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「円」など全国通貨では届かなかった地域の課題を、地域通貨で解決する新しい経済モデル(前編)
デジタル通貨の時代に、「円(デジタル円)」など全国通貨と併存するのが、地域通貨ではないかと考えています。ここでは、地域通貨のメリットをフィクションとして描いてみました。全国通貨では解決しにくかった地域固有の課題を、地元で流通する「お金」によってどう補完できるのか? これをストーリーの中で体感してみてください。
本編(フィクションストーリー):地域に元気を与える地域通貨
高校2年生の大輝(だいき)は、放課後の商店街をぶらりと歩いていた。最近、彼の住む町「七葉(ななは)」に新しく導入された「7コイン」という地域限定のデジタル通貨が話題になっている。スマホ上で使えるこの7コインで支払うと、地元商店でポイントが上乗せされたり、地域イベントに参加するとボーナスがもらえたりするらしい。
「あの八百屋さん、7コインで買うと少し安くなるみたいだぞ」
一緒に歩いていた友人が囁く。興味を惹かれた大輝は、自分のスマホを取り出した。父親が少し分けてくれたお試し7コインがある。さっそく八百屋で旬のトマトを7コイン決済してみると、
「ありがとうね、若い子が使ってくれると嬉しいよ」
店主は笑顔で、次回使えるサービス券を差し出した。導入後、地元商店街は少しずつ活気を取り戻しているらしい。
帰り道、大輝はふと思い立って自宅へ急いだ。リビングでは、父親がパソコンに向かって何かを調べている。
「おかえり、大輝。7コイン、使ってみたか?」
父親は微笑む。大輝は八百屋での出来事を話した後、父親が気にしていた新しい会社について尋ねた。
「ねえ父さん、確か地域通貨で出資できる会社があるって言ってたよね?」
「『7サポート社』っていう地元のベンチャー企業だ。」父親は画面を見ながら説明する。「普通、株式会社に出資するなら国が発行するデジタル円を使うよな。でもこの会社は特別に、地域通貨の7コインでの出資を受け付けてるんだ。地元で買い物やイベント参加、ボランティア活動で貯めた7コインで、そのまま会社の株を持てる。つまり、地域の人が自分で稼いだコインを投資して町を盛り上げる仕組みなんだ。」
大輝は首をかしげる。「へえ、不思議な仕組みだね。どうしてそんなことが意味あるの?」
父親は軽くうなずく。「たとえば、市役所が直接やると人手やコストがかかる清掃や福祉活動を、住民が7コイン欲しさに自主的に行ってくれれば、行政コストを減らせる。それで浮いた予算を別の政策に回せば、町はもっと良くなるだろう? 7コインは『頑張った分だけ地域が元気になる』仕組みを実現する手助けをしてる。さらに、そのコインを企業に出資して新サービス開発につなげれば、地元産品の新商品や面白いイベントが生まれ、また地域が活性化する。」
「なるほど、ボランティアでコインを得て、それを投資すれば、その恩恵がまた地域に戻ってくるんだね。」
大輝はスマホを握りしめ、朝のトマト購入を思い返す。あの安くておいしいトマトも、こうした循環の中にあると思うと、不思議な一体感を覚える。「お金って、ただ使うだけじゃなくて、地域を良くする『投資』にもなるんだな。」彼は、お金が地域を元気づける道具になり得ることを初めて実感した。
翌週末、大輝は友人と一緒に商店街の清掃イベントに参加してみた。終わると数枚分の7コインがアプリに加算されている。「7サポート社、7コイン出資で新プロジェクト始めるらしいぜ。今度は地元産フルーツで新しいお菓子を開発するんだって」と話す人もいる。ボランティアでコインを得た人が企業に出資し、その企業はまた地域サービスを拡充する――そんな好循環を思い浮かべて、大輝の胸は弾んだ。
「もし将来、俺が起業したら、こんな仕組みで地域を盛り上げる会社を作れるかも。地域通貨を出資手段として使えば、応援したい人が自分の行動で貯めたコインで参加できるし、成功すれば恩恵が町中に広がっていく……。」
スマホの画面を見つめながら、大輝は微笑む。町の隅々にある小さな力が、地域通貨を介してつながり合う。その循環の中で、自分の一歩一歩が町に生きる――そんな未来予想が、彼の心に温かな光を灯していた。
あとがき
この物語では、地域通貨「7コイン」を通じて、地元商店や住民のボランティア活動、そして企業への出資が一つの循環として回っています。全国通貨である「円」や「デジタル円」は、国全体の金融インフラを支え、安定性と利便性を目指しますが、個別の地域課題に目が届きにくい面があります。一方、地域通貨は、地元で生まれ、地元で使われるため、そこに生きる人々の行動が直接的に地域経済を元気にできます。
ボランティア活動によって地域通貨を得ることで行政の負担は減り、その余力をほかの政策に回せます。こうして、地域固有の問題を解決しながら、地域経済が内側から活性化していく新たなモデルが、全国通貨では届かなかった課題領域を補完していくのです。経済のデジタル化が進む中、こうした地域通貨の活用で、多様な課題解決の糸口が生まれるかもしれません。