地域経済活性化の切り札ーーお金が時間とともに減る「減価通貨」って何?—デジタルで広がる新しいお金のカタチ
はじめに
私たちが普段使っているお金(円やドル)は、基本的に使わないで持っていても価値はあまり変わりません。でも、もし「持っていると少しずつ価値が減っていくお金」があったらどうなるでしょうか?それが「減価通貨(げんかつうか)」と呼ばれるものです。
いま、デジタル技術が進んで、お金をスマホやコンピューター上で管理する「デジタル通貨」が注目されています。このデジタル通貨を使えば、減価通貨のしくみをもっと便利に運用できるかもしれません。
今回は、減価通貨とは何か、そのアイデアがなぜ生まれたのか、そしてデジタル通貨との組み合わせでどんな新しい社会が作れる可能性があるのかを、分かりやすく紹介したいと思います。
通貨の3つの役割と減価通貨の考え方
私たちがお金を使う理由は大きく3つあります。
交換手段:お金を使って物やサービスを買える
価値尺度:お金を使えば、いろいろな物の価値を比べやすくなる
価値保存:お金を貯金すれば、将来も同じ力(価値)を持ったまま使える
このうち「価値保存」は、お金をため込む動きを生み出します。ところが、お金をためる人が増えると、社会全体でお金が動きにくくなり、経済(お店での売り買いや会社の投資など)が元気をなくすことがあります。
減価通貨は、この「価値保存」の働きを弱めて、お金をできるだけ早めに使ってもらう作戦です。「時間がたつと少しずつ価値が減ってしまうなら、貯め込んでおくより、今のうちに使ったほうが得だよね」と考える人が増えるわけです。その結果、お店での買い物や投資が増え、経済が活発になることが期待できます。
昔の成功例:オーストリア・ヴェルグルの取り組み
1930年代、世界が不況(経済がすごく悪くなった時期)だったとき、オーストリアの小さな町「ヴェルグル」で減価通貨が実験的に使われました。この町では、時間とともに価値が減るお金を配ったところ、人々は早く使おうとして町の中でお金がよく回り、失業率が下がったり、道路や橋が整備されたりしました。
けれど、この取り組みはお国の中央銀行からストップがかかり、ほかの場所に広がることはありませんでした。また、この頃は紙のお金で減価を管理するのが面倒で、続けるのが難しかったのです。
今も行われる「消費期限つきクーポン」の問題点
最近でも、不景気になったときに政府が「お金を使ってもらうためのクーポン」を配ることがあります。期限があるクーポンなら、みんな期限内に使おうとして消費が増えます。ですが、紙のクーポンをたくさん配るには印刷代や管理コストがかかりすぎる問題がありました。
デジタル通貨で解決できること
ここで役立つのが「デジタル通貨」です。スマホやネット上で扱えるお金なら、減価通貨の仕組み(たとえば「1ヶ月ごとに価値が1%ずつ減る」など)をプログラムで自動的に管理できます。紙でスタンプを押す手間や印刷費がいらず、不正をするのも難しくなります。
デジタル通貨のメリット
管理が楽:コンピューター上で価値を変化させられる
コストが安い:紙のお金やクーポンを印刷・配布する必要なし
不正がしにくい:データを使って取引履歴(だれがいつどこで使ったか)をしっかり記録
カスタマイズしやすい:減価のスピードや期限を自由に調整できる
減価通貨と普通のお金を両方使うとどうなる?
減価通貨だけだと、将来のためにお金を貯金するのが難しくなります。そこで、普通のお金(法定通貨)と併用するといいかもしれません。
消費と貯金のバランス:減価通貨は短期的な消費や投資を促し、普通のお金は将来への貯金に使える
地域活性化:減価通貨を地域限定にすれば、そのエリアでお金がたくさん回り、地元のお店や生産者が元気に
格差解消:お金を貯めにくい仕組みによって、お金持ちだけがますますお金をためこむ状況を少し改善
経済の安定化:異なるタイプのお金があると、どこかで問題が起きても全体への影響を減らせる
残る課題
もちろん、いいことばかりではありません。
貯金がしにくい:将来のためにコツコツお金を貯めるのが難しくなるかもしれない
デジタル機器が必要:スマホやパソコンがない人や、ネット環境がない人は困ってしまう
心理的なハードル:価値が減るお金なんて信用できるの?と感じる人がいる
こうした課題をどう解決するかは、今後の研究や実験にかかっています。
おわりに
減価通貨というアイデアは、昔からあったものの実用化が難しい面もありました。ですが、デジタル時代になった今、そのハードルは低くなってきています。
お金が減るなんて不思議に思うかもしれません。しかし、この仕組みで人々がお金を早めに使うと、お店が売上を伸ばし、会社が新しい挑戦をしやすくなります。地域や社会全体が元気になるきっかけにもなり得るのです。
将来、減価通貨とデジタル通貨がうまく組み合わされ、社会のさまざまな問題を解決する手段として役立つ日がくるかもしれません。お金の形が変わることで、私たちの暮らし方や社会のしくみもより豊かに、柔軟になっていく可能性があります。
デジタル通貨の登場により、「貨幣」が社会をより良くする可能性がありますよね。