ざんねんなマスク選び

　私のnoteでは、毎回、マンガや小説、イラストなどを紹介しているが、今回は異質な記事です。私の知識をフル稼働して書いたが、知識不足で誤解を招くような箇所があるかもしれない。ご容赦ください。

家庭用マスクは、実は「雑貨品」扱いになっている。

　2021年1月20日の朝日新聞デジタルで、こんな記事を見つけた。

　ドイツのメルケル首相は1月19日、各州首相との会議で、新型コロナウイルス対策の強化で合意した。買い物時や公共交通機関では布マスクの使用を認めず、医療用マスクの着用を義務づけ、企業には可能な限り在宅勤務を求める。
……今後、全ての市民に可能な限り自宅にとどまるよう求めたうえ、店や電車・バスなどの中では、米国の規格「N95」に相当する欧州規格「FFP2」やサージカルマスクなど医療用マスクの着用を義務化する。

　というものだ。
　マスクに関する知識が乏しい人は、
・米国の規格「N95」に相当する欧州規格「FFP2」ってなんだ?
・サージカルマスクってなんだ?
　と、思うはず。
　そこで、日本のマスク事情をひもときながら、医療用マスクについて詳しく解説する。日本でも、ドイツ同様、新型コロナウイルスの感染拡大で医療用マスクの着用を義務化する日がくるかも知れない。

「医療用マスク」とは、簡単にいうと医療現場で使われているマスク。私たちが普段使用しているマスクは「家庭用マスク」である。
　家庭用マスクの種類には
①ガーゼマスク
　・主に綿織物を重ね合わせたマスク。
②布マスク
③ポリウレタンマスク
　・通気性が高いウレタン製マスク。
④不織布マスク
　・プラスチック繊維を織らずに、絡ませたり接着したりして結合させ　　
　　たマスク。
　
　などがある。
　家庭用マスクは、実は「雑貨品」扱いになっている。医療用具ではない。そのため国が定めた性能についての検定規格がなく、自由につくれる。パッケージの商品表示は、全国マスク工業会などによる「マスクの表示・広告自主基準」に任せている。
　表示自主基準を見ると、家庭用マスクの「対象」としての項目は、「かぜ・花粉・ホコリ等」としている。
　そして、下記の医薬品的な効能・効果の標榜を禁じている。
1）　「疾病の予防、治癒効果」「薬理効果」の表示。
2）　「具体的なウイルス、菌の名称」の表示。
3）　「物理的な性能」を記載する場合にあっても、「具体的なウイルスや菌の名称」
　――の表示は禁止されている。
「ウイルス、花粉を99%カット」などとパッケージに書かれているものを見かけるが、このような捕集効率を数値表示する場合には、試験方法や試験機関などの根拠を表示し、その際の数値表記は「99%」との表示にし、「99.99%」等の99%を超える表記は不可としている。
　マスクに「99%」の捕集効率が書かれていても、統一した検定規格がないため、各メーカーごとに試験方法、試験期間も違い、一概にマスクを捕集効率の数字だけで比較・判断するのは難しい。
※捕集効率//流入する空気中の粉じんを補足する割合。
　マスクは捕集性能を上げようとすると通気性が悪くなる。不織布は通気性が悪いが、捕集性は高い。ただ、不織布は性能幅があり、家庭用の不織布マスクはスカスカのものも市販されている。

↑国立研究開発法人「理化学研究所」、豊橋技術科学大、神戸大の研究チームは、マスクの素材ごとのフィルター性能と通気性をスーパーコンピューター「富岳」を使った実験で計測した。それを表にしたものが上記である。

医療用「サージカルマスク」とは?

　家庭用マスクの対象は、「かぜ・花粉・ホコリ等」であり、私たちが新型コロナウイルス対策でマスクを選択をする際、「どれを選べばいいかわからない」となるのだ。
　さらにややこしくしていることがある。日本の場合、「医療用マスク」にも国が定めた性能についての検定規格がないことだ。

　米国では米国試験材料協会（ASTM）による医療用マスク標準があり、それをパスしないものは医療機関への販売は事実上できない。ヨーロッパでも同様に、EN規格がある。EU（ヨーロッパ連合）域内における統一規格だ。

　日本の医療現場では、医療用マスクの公的な性能規格が存在しないため、米国の規格をクリアした医療用マスクなどを使っている。それが医療用マスク「サージカルマスク」だ。不織布が使われていて、見かけは家庭用の不織布マスクと同じ。
　サージカルマスクには、紐タイプと耳に掛けるタイプがある。私たちがテレビドラマや映画の手術シーンで、紐を頭の後ろで結んだマスクをしている医師を見るが、この手術室などで使用するのが紐タイプのサージカルマスク。OPマスクともいう。長時間の使用でも耳の後ろが痛くならず、落下防止にもなるため、手術室やクリーンルームで使用されている。
　もう一つが看護師などが使用している耳に掛けるタイプ。素早く脱着ができるメリットがある。病院を訪れると医療関係者がしているのを見るはず。
　ネットで販売されていて、日本でもサージカルマスクを愛用している一般人は多いはず。
　このサージカルマスクは使い捨てだ。マスクは時間がたてばたつほどウイルスなどが付着して汚れてくるため、頻繁に交換することが必要だ。医師は診察日には1日平均20枚ほどマスクを取り替える例もある。

　サージカルマスクの着用目的は次の2つが挙げられる。
●着用者（医療従事者）の呼気中に含まれ排出される感染性微粒物質などから患者を守る。
●着用者が血液・体液由来の病原体の被曝による感染リスクを軽減する。

　米国試験材料協会（ASTM）では、サージカルマスクの性能条件を定めており、それぞれ「レベル１」「レベル２」「レベル３」に分類される。

● 細菌ろ過効率（％）【BFE】Bacterial Filtration Efficiency
　細菌を含む、平均約3μm（マイクロメートル）の粒子がろ過（ブロック）された率を示す。花粉や咳・くしゃみに伴う水分を含んだウィルスの飛沫（ウィルス単体ではありません）が対象となる。
●微粒子ろ過効率（％）【PFE】Particle Filtration Efficiency
　中央径平均約0.1μmの微粒子がろ過（ブロック）された率を示す。
●呼気抵抗（㎜H₂O/㎤）【⊿P】
　呼吸のしやすさを示す。
●液体浸透耐圧（㎜Hg）【FR】
　液体（血液等）がマスク本体を直撃した場合、どの程度の圧力にまで耐え得るかを示す。
●生体適合性（皮膚刺激性）　　
　マスク装着中に顔面に与える刺激性の強さを示す。

　サージカルマスクは、家庭用マスクと違い厳しい統一規格をクリアしている。だからこそ、ドイツのメルケル首相は、新型コロナウイルスの感染を防ぐために「布マスクの使用を認めず、医療用マスクの着用を義務づける」としているのだ。

　ただ、サージカルマスクにも弱点がある。
「細菌ろ過効率」や「微粒子ろ過効率」などは、フィルター部分の性能であって、正しい着用をしないと効果が低減する。つまり、医療用マスク「サージカルマスク」でも、隙間が多い着け方をしていては十分な効果が出せないのだ。マスクが顔面に密着せず、鼻梁周り、両頬周りに隙間がてきていれば、そこからウイルス飛沫が外に漏れたり、空気中に漂っているウイルス飛沫を吸い込むことになる。
　サージカルマスクの機能をいかすには、着け方が重要なのだ。
　サージカルマスクには、鼻梁部があたる部分にはワイヤが埋め込まれていて、マスクが鼻に沿う形となって隙間を少なくする工夫が施されている。

厚生労働省推奨「正しいマスクの付け方」↓

米国の規格「N95」に相当する欧州規格「FFP2」とは?

　もちろん、正しい装着をしてもサージカルマスクは、顔面への密着性がどうしても不十分になる。そこで注目されているのが「N95」とか「N95マスク」と呼ばれるものだ。
　正式にはマスクではなく微粒子レスピレータという。米国の労働安全衛生研究所（NIOSH）で定められた防塵マスクの規格で、種類（グレード）があり、そのひとつが「N95」なのだ。
　そして、最初に引用した朝日新聞に書かれている「FFP2」とは、ヨーロッパEN規格のFFP2クラスの微粒子レスピレータのこと。米国規格のN95や日本検定規格の防塵マスクDS2に相当する種類だ。

　微粒子レスピレータは、他のマスクより格段に高いろ過性能を有するフィルターを使用し、しかも顔面に密着するエア漏れしない設計になっている。顔面への密着性が高い。
　2020年４月、中国で新型コロナウイルスの感染防止のため、N95の微粒子レスピレータを着けて体育の授業に参加した中学生３人が相次ぎ死亡。その原因は微粒子レスピレータが呼吸を妨げたためとの指摘が出ている。これほど密着性が高い。
　微粒子レスピレータとして販売されているものには、大きく分けて3タイプある。カップ型、二つ折の折りたたみ式（縦型と横型があります）、三つ折の折りたたみ式の 3 タイプ。
　用途としては、医療機関（結核病棟等）に限らず核燃料廃棄施設、アスベスト等の粉塵作業現場、鉄粉が生じる工場、その他病原性微粒物質の体内侵入リスクが高いところで使われている。
　テレビを見ると、新型コロナウイルスの患者対応をしている医療従事者や救急救命士が装着しているのをよく見る。
　価格の単純比較ではサージカルマスクは一般マスクより少し高めで、微粒子レスピレータは格段に高価になる。サージカルマスクは、しっかり装着しても不安が残るが、微粒子レスピレータは空気感染のリスクとなる飛沫をほぼ100%ブロックする。

※「N95」をネット検索すると「KN95」も出てくる。が、中国国家安全生産監督管理総局（SAWS）が検査をし、米国におけるN95規格と同様の基準とされるGB2626-2006規格をクリアしたマスクで、そのうちGB19083‐2010の番号があるものが医療用規格。

　以上、説明不足の箇所が多々あるが、マスク選びの参考にしていただければ幸いです。