「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―21.Crystals of Testimony 証の結晶
❅21.Crystals of Testimony 証の結晶
サマエルの逃走計画を受け入れてから数か月が過ぎていた。
ーー「例え何が起きても、僕が守ればいい。」
ーーー「サマエルは、僕を守るといった。なら、僕がサマエルを守る。」
ーー「僕は絶対にサマエルを死なせない。」
ーーーー「僕はサマエルを見失わない。そうでしょう?神様」
僕はサマエルと倉庫に来ていた。
随分と使われてないここは今逃走準備をするための作業をするのにもってこいの場所だった。
ヴァンパイア更生育成施設に長年いるサマエルはここのことを隅々まで知っていた。
この倉庫に案内されて数日。
どこからか持ち込んだのかアンティークに拍車のかかった黒の革張りのソファーに年季のいった白を基調としたラグ、遮光を備えたモノクロのカーテン、淡い上物のインダストリアルランプ。
アンティークまみれだとしてもそれがまた味を出してまるでこの一角だけ洋館のよう。
こうして最初は埃まみれだった倉庫もいまでは快適になった。
おもにサマエルのおかげで。
レースカーテンの隙間から陽が差し込んで目の前のガラス器具たちが屈折させプリズムを至る所に届けている。
ソファーで寝ころんでいるサマエル。
傍まで行っても起きる気配もない。
最近ずっと。
こころなしか顔色だって悪い気がする。
僕にだって心配させて欲しい。
だけど、ごめん。
僕が紫月に傾けば傾くだけサマエルを縛る。
サマエルの寝ころぶソファーの傍に跪いて眠るサマエルをじっと見つめた。
それはいつみてもやっぱり彫刻のように美しい。
ただ闇でこそ輝きを増す圧倒的なオーラ。
ひかりにはあれないとでもいうように。
そこから瞳を逸らすように伏せゆっくりと手を伸ばした。
白く美しいその腕を手触りの良い袖をはぎ取って露にする。
ついっとそれを持ち上げてひとつ口づけを落とす。
この愛しさがいっそ伝わってしまえばいいと願いながら。
そこに刻むようにして突き立てわずかばかりのサマエルをもらい受ける。
口に広がる甘味はサマエルのぬくもりの味がする。
しばらくそうして離すころにはちいさな跡がまたふたつ刻まれた。
まるでぼくのだってみせつけるための所有印みたいに。
あるものを作る。
それは、代々紫月の姫に伝わるというもの。
サマエルを絶対守る、そう誓った日、お母さんから聞いた話を思い出した。
「…まだあった。」
僕にサマエルのために出来る事。
サマエルがなおも起きないことを確認して今日も作業をする。
サマエルに頼んで用意してもらった器具。
その用途は必死に隠した。
バレたら怒られるだろうな。
その端正な顔をこれでもかと歪めて不機嫌をあらわにした両の夜、その姿を想像して苦笑しながらプツリとたくし上げた袖から覗く幾つもの注射痕が浮かぶ腕へまた銀色を沈めた。
「お互い増える刻まれた証。
お前と同じなら悪くないってね…。」
いつか貰ったサマエルの言葉を口にすればいつだって胸の奥が温かいんだ。
「サマエル。僕もだよ。」
眠りこけるサマエルに誘われるようにふわり浮遊感。
いっそこのまま微睡みの中に居座ってしまおうか。
なんて…。
流れ出た青紫がかる紅が伝って少しづつビーカーを満たしていった。
変に浮遊感に襲われながら繰り返し何度も。
ある程度溜まればシャリシャリとガラスを砕くような鋭利な音を響かせながらざらつく粉をひいて砕いたものと混ぜ合わせ
きめの細かい布でこして前回つくった核結晶に少しずつ足して再結晶させていく。
まるで変わりがないようにみえたそれも何度も繰り返してやっと目に見えて大きさを確認できるようになってきた。
ーーーーーーーーもう何度目のことか。
※この作品の初稿は2022年9月よりpixivにて途中まで投稿しています。
その作品を改定推敲加筆し続編連載再開としてこちらに投稿しています。
その他詳細はリットリンクにて。
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