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「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア  Lunatic aime moi -紅紫藍―39.裏が表で表が裏で、裏が表とは限らない。その役割は誰が成す?

❅39.裏が表で表が裏で、裏が表とは限らない。その役割は誰が成す?

15歳までに1度訪れたことがあるものだけがたどり着けるというまるでオカルトめいた都市伝説のような駅。『龍浬駅りゅうりえき』
誰もが迷信だと口をそろえて言う場所。
そこでサマエルとなのるヴァンパイアと出会って倒れて血の所有者であるミハイルという者の追憶をしてからというものの僕に目覚めたのはサマエルの親友でも紫月の姫でもなく。



―――――もう一人の僕だった。

―――消された僕と創られた僕







あれから数週間がたっていた。
ゆったりと瞳をあけてまっすぐ見据えれば鏡はそれを映す。
夕焼けを切り取ったかような紅い瞳がジッとこちらを見つめる。
人間でいたころよりか幾分か日暮れに近づいた燃えるように濃く印象づく紅。
数日かけて変化した髪をひとふさ指先で摘まみ上げれば
ヴェルミヨン(Vermillon)彩の艶やかな髪が緩く波打ち光沢を携えている。
「おまえ、ヴァンパイアだったんだな。」
サマエルがあの夢で辿ったサマエルの親友に似つかない変化した僕の容姿をみて静かに言った。
その声はどこか落胆したように響いた。
「そうだったらしいね。」
紫月の姫である血を注がれた僕の体は紫月の姫を宿すはずだった。
紫月の血を通して辿った記憶は追憶のように僕を過去へと連れていった。
だけど。


――――――引き摺りだされた過去はそれだけではなかった。





静まり返ったお互いの間にチェスを置いたまま進めた駒に瞳を落としていた。
僕から全く感情の読めないサマエル。
けれど、それはサマエルも同じようだった。
僕という人格存在すらも曖昧でよみがえった記憶に少なからずとも僕は元の僕でも過去の僕でもなくなったんだから。
「これ。」
サマエルに差し出されたのは紅彩に輝く宝石。
それを受取ろうと手を伸ばした。
「ミハイルにあったことがあるのか。」
軽く触れたその手は酷く冷え切った温度をしていた。
その触れた指先から寂しさが伝わってくる。
視線を上げてサマエルをみてもサマエルはただ暗い夜空を向けるだけだった。
重苦しいような空気を吸って「ないね。」とこたえる。
次いで
「これは母さんに貰ったもの。母さんが創った、僕の唯一の母さんのかたみ。」
と詳細に言った。
サマエルは口をひらくことはなかった。
それでも、サマエル瞳が乞うようにみつめてくる。
僕の蘇った記憶を話してなんになる?
どれも紫月の姫を。
サマエルの願いは僕に叶えるすべは持ち合わせてない。
一度にこの身に有り余る事実だけが今この場に何日も横たわっていた。
「それは…。…。」
どう紡いだらいいのかわからない続かない沈黙にサマエルもまた言いかけては言葉を探しているようだった。
ひとつ駒を進めるようにこつっと盤面が鳴る。
僕はこたえを探すべきなんだろう。
「そう、サマエルの推察であっているね。僕の産みの母さんは光源の姫。」
だったら。賭けてみるわけだ。
「こうげんのひめ…。」
「うん。紅月の姫。僕も魔界で生まれ育ったみたい。いや、生まれ育った。なんていうか。いままで人間だと思ってたから。僕だけど、僕じゃないみたいな。でも、確かにあの記憶は僕のものだってわかるような。変な感じだね。」
「…。」
「その石は。」

暁の母親はその身の内に受け継がれた紅月の能力を使っていた。
生きているうちはその力を使い続け、もし自分達に死が訪れた時のために血液を宝石にして能力を閉じ込め人間としての紅月少年を守り続けるために少年に肌身離さず身につけること、と言って聞かせた。
だから、サマエルは駅で出会った時人間だと認識した。

「全部、全部。思い出したんだ。僕はもとから人間じゃない。」
「生まれも育ちも紅月の姫だった。」
そう静かに言えばサマエルは真剣に聞こうとするようにぐっと背を伸ばしその夜の瞳で促すように見つめてきた。
それに応えるようにゆっくりと言葉を選んで紡いでいく。
その歩みの遅さにもサマエルはただしっかりと僕を見据えて待っていた。
「憶えてるよ。おもいだした。
ルナティック、紅月と言われ村を追い出されたこと。
しばらくしてルナティックは収まったはずだった。
なのに、ある朝早起きした僕が見送った仕事に行く父さんは二度と返ってこなかった。
母さんはねぇちゃんと僕に隠してたけど、聞いてしまったんだ。
父さんが魔女狩りにあって火あぶりにされたこと。
その夜母さんとねぇちゃんと僕は家を捨てて逃げた。
真っ暗な森の中を走って。
後ろからは昔お菓子をくれたばあちゃんや野菜をくれたじいちゃん、勉強を教えてくれたにいちゃん達が鬼みたいな顔で追っかけてきた。
掴まったら殺されるそう思った。
怖くて一歩踏み出した足が滑って、僕は落ちたんだ。
そこは湖で溺れる僕は必死に助けようと手を伸ばす母さんの手を掴んだ。
母さんは耐えきれずに湖に落ちた。
その時、唐突に水流が起きて母さんともみくちゃにされながら海底へと引きずり込まれた。
見たんだ。引きずり込まれるさなか水の中に駅があること。
母さんはその駅で言ったよ。
ティアマトだって。
母さんが昔よく話してくれた。
むかーしむかし、そのまた昔のずっと先。
人間界と魔界は駅のカタチをした紋で繋がってて仲良しだったって。
それなのに宝石と血の器で争いが起きてその紋は鎮められた。
まるでお互いを忌み嫌って鬼退治みたいに。
それが龍浬駅でティアマト駅で魔族にとっての人間で、人間にとっての魔族なんだ。」

触れたままの冷たい手から紅い導きの石を受け取って眺める。
それはつるりとした表面が深紅に煌めいていた。
「これは母さんが母さんの血で生成した紅月の導きの石。」
「僕の母さんは、記憶を司る紅月の姫の能力を使って僕の記憶と引き換えに僕の紅月の姫の能力を封印した。母さんの命を代償にして僕は人間になったんだ。」
「それが何らかの因果で封印が弱まっていたんだと思う。」
「記憶はなくても憶えていたんだ、あの駅を。」
「そこでサマエル、アンタとであった、そしてサマエルと出会ったことで運命が動いてしまったんだと思う。」
掌でころころと転がる石を眺める。
「トリガーはサマエルが僕にいれた血液。あれ、紫月の姫のでしょ。僕は紅月の姫、記憶を司るもの。見てきた、この数日。アンタとの思い出も紫月の姫の過去も。」
ひとつ、ひとつ。情報を渡していく。また一つ、盤面に駒を置いていくように。
「紫月の姫の力は強い。それでその夢を見ている間、溶けかかった僕の封印は紫月の姫の血の能力によって完全に消されてしまった。」
そして、その駒たちはいとも簡単にひっくり返された。
「それと、紫月の血に不思議な記憶があった。どうやら、ルナティックは七回以上起きているらしい。だとすれば、その分だけ僕や紫月の姫のようにルナティックによる変異体がいてもおかしくない。」
僕の言葉を聞いてサマエルは思い出したように、ひゅと息を呑んで「ああ。…聞いたことがある。“月に魅せられし魔物、光源の姫君”。」とこたえた。
続けてサマエルは訝し気に眉根を寄せた。
「紫月の姫の名は魔界に居れば誰でも知っている。仮に能力を持つ7人の月の姫がいるなら何故紫月の姫だけが伝説として語られている。俺が聞いたのはミハイルの血統と生い立ちだけだ。」
そのサマエルの問いに「確かに。」疑問に思った。
暁は少し考えたあとおもむろに呟く。
「古文書…。都市伝説にしか過ぎないが魔界と人間界が繋がっていたころ、人間と魔族でその紋を司って維持していた組織があるらしい。その歴史が何処かにあるんだと思う。」

「現存していた魔界と人間界を繋ぐ龍浬駅、祭り上げられた紫月の姫、生き物を狂わすルナティック、僕たち光源の姫君、隠された古文書。」
「そして、もう一つ。紫月の姫のまつえ、ミハイルは男。紅月の姫である僕も男だ。どうして今まで必ず女が生れ落ちたのに男だったのか。一人だけでなく二人も。もし、残りの光源の姫が存在するとしてその姫たちは男なのか。」
「これは僕の紅月の姫にまつわる噂話なんだけど、紅月の姫と蒼月の姫は“血の契約”上にある。らしい。どういう意味かは解らない。そもそも僕は蒼月の姫に出会ってないし、蒼月の姫がいるとも聞いたことがない。」
「とにかくわからないことが多い今、一つづつ追っていくしかないと思う。」
少しずつ紡いだ見てきた限りの記憶と推察をサマエルに渡した。
それをきき届けたサマエルはゆったりとした動きでひとつまばたきを落として
もう一度僕と瞳をかわして
「わかった。俺もそれするから。俺はミハイルと約束がある。」と言った。
それはせつなげな彩をしていた。

盤面上のポーンもナイトもビショップもルークもクイーンもキングも纏めて握りしめて
「僕も独りじゃ出来ないと思う。」そう言いながらゆっくりと掌を開いてみせた。
盤面上へと駒が次々に落下して。
白と黒。相反する二つがまじりあって散っていく。
その様をどこか遠い瞳で眺めてからゆったりとした仕草でサマエルを見据えて。
「だから、よろしく」と手を差し出した。
そういってただ触れただけだった手を僕らは初めて繋いだ。
刹那。
触れた瞬間どこか反発するように一瞬掠めた刺激に不思議に思っていればサマエルは不機嫌そうに眉をしかめていた。
だけど、その表情とは裏腹にその手はさっきおもっていたよりもずっと温かかった。






そして、そう。僕は探したいんだ。
―――――――会いたい、ねぇちゃん。

※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
https://lit.link/kairiluca7bulemoonsea

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

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