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僕は何でもない日と、小説が好きだった

< 第4話 最終回>

「やばぁーい」

花織はそう言うと、きびすを返すようにして人混みを避けた。それから、ミオの腕にしがみついた。

ヨシオが振り向くと、背後から3人ほどのオトコが花織をとりまいた。

「カオリじゃないか!」

3人のうちのリーダ格のオトコが、花織に顔を近づけて威嚇するようにコトバを吐いた。

花織は、そのオトコと視線を合わせようとはしなかった。ミオの腕にしがみついたまま俯いていた。

「ずいぶんとシカトしてくれるよな」

オトコたちはそれなりに身なりは良いが、注目されたい欲求がどこかヤンキーっぽい。六本木の路上にそぐわない連中に思えた。

「たまには、オレらとつき会えよ」

リーダ格のオトコは威圧的で、妙に馴れなれしく花織に話しかける。

「いやだよ、あっち行けよ・・・」

花織が、それまでのネコっかぶりの態度からふっきれたようにオトコたちの前で胸を張った。

オトコたちの背後でことの成り行きを静観していたヨシオが、リーダ格のオトコの肩を叩いた。

「オタク誰なの?」と、ヨシオ。

オトコは振り向くと、急にヨシオの胸ぐらをつかんできた。

胸ぐらを掴まれたままヨシオは、3人のオトコに囲まれた。俺がその連中の間に割って入ろうとした瞬間、花織がリーダ格のオトコの尻にケリを入れた。

オトコはヨシオの胸ぐらをつかんだまま、身体のバランスをなくしヨシオに覆いかぶさるようにして路上に倒れ込んだ。ヨシオは、オトコに抱きつかれたまま夜空を仰いでいる。

オトコは立ち上がるとバツの悪そうな顔をして、他のオトコに指図をして黙ってその場を立ち去った。



「ごめーん」

花織は、路上に転がったままのヨシオに寄り添った。

「だいじょうぶ?」と、花織。

「だいじょうぶ」と、ヨシオは素っ気なく答える。

「行こうぜ」

ヨシオは立ち上がると、何事もなかったように歩き始めた。

オレとミオは、青天の霹靂とまでもいかないが、予想外の出来事にコトバをなくしていた。誰も口を開こうとはしない。花織もヨシオの後を、叱られた子どものようにトボトボ歩いて行った。

六本木Sビルのエレベーター前まで来た。ヨシオがお目当てのディスコホールのフロアボタンを押す。

「ハァ・・・」ヨシオが、ため息をついた。乱れた呼吸を整えたかっただけなのかもしれないが、それは失望の声にも聞こえた。

「私、帰る!」

花織は泣き声を上げて、その場を立ち去ろうとした。

「待てよ!そうじゃなくて・・・」と、ヨシオは、花織の腕を必死につかまえようとした。

「さようなら」

花織は、ヨシオの腕を振りきった。

「ごめんね」

ミオは、オレたちにペコリと頭を下げると、花織の後を追った。



「さて、今夜はどうする?お開きにするか?」

オレとヨシオは、六本木通りを渋谷まで歩くことにした。ヨシオは、ずっと口を閉ざしたままだ。オレが差し出したマールボロにも首を振った。

「短い夏だったな」

麻布でバーにでも寄るかと提案すると、ヨシオがポツリと言った。

「なんだ、もう終わっちゃうのか?理由ぐらい聞けよ」

「わかってるさ」

「急に弱気かよ?あんなに、イケイケだったじゃないか」

「あぁ・・・で、お前は?」

「結婚するかもなぁ」

「えっ?」

俺は、夜空に向かってバスケのシュートホームをしてみせた。

「リバウンド、くやしかったな」

「ハートブレイクなんて、へっちゃらさ」

                      完

追伸
みなさん、お元気ですか?
私は、9月頃からコロナでもなくインフルエンザでもないカゼにかかり、1ヶ月ほど体調不良が続きました。新種のコロナだったのか、やっと後遺症も治ったようです。
また時々、記事もアップしますのでよろしくお願いします。    11月13日

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