「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―26.薄暗闇の天使
❅26.薄暗闇の天使
あの真っ白いヴァンパイア更生育成施設から飛び出して森を駆け抜けだした俺達は。
ミハイルと2人、夜の森を駆け抜ける。
闇に紛れるようにして。
潜んだ生命たちさえ気づかぬようにかいくぐる。
湿度を含んだ空気がつゆに滲んだ緑の香りを運ぶ。
踏みしめるたびに張り巡らされた根を感じる。
たかぶる鼓動を抑えられなくなりそうだ。
緊張とスリルが俺たちを満たして。
走って。
走って。
走って。
ふと見上げれば木の葉の暗がりの隙間に新しい月がまた生まれて悠々と育ち始めていた。
いつの間にか俺もミハイルも笑っていた。
楽しくて仕方ない。
ミハイルはこれをなんと形容するだろう。
横目に見るミハイルに
「これを乗り切れば俺たちは自由だ。」と言ってやる。
そうすればミハイルはみたこともない笑顔で。
「ははっ、僕とサマエルずっと一緒だなんて夢みたい。」
なんて笑った。
薄暗い暗闇のなかでミハイルだけが輝いて見えた。
形容するなら…ああ。てんし。
天使だ。
俺達魔物を形容するってのになんて反逆的な表現だろう。
それでも。
この隣を駆ける天使をこれ以外にあてはめるほど俺は言葉を持ち合わせていなかった。
あれだけ暇つぶしに本を読み漁っていたんだが。
ああ。これは面白いかもしれない。
悪戯心でそれを音に乗せてみる。
「おまえ…本当に天使なんじゃないか。」
らしくもなく片眉が上がって自分の発した声が随分楽し気に聞こえた。
「な?俺の天使。」
零した声に嬉しそうに満足げに鼻を鳴らしたミハイルとじゃれるようにして走った。
進めど進めど変わらない景色。
それでもこの瞬間が永遠に続けばいい。
そうどこかで願った。
身体が軽い。
いまならなんだって出来る、そんな気がしていた。
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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