![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/88612342/rectangle_large_type_2_c3c47953f763d820b35446ee90d0830d.png?width=1200)
阿呆神さん
ウタとチイばあちゃん 第1話
アタリマエダの事実として、自分の知らないことは選べません。
「こんなおいしいものがあるんや」とバニラクリームをはじめて頬張ってから、沢山さんの人生は間違いなくグレードアップした。何がグレードアップしたかというと、知識の質と量がです。イチゴのショートケーキはおいしいけれど、バニラはそれより少しオトナの味がする。
しかし、沢山のおばあちゃんは、いちご大福の方が好きです。バニラが超おいしいことは知ったけど、粒あんが良いんです。粒あんの懐かしい味に幸せを感じる。
さて、物語は、沢山さんの孫の沢山ウタのお話しです。
ある日、ウタとおばちゃんは近所のデパートに買い物に行きました。買い物と言ってもデパ地下で、スイーツを買いに行くだけ。大学受験に失敗したウタは、高校卒業後、実家でしばらくぼんやりと暮らしていた。
「おばあちゃん、何や甘いもの食べたいなぁ」と言うと、おばあちゃんは座敷の鏡台の前で髪の毛を梳かすと、「ほな行こか」と玄関の格子戸を開けてスタスタと歩いて行った。
ウタとおばあちゃんは、袋小路を抜けて街の大通りに出た。
「おばあちゃん、ウタなぁ、ダンサーになりたいねん」
「ダンサーぁ?カッコええなぁ。んやけど、ウタは勉強もできるし、学校はええんか?」
「うーん・・・」
そのまま話は途切れて、ふたりは不貞腐れた高校生みたいに黙って歩いて行った。
デパートのショーウインドウは、夏物のコレクションに模様替えされていた。新作の水着とアウターがディスプレイされている。
「紳悟くんは、どないしてんの?」
と、おばあちゃんがウタに話しかけると、ウタは「知らん」とソッポを向いた。
「おととしの水着は、もう古いなぁ」
ウタは、チュッパチャプスを舐めながらつぶやいた。
デパ地下は、平日の午後過ぎだというのに繁盛していた。ウタとおばあちゃんは、さしあたり避暑地を闊歩するかのようなマダムに混じって歩いた。
スイーツショップのショーケースには、色とりどりのスイーーーツが並んでいる。
アタリマエダノの事実として、自分の知らないことは選べません。
「おばあちゃん、どれにする?どれもおいしそうで、選べへんなぁ」
「おばあちゃん、やっぱり大福食べたいわぁ」
「そやなぁ」
と、ウタがデパ地下の店内をぐるっと見渡した。
と、その時、
『ど・れ・に・し・よ・う・か・な・か・み・さ・ま・の・い・う・と・う・り」
と、おばあちゃんは、ショーケースのスイーツをひとつひとつを指差した。と、言っても、おばあちゃんは、まんざら当てずっぽうに指差している訳でもない。
「う・か・な・み・さ」の三巡目あたりで、おばあちゃんは、「アホくさ」と言って、バニラのショートケーキを注文した。
「おばあちゃん、また、バニラなん?モンブランもおいしいでぇ」
「そやかて、ま・の・い・う・と・う・り。ほら、見てみい。バニラやて、天の神さん言うてるがな」
おばあちゃんは、バニラケーキを指差して、嬉しそうに笑った。
「おばあちゃん、それ神さんちゃうで」
「そぅかあ?神さんが、願い事聞いてくれはったんちゃうの?」
「ウタは、ちゃうと思うで」
「さびしいなぁ」
「けどな、モンブランで指が止まってたら、おばあちゃんどうした?」
「うーん・・・困ったなぁ」
「だいじょうぶやて。神さん、きっとアホなふりしてくれると思うねん」
「ありがたやあ」
「大ばあちゃんのお供えにモンブランも買ってこか?チイばあちゃんはバニラやな」
「そうしよ」
ウタとチイばあちゃんは、姉妹のようにルンルンしてお家に帰った。
つづく