「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―22.暴かれた優越
❅22.暴かれた優越
いまだソファーで寝息一つたてずに眠るサマエルはやっぱり険しい顔をしていて心配になる。
「どうか僕のせいでサマエルを苦しめないで神様。」
そう願いながらするりと乱雑に投げ出されているその腕をとった。
きめ細やかな肌に似つかわしくなく所有を主張するようにいくつもの噛み跡がくっきりと残るそれは紛れもなく僕のしるしだ。
それをみるだけで安堵する僕はたぶん途轍もなく…。
ーーーー「XXXX」
するするとそこを慈愛をこめて幾度となく撫でていればほんの少しの呻きが聞こえた。
その音の方をみれば愛しくてほしくてしかたない夜色の瞳がけだるげに僕をみていた。
不意にグイッと腕を撫でていた手をひかれてその長腕の中に囚われた。
「おまえばっかり、ずるい。俺にもよこせ。」
そう耳元で囁かれてまさぐるように首筋に這わされる熱。
猫が戯れるみたいにサマエルが動くたび掠め撫でる髪が擽ったい。
どこかふわふわとして。
気がどこかへいきそうだった。
ブツリと肉を裂く音と鋭い痛み、追って広がる甘ったるい香り。
「ちょ!?サマエル!!なにしてっ離して!」
いますぐにでもやめさせなければいけない。
サマエルが飲み込む前に。
そう藻掻くのに抱え込まれた腕はびくともしない。
動けない代わりに流れ込むのは啜る音。
そして飲み込んだ音が妙に耳に付いた。
「サマエル!!!」
叫んだ拍子に一瞬だけ緩んだのを察してどんっとチカラいっぱいサマエルの胸を押した。
首筋に手を当てれば生暖かいものが伝っていった。
「なにすんだ。」
としかめられた超絶不機嫌な顔で突き飛ばされたソファーからだるそうに起き上がって溜息をつくサマエル。
「サマエル。」
「なんだ。」
ゆったりとした動きで僕をみたサマエル。
サマエルの唇は青紫がかった紅で濡れその瞳は深く底光りをしていて吸い込まれそうなほどだ。
だけど、そんなことしてる場合じゃない。
この血は呪いだ。
そんなもの飲んだらどうなるかわかったものじゃない。
紅に濡れた手も厭わずそのままサマエルの襟元をぐいっと掴んでサマエルを揺さぶる。
「吐いて!僕の血!いますぐ!」
キャンキャンと吠えるように捲くし立てる僕に
「うるさい。」
なおもけだるげにそうあしらってくる。
めんどいとでもいうように後頭部を掻きながらツイっと逸らされた視線。
「その血は!!」
「紫月の血だな。」
だからどうしたと悠々と言ってのけるサマエルにいっそ怒りさえ湧いてくる。
僕は守るはずなのに。
僕が殺すのか?
サマエルが一緒に逃げようと言ったんじゃないか。
先にサマエルは死ぬつもりなのか。僕を置いて。
ポカポカとサマエルの胸元を叩きながら「吐け!いますぐ!」と嗚咽の混じった声で叫んだ。
「おい、ミハイル。」不機嫌をにじませた声。
息を呑む間に出来た隙に僕の腕はグイッとサマエルの片手ひとまとめに囚われて
気付けばあげていた声は柔らかなそれに押し付けられ阻まれて飲み込まれた。
それでもなお、声をあげて咎めようと開けば熱い流動に押し入られて甘ったるい紅の味がする。
逃げれば逃げるだけ追われて必要にからめとられていく。
逃げ場など最初から与えていないというように。
何度も何度も。
いつの間にか通された髪の合間から感じる指先が熱い。
思考が霞みがかってきたころあいにサマエルはさらっと髪を梳きながら離れていった。
「うるさい。」さっきと同じ声色で落とされた言葉。
相変わらず不機嫌そうな表情。
「なんともないの。」
「ああ。」
「痛いとことか、つらいとことか…」
なおも心配を口にしなきゃ落ち着かない。
逡巡した思考を止められない。
そんな不安をサマエルはきっと見抜いていた。
「もう一回塞がれたいのか?」
「いや…」
「いやなのか。」
「いや…」
「どっちだよ。」
「どっちって…っ。」
ーーーーー≪真っ直ぐ射抜かれた深色に。
いつだって強引で。
絡み取られていくそれに結局逆らえはしなかった。≫
はぐらかされたそれは煮詰めた蜂蜜色に塗れて蕩けて消えた。
ただお互いの胸元を染めた紅だけが憶えていた。
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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