「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―15.相手違いのclosing
❅15.相手違いのclosing
白の壁を辿りながら数度の角を曲がる。
潔白だとか言われるしろでもこれだけ囲まれてれば気怠さがこの上ない。
ドンっと肩に衝撃を受けて視線あげればリーリエが弾かれて倒れていくのがスローモーションのように映った。
「おいっ!」
パリンと鋭利な甲高い音に驚いて
リーリエの腕を咄嗟に掴んで引き寄せれば。
これでもかとリーリエの抱えていた書類に衝撃を受けた。
つか、地味に痛い。
てか、パリン?嘘だろ。
慌ててポケットを指先で探ればそれは何の異変もなくそこにあった。
なら、割れたのはなんだ?
視線を向ければアンプル瓶のような残骸とガラス片が散らばり僅かな液体がぶちまけられている。
俺じゃないならリーリエがもっていたことになる。
どうゆうことだ。
睨んでやれば
「あぁ、ごめんなさいサム。」
とリーリエは飄々と返してくる。
パッと離れたリーリエの袖の留め具が外れてい袖がずれ落ちていた。
その隙間から覗くリーリエの腕は不自然に赤黒く染みが広がっていて、
このアンプル薬が誰のためのものなのか嫌でも理解した。
「リーリエ、それ。」
口をひらけばリーリエはゆっくりと視線を下げた。
「っ。何も聞かないで。」
息を呑んで心底平常を繕わせた静かすぎる平坦な声は途轍もなく重みを滲ませていて到底大丈夫だとは思えない。
諦めて割れたそれに手を伸ばす。
「さわるな!」
「いや、それ、」
「きかないで。」
もう一度告げられたものはもっと重みを増していた。
お互い声を張り上げない代わりに重さと薄暗さを孕んだやりとりは酸素を薄くしたように喉が張り付く。
「じゃぁ、このアンプルはなんだ。」
「だまって。」
「いや、そういうわけには…」
「じゃぁ、私も聞くけど、最近エシュアの部屋に何をしにいってるの?」
「べつに、あいつと話しただけだ。」
「エシュアがいない部屋で?誰と?」
「っち。」
まさか気付かれていたとは思わなかった。
このぶんなら俺が何をしていたのかも気付いてるんだろう。
なら、なぜいままで咎めなかった。
意図が読めない。
まさか、エシュアに気付かれたのか?
「バカエシュアは知らないですよ。」
睨み合いはリーリエの一言であっけなく終わりを告げた。
きっとどっちにも勝ち目はない平行線だ。
それなら手を引くしかない
「わかったよ。」
「それならいいんです。このことは秘密。」
リーリエは書類を傍らに置くと器用に液体を布に吸い込ませそれにくるむようにしてさっとアンプル瓶を拾い上げてしまった。
外れた袖の金具を戻して書類を持ち上げた。
「これでおしまい。私とサムはここですれ違った。それだけです。」
「お互いにな。通りすがっただけだ。」
「サム、愛しのあの子には言わないんですか?」
「リーリエこそエシュアに言わないのか?」
「私のことはいいんだよ。」
「俺のことより、自分のこと気にした方がいいんじゃないか。」
互いの腹を探り合うようにジッと睨めつけ合った。
辺り一帯だけ空気が幾分か重量を増してジトっと肌を添う不快感。
だが、譲るわけにはいかない。
1歩も明け渡すわけにはいかない。
これ以上悟らせるな。
不可侵を超えてしまえばリーリエも遠慮なく俺を暴くだろう。
どこまで知った。
フェアじゃない。
それでもそれはほおっておいていい問題じゃないだろ。
相手がリーリエだからこそ踏み込むとも踏み込まないともつかない牽制と迷いだけが支配していた。
「はぁ、もういいです。」
飽きたとでも諦めたとでも呆れたとでもとれる温度でリーリエは一つ溜息を落として去って行った。
その腕を引っ張ってでもひきとめ暴きたかった。
フェアじゃなかろうがそれでも。
伸ばした手は届くことなく空を散った。
俺は…
『また後悔するんだろ。』
行き場のないそれを握りしめるようにチカラがはいった。
さだめのないその先は俺もリーリエも同じだ。
はぁと一つ溜息を吐き出してポケットを探って指先に触れた紙の端を適当につまんでメモ書きを取り出す。
乱雑にポケットに突っ込んだそれはクシャクシャと皺を刻んでいた。
もう片方のポケットから摘まみだすせばきらとガラスが光った小さなアンプル剤。
「Clonazepam」
そのどちらにも掘り綴られた薬品の名前をなぞってもう一度ポケットに突っ込んだ。
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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