法曹が会計士試験に合格するために行った勉強の全て その1
前回の投稿で私の令和3年度会計士試験(論文)の答案を開示しましたが、続いては私が行った勉強を公開したいと思います。
法曹は「司法試験合格者」も含む定義としてご覧ください。
最初に言わせてください。
会計士試験は、やり方さえ間違わなければ、高確率で法曹は合格できます。
その意味で極めてお得な試験です。
1.法曹が「小汚く」合格するための戦略
私はとにかく合格したかったので、美しい方法は取りませんでした。とにかく小汚く、小賢しい方法を取りました。
それは「免除されている企業法と民法をわざと受験して法学素人の他の受験生に圧倒的な点差をつけ、逆に点差を付けられる会計学や計算科目のマイナスを補って、総合偏差値52を堅持する」という作戦です。
法曹で会計士試験の受験を考えている方は、過去問の企業法問題を見てください。司法試験勉強のときに「基礎問題」で出たような内容が本試験問題として出されています。
免除科目は受けなければ得点率52(偏差値52ということ)です。しかし法曹は、企業法・民法で確実に52点を超過できるはずですので、その分だけ計算力が劣っていても総合得点で勝ち切ることができるのです。
【補足】私の勉強開始時の目標得点と、実際の得点
会計学(午前:管理会計):48 ⇒ 43
会計学(午後:財務会計):48 ⇒ 52
監査論:52 ⇒ 54
租税法:52 ⇒ 57
企業法:58 ⇒ 73
民法:58 ⇒ 57
総合偏差値:52 ⇒ 55
つまり、
・監査論・租税法はなんとか偏差値50~52を狙い、
・会計学は-4(実際は300点満点なので-12)にとどめ、
・総合偏差値52に足りない12~14を企業法・民法をそれぞれ60狙うつもりでカバーする
作戦です。
実際は監査論・租税法でも貯金ができ、会計学も管理会計だけが大幅に足を引っ張りましたが、財務会計で奇跡的に持ちこたえました。
令和3年の合格者は1300人なので、9か月800時間の勉強期間であれば十分な結果で満足しています。
※なお、これなら、会計学は足切りギリギリの得点率(偏差値)40だったとしても総合偏差値51.5を超えて合格します。
つまり、法曹は計算力が足切りさえ超えていれば合格できるのです。
このことをみんなに知ってほしい。
2.普通の学生と同じ勉強アプローチはおすすめしない
まず法曹は短答式試験が免除されており、短答を受ける必要がありません。
このことはとてつもないアドバンテージなのですが、論文式試験ではしっかりと計算科目(いわゆる電卓を猛スピードで叩く必要がある科目)が課されます。
はっきりいって、短答式試験を突破した猛者の計算力と、これまで数字に縁が遠かった(我々)法曹の計算力には、雲泥の差があります。
会計士試験界隈では「計算を制する者が試験を制す」と言われています。
確かに私も実際に受験してみて感じましたが、計算でしっかりと得点できる土台があれば、とても与しやすい試験だと思います。
しかし法曹はこれを真に受けないでください。
世の中には「法曹向けの会計士試験合格術」は出回っていませんし、一般的でもありません。ですからつい、上記の金言を信じてしまいます。
今回私が運よく合格できたのは、「計算は偏差値45(下位30%)を維持できればいいから、最低でもそれだけの計算力は付けよう」と割り切ったからです。
法曹は「計算で死ななければ、試験を制す」だと心得てください。
(しかし「計算で死なない」レベルに持っていくのに数百時間を要するのですが・・・)
3.予備校は申し込んだ方がいい
私はLECを選びましたが、予備校は申し込んだ方がいいです。
理由は3つあります。
①多くの受験生は予備校に通っており、論文式試験自体は相対評価の試験であるため「みんなが知っている論点」を落とすのがリスク
②法曹はハードワークであり、働きながら勉強を続けるためには何かをペースメーカーにした方がいい
③計算問題はとにかくアウトプットが重要であり、本番形式の答練を数多くこなすことが極めて大事
最近は「司法試験合格者コース」を置いている予備校も多いです(LECもある)から、そのコースを申し込むのがいいと思います。
だいたい40万くらいします。私は予備校のテキストと答練、全国模試以外は何もやっていません。
ですので「たった40万で公認会計士試験合格の肩書が手に入る」と考えれば、決して高い買い物ではないかなと思います。
4.具体の勉強法と、振り返って「やっておけば良かった」と思ったこと
法曹の方が一番知りたいのは、「で、それぞれの科目はどうやって勉強すればいいのよ」という点だと思います。
法曹の方は読解力があると思うので、最低限のポイントに絞って書きます。
また、勉強術は割愛します。司法試験に合格しているので、皆さんそれぞれ自分にあった勉強術をお持ちだと思います(弱点ノートを作る、読んで覚える等)。そこには踏み込みません。
(1)財務会計
いわゆる「簿記」と「財務諸表論」で構成されていますが、法曹的には「計算」と「理論」と考えた方がいいかと思います。
計算とはまさに、×2年度の貸倒引当金はいくらか、等のもの。理論とは、「なぜ減損損失はのれんに優先的に配分されるか説明しなさい」といった文章題です。
予備校のテキストの順番もそうですが、簿記(計算)⇒理論⇒総合問題という順番で学習します。
計算から始まりますので、最初は「なんでこんな計算ルールなのか説明せえよ。何なんもう。マジでこれ暗記するの??」という感じで2か月ほど地獄です。
本来であれば、一つ一つ計算の根拠・ロジックを教えた方が良いのでしょうが、とにかく範囲が膨大であることから、まずは「慣れろ」といった風です。ここは耐えてください。
そして「理論」に入ってからは法曹の方は水を得た魚になります。
なるほどだからああいう計算なのね、とわかり始めて、ここから一気に楽しくなります。
会計処理・会計学は極めて合理的です。法曹との相性はいいはずです。
そして総合問題に入ってから、計算力で全く太刀打ちできないことを知り、絶望すると思います。特に「連結」と言われる分野は恐ろしく複雑で、2つの世界を行き来するようなイメージです。
法曹的には、一方で刑事裁判を行いつつ、一方で民事裁判を行っているような、それぞれの世界で完結した論理領域を繋げていくことが求められます。ここが財務会計最大の山場です。
計算は深追いしない方がいいです。予備校の答練では「Aランク問題」と言われる「絶対取らないといけない平易な問題」であっても、法曹は半分は落としてもいいです。残り半分弱をきちんと取れれば大丈夫です。
一方で、理論は「理論問題集」というような、いわゆる「論証」が整理されています。司法試験で「論証」を自分なりに覚えた人であれば、これはかなり得意だと思います。
なお、それでも財務会計の「計算」はまだ当てられます。次に説明する管理会計の「計算」はレベルが一つ違います。
【補足】財務会計:私がもう一度受験をするなら
連結・事業分離の分野のテキスト・講義をしっかり聞きます。
私は自分の勉強計画の進捗を重視するあまり、連結・事業分離あたりの講義を「つまみぐいしながら」受講(といっても通信ですが)しました。
これは後で死ぬほど後悔しました。こここそが頻出分野であり、論文式試験では大問1問が丸々連結です。はじめてから知っていれば、絶対に手を抜かなかったと思いますが、完全に油断していました。
(2)管理会計
管理会計は、原価計算と言われるものと管理会計と言われるものからなります。
法曹最大の山場は原価計算です。膨大な計算手順の先にある数値に、1円単位で当てる必要があります。
私は最後まで原価計算は苦手でした。これはとにかくアウトプットで鍛えるしかありません。
私も「答練」を全てこなした後の直前期は、LECの「プレ答練」という、基礎的な問題を集めた「ミニ答練」みたいなものを何度も何度も繰り返しました。
それでも、本番では数十か所ある計算のうち「4か所」しか当たりませんでした。
管理会計にも「理論」はありますので、法曹は「理論」で守り、「計算」で致命傷を負わない戦略でいくしかないです。
管理会計の計算を当てようとするにはあまりに時間が少なすぎます。
【補足】管理会計:私がもう一度受験するなら
答練や問題集で「Bランク以上の計算問題」は何度も復習したりしません。
とにかく「Aランク」の計算問題、それも極めて簡単なものを確実に計算できることだけを目指します。
その上で、「理論」にもっと時間を割いて、理論問題集(論証集)を完全暗記するくらいまで高めます。
とにかく私は「Bランク以上の計算の解答導出の美しさと『これ出来たらカッコええやろな』という誘惑に負けて時間を費やしすぎ」ました。
監査論・租税法・企業法・民法はその2以降で触れます。