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地域通貨×DAOがもたらす分散した未来(後編)

地域通貨が生み出す経済循環は、単に地元のお店や活動を潤すだけでなく、やがて「DAO(分散型自律組織)」という新たな仕組みと結びつき、コミュニティ運営そのものを変革し得ます。以前、高校生だった大輝が体験した地域通貨の世界は、今、新しい段階に進んでいます。誰もが提案者であり、投資家であり、地域ガバナンスの担い手になれる――そんな未来を、ひと足先にのぞいてみましょう。


本文(フィクションストーリー)

 数年後、大輝は大学を卒業し、故郷の七葉(ななは)に戻ってきた。町はあの頃よりもずいぶん様相が変わっている。7コインは今や地域で広く浸透し、その運用方針や資金配分は「7DAO」と呼ばれる分散型自律組織で決まるようになっていた。

 かつて7コインのルールは商店街や自治体などが話し合って定めていたが、今ではスマートコントラクトとオンライン投票システムを通じて、町に関わる誰もが意思決定に参加できる。7DAOは、7コインを持つ市民が提案し、投票し、意見を交わす「デジタルの公民館」。市役所、商店主、学生、子育て中の親、移住者までもが等しくアクセス可能だ。

 「この前の提案、投票率高かったなぁ」
 夕方、大輝は町のカフェでスマホを眺めながらつぶやく。若者グループが、地域産イチゴを使ったスイーツフェスを提案したばかりだ。計画書はオンラインで公開され、費用や効果、環境への配慮まで透明化されている。ナナコイン保有者は「賛成」「反対」「保留」をクリックして意思を示し、結果は即座に反映される。賛成多数が得られた瞬間、スマートコントラクトが発動して資金が自動的に配分された。

 大輝は思い返す。大学時代、隣町の「サクラDAO」も見学し、別のコミュニティがハイキングコース整備や環境保護をDAOで進める姿に感銘を受けた。DAOは地域通貨を超えて意思決定プロセスをすべて分散化し、人々が対等な立場で地域の未来を紡ぐ仕組みだった。

 「お待たせ、大輝さん!」
 現れたのは7サポート社の若手社員・凛子。彼女は教育支援プロジェクトを7DAOに提案しており、参加者の意見を反映しながら内容を練り直している。すべてが履歴として残り、関係者全員が透明な条件下で議論できる。そのおかげで、上からの指示ではなく下から湧くアイデアが正当に評価される。

 凛子は笑顔で言う。「この仕組みなら、子どもたちの学びを支える環境づくりも、みんなで納得して動かせる。反対意見があれば修正すればいいし、成果が出ればコインと評判が戻ってくる。DAOと地域通貨が合わさると、誰もが『自分ごと』として町をデザインできるんだね。」

 大輝はコーヒーを一口。かつて父親が言っていた「行政コストを下げて地域を良くする」話も思い出す。今はそれを超え、地域経済、行政、企業、市民が混ざり合い、誰もが提案者・評価者・実行者になれる世界が広がっていた。「お金」はコミュニティ内で循環し、それをどう使うかはDAOが決める。この仕組みによって、町は一握りの人に依存せず、自律的かつ柔軟に進化している。

 「昔は、一部の人や役所だけが町のあり方を左右していた。でも今は、誰もが同じテーブルにつき、スマホ越しに町づくりを議論できる。地域通貨とDAOが、人々を“町を作るプレーヤー”に変えたんだ。」
 大輝は胸の中に誇らしさとわくわく感が込み上げるのを感じる。7コインと7DAOが紡ぐこの町は、すでに分散された未来への航路を進み始めていた。


後書き(コラム)

 本編で描かれた世界では、地域通貨とDAO(分散型自律組織)が組み合わさり、地域ガバナンスが根本的に変わっています。従来、地域課題は限られた組織や行政が主導してきましたが、DAOは参加者全員にイニシアチブを開き、透明かつ公正な意思決定を可能にします。

 地域通貨は地元で流通するお金として、地元産業やイベントを応援する手段でしたが、DAOが加わることで、その分配や活用方針までも住民や参加者全員の合意によって動く「自律的なコミュニティ経済」へと進化します。これにより、地域課題の解決や新たなビジネス、教育支援といったアイデアが、より多様な視点と納得感を得ながら形になっていきます。

 こうした仕組みは、地域通貨とDAOが「経済的つながり」だけでなく「政治的・社会的つながり」の場を提供することを示唆しています。今後、リアルな社会でも、技術発展と社会実験が進む中で、この物語に近い未来が訪れるかもしれません。

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