい」とはいえなかった。
 母ネコが、子ネコを舌でなめると、子ネコの濡れた毛が毛が乾いていく。普通、なめると湿るはずなのに、なめると乾くのがとても不思議だった。
 生まれたばかりの子ネコは、目も開いていない。よく、「人間の生まれたての赤ちゃんは無力だ」というけれど、人間なら、生まれたばかりでも、目は開いているし、オムツを当てられるにしろ、自分で出すことはできる。子ネコは、親ネコがお尻をなめてやらないと、糞づまりで死んでしまう。人間よりも、ずっと未熟で無力なのだ。

 親ネコは、本当に子ネコを「猫かわいがり」する。子ネコの糞尿もなめとってやる。「汚い」などとも言わないで。
 そして、ちょっとでも危険を感じると、子ネコの首をくわえて、どこか別のところへ運んでいく。大体、1回に4~5匹は産むので、4~5往復はする。それでも、「大変だ」などと文句は言わない。
 子ネコが少し大きくなると、しっぽを振ってじゃれさせたりもする。
 ネズミやバッタなどをつかまえてきて、半殺しにして、ちょっと逃がしてはまた捕まえたりして、子ネコに狩りのしかたを教えていた。そのときも、見せるだけだ。

 少し大きくなった子ネコは食欲旺盛で、母ネコの乳首を小さな前足で押して、お乳の出をよくするように刺激する。爪も生え始めていて、しかもまだ爪を引っ込めることはできないので、痛そうだが、母ネコは気にしていないようだった。
 かと思うと、母ネコは、授乳中でも、やにわに立ち上がり、子ネコをふり離してどこかに出かけていくこともある。

 ネコの親は、かいがいしく子どもの世話をするけれど、「こんなに大変な目をして育ててやった」といって子ネコに恩を着せることもないし、ましてや子ネコに対して「老後の世話をしてね」などと言うこともない。
 そして、半年か、遅くとも1年後には、次の子を育てることに目がいき、先に生まれて大きくなった子には関心をもたないようだ。

 私は、自分の親から「育てるのが大変だった」といって恩を着せられていたので、ネコがうらやましかった。

 ツバメだって、子育て中は、1日に何十回(?)も往復して雛に餌を運ぶのに、雛に対して「こんなに苦労して育ててやった」などとは言わないだろう。
 親が子どもに対して恩を着せるのは、人間ぐらいのものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?