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「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア  Lunatic aime moi -紅紫藍―13.Luna s-a părăsit umbră

❅13.Luna s-a părăsit umbră


月が欠けて闇が光を食いつぶそうとしている。
最後の命を楽しむように揺ら揺らと光が揺れる。

ミハイルの心の柔い部分に無遠慮に土足で上がり込んでしまったあの日誓った言葉はあれ以来なんの音さたもなく平穏な日々に覆い隠されていた。

ミハイルはあれからも一度も俺を頼ろうとはしない。
だた、隣に並ぶことだけで何もできない自分が何もしてやれないもどかしさにじりじりと焦れるように身を焼くのをミハイルの傍でどうか見透かしてくれるなと祈りながら過ごすことしかできないのが酷くイラだたしい。
こう…。何かに吠えてぶちまけてしまいたい。
そんな衝動を撫でつけるのは…。
いや、こんな衝動を抱いているなどミハイルに顔向けできるわけがない。

『俺は一体何をしてるんだ…。』

開け放った出窓に身を乗り出して座っている真っ黒な俺を月が恭しく鈍く照らす。
その鈍い光が朧気であろうと俺の見せるべきではない闇まで暴いていくようで酷く心地が悪い。

『見せたくない…
 いや、見たくない…のか。』
見せたくなくて…見たくない。
―――なんて自分勝手な。
自分ですらそんな己の醜さに勝手さに嫌気がさす。

『俺を照らしてくれるな。闇の濃い俺には光など必要ない。』

それでもあの月はまた蘇る。

いっそ。
――「いっそ。あの月をいますぐぶっ壊してやりたい。」
二度と蘇ったりしない様に。
闇を暴力的に暴き強制的に翳を容赦なくつるし上げる光なんてなくなってしまえばいい。
ミハイルをあだなすものなんていらない。

『Luna s-a părăsit umbră』

それは。
それは光なのではないか?
ミハイルを苛むものがもしも光であるのなら容赦なく潰して闇へ隠してしまえばいいのではないか。
そのときミハイルは俺の元まで堕ちてくれるのだろうか。

『いや、あいつには…闇は似合わないか。』

ふはっと自嘲がこみあげて。
それでも同じにはなれない空虚がじっとりと寄り添う。
胸の奥が燃えるように燈るなにかを自らの手で摘み取り捻り潰していく。
まるで冷水をかけ続けるような虚しさがうつろに蔓延る。
途方もない虚無。
どうしたらいいのか考える事すら億劫で。
持て余している欲望に心底嫌気がさして身動きすらまともにとれやしない。
「希望という名の皮を剥いで醜い欲望を晒して。
絶望に摺り寄って。
どうしようもなく安堵する。」

溺れたやつの末路か。

居所のなさにふと視線を下げれば自分の身に纏うものが目に入った。

闇の中ではどんな色であれ濁ってトーンをおとす。

上も下も
『っは。黒だな。』

自嘲的な呟きは今宵も宵闇に溶けて消える。
ふいにどこからか痛みを感じて顔を歪めて耐える。
噛み千切ってしまったのか口内に淡い鉄の味がした。
僅かに縮こまった身体が軋む。

胸元を握りしめて筋張った手指から色が抜けていくのがぼんやりと見える。
はっと息をつめて押し殺せば
疼き始めた牙歯にそわそわとする焦燥が煩わしい。

チッと舌打ちを一つ零してポケットから錠剤を取り出す。
その白い魔物を摘まんで月にかざす。
この美味しくもない錠剤に縛られる俺は。
――滑稽。

『っつ!!』
ひと際大きな痛みの波に呻いた隙に指の隙間を零れ落ちていくそれは。
すらと空くうを切って遥か下へとおちていった。

最後にと月が俺を燃え尽きて嘲笑ように一層照らす。
意識は消えゆく月を最後に闇に溶けていった。

そよそよとサマエルを撫でつける寂し気な風が闇に漆黒に染められた紺髪を攫った。



※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
https://lit.link/kairiluca7bulemoonsea

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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